握られた手
船が迎えに来てくれるっていう場所に行く途中、カノンノは、オレたちが空から降ってきたんだと話してくれた。
光に包まれて、ふわふわ降りてきたんだって。
「びっくりしちゃった。人が降りてくるんだもん」
フィズの手を握ったまま、そう言って笑うカノンノ。
オレは無意識に、片方の手で握ったフィズの小さな手を、ぎゅっと握りしめた。
「あ、魔物…!」
ふいに立ち止まったカノンノの見つめる先には、道を塞いでいる魔物の姿。どうやらどいてくれそうにない。
「2人は私の後ろにいてね」
そう言って、カノンノは大剣を取り出して一歩前に進み出た。
戦えるのか…。
「フィート、私たちも、行きましょう」
「ああ、そうだね」
フィズの言葉に頷いて、一振りの剣を取り出す。
「カノンノ、お手伝いします」
「え?」
二丁の銃を構えたフィズがカノンノの横に並ぶと、驚いた表情を浮かべていたカノンノも、すぐに笑みを浮かべた。
「うん!じゃあ3人で頑張ろう!!」
「よし。じゃあ、行きますか」
援護射撃はフィズに任せて、オレとカノンノは走り出す。
体が覚えてるっていうのかな。
剣の使い方も、戦い方も、覚えていないハズなのに、できた。
それはフィズも同じだったみたいで、すぐに戦闘は終わった。
「2人とも戦えるんだね。どこかのギルドに入ってたのかな…」
「うーん…違うような…気がするようなしないような?」
「…わかんないですね」
フィズも考える素振りを見せたけど、すぐに首を横に振った。
そっか、と少し残念そうに笑ったカノンノは、また歩き出した。フィズの手を握って。
「…カノンノ、悲しい、ですか?」
「え?」
ふいに呟いたフィズに、足を止めてカノンノが振り返る。
オレはただ黙って、不安そうなフィズの横顔を見つめた。
「なんだか、カノンノの笑顔が元気なくなった気がします。…私とフィート、何か変なこと言いましたか?」
「そんなことないよ!!ごめんね、私は大丈夫だよ」
慌ててカノンノが首を振って、にっこり笑う。
だけどフィズの表情はちゃんと晴れなくて、なぜかオレまで、少し不安な気持ちになった。
「なあ、カノンノ…記憶がないことは、変なことなのかな…?」
オレの言葉に、カノンノが目を見開く。
だけどすぐにまた、大きく首を振った。
「ううん。全然、変じゃないよ。ただ……悲しいことだなって、思っただけなの」
「悲しい…?」
フィズが首を傾げる。
「うん…。だって、今までのこと、全部忘れちゃうのは、悲しいことだもん。嬉しかったこととか、たくさんあったはずだから…。だから…」
絶対、思い出そうね。
そう言って、カノンノはフィズの手と、オレの手をぎゅっと握った。
その不思議な暖かさに、オレは懐かしい感じを覚えた。なぜかはわからないけれど…。
ひとりじゃないんだ、って思ったんだ。
その手の暖かさ