いよいよ上陸です!! オカマが去ったあと、オレはビビに連れられて船内へ。 向かい側の椅子に座ると、ビビが口を開いた。 「えっと…イヴさん、どこまで理解してる?」 「B・Wが悪い奴らで、ビビがアラバスタの王女様で、国を救うためにこの船に乗ってる…ここまでは完璧」 とりあえずは理解してます。 そう答えたら、ビビはちょっと悩んだような仕草を見せた。 「私、クロコダイルの話、してなかったかしら…」 「クロコダイル?ワニ?」 首をかしげたら、しまったというようなビビの顔。 それからすぐに真剣な顔になって、テーブルの上で、小さく拳を握った。 「クロコダイル…それが、B・Wの社長、つまりボスよ。彼は海賊だけど、アラバスタの英雄なの。”王下七武海”って言って、世界政府に雇われた海賊。“七武海”が宝目当てで海賊を潰すのも、“海軍”が正義のために海賊を潰すのも、国の人にとってはありがたいものなのよ」 「なるほど…。だから誰も、クロコダイルが黒幕だってことに気づかないわけだ」 世界政府ってやつも、アラバスタも、クロコダイルは味方だって思ってるというわけか。 なかなか難しい状況だな…。 「じゃあ次に、B・Wのシステムのことについて説明するわね。まず、頂点にはクロコダイル。これが“Mr.0”。そして“Mr.0”の指令を受けるエージェントが12人と1匹いるの。彼らは全員『Mr+ナンバー』の名を持っていて、その力に見合った女性のエージェントとペアを組む」 ビビはそう説明しながら、わかりやすいようにと紙に図を書いてくれた。 エージェントの中でもMr.5以上は“オフィサーエージェント”とよばれてて、そのほとんどが悪魔の実の能力者。重要任務の時にしか動かないらしい。 そしてそれ以下がフロンティアエージェント。社員を率いて、偉大なる航海の入り口で資金集めをするのが仕事。ちなみにビビもこのフロンティアエージェントだったらしい。 「じゃあ…さっきのがMr.2って言ったら………めっちゃ強いんじゃんか」 「ええ。だけどオカマだからペアはいないって聞いたわ」 「………」 さすがオカマというべきか。 まああんな奴とペア組みたいって奴はいないだろう。いたとしたら是非とも顔が見てみたい。 「わかったかしら。これが秘密犯罪会社B・Wのシステム。それで、アラバスタ王国乗っ取り作戦は、B・Wの最後の大仕事。だから……」 「ああ…オフィサーエージェント全員、出てくるってことだろ?」 「……そういうことになるわ」 ビビが重々しく頷く。 参った…としか言えない。 どうやらとんでもない大事件(だって国1つ救わなきゃいけないんだし)に巻き込まれてしまったようデス。 運が良いのか悪いのか…。 「ごめんなさい、イヴさん…。私がいたばっかりに…」 「そんなこと考えるなよ。ビビのせい、なんて思ってないし。もちろんこの船に乗ってる奴ら誰も、お前が悪いとかそんなこと考えてないと思うよ」 「イヴさん……」 困ったような、泣きそうな顔をしたビビに笑いかけて、オレはパンパンと自分の頬をたたいた。 ここでオレが悩んでどうする。 今、一番つらいのはビビなんだから。この船に乗って、“仲間”として見られるなら、オレは、ビビを助ける1人の“仲間”として全力で戦う。 「説明、ありがとな。………なんか外が騒がしいし、行くか」 「……うん!!」 やっと笑ってくれたビビと一緒に甲板へと出る。 そこには、これギャグじゃないのかってぐらいの光景が待っていた。 「ニ゛ャーーー!!」 「4日ぶりのメシだぁーーー!!!」 「メシだぁーーーー!!」 海から出てるのはでっかい化け猫。横でビビが「海ねこ!!」って叫んでる。 そしてそれを見て叫んでるのが、ウソップ、チョッパー、ゾロ、船長の4人。前者2人は怖がってるけど後者2人は戦闘体制。 「逃がすんじゃねえぞ!!確実に仕留めろ!!」 サンくんが叫んでる。 だけどその気迫に押されたのか、猫はバック。 「うお、引きやがった!!」 「船バックバック!!」 「できるかぁ!!」 ぎゃいぎゃい騒ぐ中、ナミだけは冷静。 さすがナミ。そう思ってたら、いつのまにか横にいたビビが鉄の棍棒で船長たちを殴ってた。 どこから出したんだそんな物騒な代物。 「ビビこのやろ何すんだぁ!!」 「食べちゃ駄目なの!!アラバスタでは、海ねこは神聖な生き物だから…」 「あれが神聖な生き物って……」 「海にはいろいろいるんだな…」 チョッパーと2人、呆然と海を見つめる。 ナミが言うには、風と気候が安定してきたらしく、もうアラバスタの気候海域に入ったらしい。 「海ねこが現れたのもその証拠」 「後ろに見えるあれらも…アラバスタが近い証拠だろう」 ゾロの言葉に、船の後方を見る。 するとそこには、何隻もの船が集まってきていた。 「なんだあれ…もしかしてあれ全部B・W!?」 「社員達が集まり始めているんだわ…!!」 あれ全部社員って…どんだけいるんだよ。 オレは思わず拳を握り締めた。 「オフィサーエージェントの部下たちよ」 「敵は200人はかたいって訳だ…」 船の多さにウソップが半パニックになって砲撃しようとか言い出してる。 「バカ、気にすんな。ありゃ雑魚だ」 「おお、強気ですねーゾロ」 ヒューと口笛を吹いたらにやりとゾロが笑った。 その腰の刀も、ただの飾りじゃないってわけだ。 「本物の標的を見失っちまったら終わりだぜ。こっちは9人しかいねえんだ」 サンくんがタバコをふかしながら言う。 確かに…標的を絞らないことには多勢に無勢。オレたちに勝ち目はない。 「―――とにかく、しっかりしめとけよ」 左腕に包帯をまきつけながらゾロが言う。 それに頷き、オレも自分の腕に同じように包帯を巻きつける。 「なるほど。これを確認すれば、仲間を疑わずにすむものね」 ナミが感心したように包帯を見る。 「なあ、そんなに似ちまうのか?変身されちまうと…」 「そりゃもう似るなんてもんじゃねえ。同じなんだ」 1人船内にいたからオカマに会わなかったサンくんの問いかけに、ウソップが力説する。 「あんな奴が敵だなんて戦いにくそうだなー」 「ああ。今回の敵は謎が多すぎる。うかつに単独行動も取れねえな」 単独行動か…。気をつけよう。 オレはそう思いながら、一丁の銃を腰のベルトに差した。 「ん?イヴ、その銃どうしたんだ?」 「造った」 「へ〜、凄いなお前」 目を丸くする船長。 ウソップが持ってた材料を使って手作りしてみた銃は、なかなかの出来ばえだ。 足手まといにはなりたくないからな。 「港に近づいてきたぞ」 「西の入り江に泊めましょう。船を隠さなくちゃ」 近づいてくる港を見て、みんな、船の真ん中に集まる。 「よし!とにかく、これから何が起こっても、左腕のこれが――」 みんなで、包帯を巻いた左腕を前に突き出す。 「仲間の、印だ!!」 船長の言葉に、それぞれ大きく頷く。 そして再び、目的地であるアラバスタを見据えた。 「じゃあ、上陸するぞ!!」 何が起こるかわからない戦い。 どんなことが起こってもおかしくない戦い。 「メシ屋へ!!あとアラバスタ」 「「ついでかよ!!!」」 そんな状況なのに、こんなにも落ち着いた気持ちでいられるのは、きっと仲間が此処にいるからなんだって、オレは1人で納得していた。 ●● |