百聞は一見に如かず オレがこっちの世界に来て迎えた初めての朝。 昨日の夜は宴を開かれて、オレは当然のごとく質問攻めにあった。ナミとビビ、そしてチョッパーの質問の量はハンパなかった。おかげで寝不足です。 錬金術のことも一から説明、ついでにエド、アル、ウィンリィのこと。ピナコばあちゃんのこと。もちろん機械鎧のことも説明した(詳しく言えば説明させられた)。まあ最後の1つの説明は楽しかったけどな。 それから、とくに意味はないけど、ルフィのことは船長と呼ぶことにしてみた。あ、あとサンジもサンくんって呼んだら喜んでたからそれに決定。ついでに、カルーはカルガモっていう鳥だそうだ。走ったら速いんだって(チョッパー翻訳)。 そして、この世界についてわかったことはというと……。 まず最初に、この世界は大海賊時代といって、世界中の海賊達がひとつの財宝を捜し求めているということ。その財宝は、かつての海賊王、ゴールド・ロジャーの遺したといわれているもので、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」と呼ばれているらしい。なんでも世界中の宝だとかなんとか。 次に、オレたちが今いる海は、「偉大なる航海(グランドライン)」。ここにそのワンピースがあるっていわれてるもんだから、世界中の海賊達は一斉にここに集まってきている。もちろんこの船も。 最後に、オレの世界と決定的に違うこと。それが、 「悪魔の実?」 機械鎧のことを説明したとき機械オタクだとカミングアウトしたオレは、ウソップと意気投合。 ウソップが狙撃用の玉を開発するって言うから着いてきたオレに向かって、知らないから教えといてやるよ、という得意げなウソップの言葉に、オレは木箱の上で首をかしげた。 「食べ物か?」 「ああ。その実を食うと、特殊能力を手に入れることができる。ルフィとチョッパーが能力者だ」 「能力者って?」 「悪魔の実を食べた奴らをそう呼ぶんだ。ルフィはゴムゴムの実を食って、チョッパーはヒトヒトの実を食った」 ゴムゴムに、ヒトヒト? 変な名前だな〜。 「で?実際何ができんの?」 ゴーグルをつけて手元の玉をいじるウソップに聞くと、ウソップはゴーグルをはずして人差し指をたててみせた。 「まずだな…ルフィはゴム人間だ」 「…………お疲れ」 「ぅおおおいっ!なんだその冷めた態度は!せっかくオレ様が解説してやろーと思ったのに!!」 「いや、悪い……ツッコミどころがわからなかった」 「ツッコミとかいらねえから!イヴてめぇ信じてねえだろ!」 だって……ねえ? いきなり、我らが船長はゴム人間です!なんて言われても冗談にしか聞こえないっしょ。 地団太を踏んで怒鳴るウソップをスルーして、オレは甲板へ。ビビとカルーが海を見ているその先にある船首に、寝そべっている船長を発見。 「せんちょー」 「んー?なんだー?」 寝ていたのか、のそりと起き上がって伸びをする船長。 「ゴム人間ってなんだ?」 単刀直入。 無視されたことに腹をたてたのか、後ろからウソップが卵を飛ばしてきたのを避けながら聞くと、船長は楽しそうに笑った。 「しししっ!なんだイヴ、知らねーのか!」 当たり前。 そう答えようとしたとき、ぐいーんと”何か“が伸びた。 「!!!」 その“何か”がすぐオレの横を通った瞬間、船首にいた船長がいつのまにかオレの前に立っていた。 「へ?」 「どーだ!これがゴムゴムの実の能力だ!」 にししっと笑う船長。 なんだ今の……。腕が、伸びた…!? オレは状況を把握できなくてぽかんと船長を見上げた。 と、そのときベチャっと後頭部に冷たい感触が。瞬間、息を呑むビビとカルーの気配。 「あ゛……」 「ウソップ……てめぇ……」 まだ卵なげてたのか……! つーか今オレ船長と話してただろ!空気よめよこのドアホ!!ドアホってなんだこのドバカ!!なんだてめぇ!やるかコノ! ぎゃーぎゃーわーわー騒ぐオレたちと大爆笑する船長の声に、船内からナミ、チョッパー、サンくんが顔を出した。 ゾロは甲板の隅っこで寝てる。よく寝てられるな。 「うっさいわよあんた達!!」 「イヴさん、早く拭かないと!!」 ナミの怒声と、あわててタオルを持って走ってくるビビ。 オレはすぱーんとウソップにとび蹴りをくらわして、ビビからタオルを受け取った。 ドガッシャーンと派手な音を立てながら吹っ飛んだウソップ。 まぁ、死んじゃいないだろ。 「ウソップーーーー!!」 「クエーーーー!!」 パニックになりながら走っていくチョッパーとカルー。 オレはタオルで髪を拭きながら、まだ笑っている船長を見た。 「で、なんだ、今の?」 「ん?これか?」 「そう、それ」 ビヨーンと腕を伸ばしてみせる船長。まじで伸びてる。手品とかじゃないんだよな? 「ルフィさんはゴムゴムの実を食べた能力者だから、体がゴムなのよ」 「へぇ〜……ほんとだ、伸びる伸びる」 ビビの言葉に頷いて、ためしに船長の頬をひっぱってみると、びよーんと伸びた。ホントにゴムだ。 ………ん?てことはー…… 「ウソップ、疑って悪かった」 「遅えよ!!」 「まぁ笑って許せ」 オレたち仲間だろー? そういいながらウソップの背中をばしばし叩くと、ウソップは渋々ながらも許してくれたみたいだ。 「あれ?じゃあチョッパーは何の能力なんだ?」 さっきウソップがチョッパーも能力者だって言ってたけど。 「オレはヒトヒトの実を食べたんだ。だけどヒトじゃないからな!」 「………………あ、だから二足歩行なのか」 なるほどー。 普通に考えたらトナカイって二本足じゃ歩かないよな。納得納得。 1人頷くオレに、気づくの遅いわよ、というナミの呆れた声が聞こえた。 「能力者ってなんかかっこいいな」 「そ、そんなことねーよぅ!!イヴのばっきゃろー!!」 「嬉しそうですね」 体をくねくねさせながら全身で喜びを表すチョッパー。 口ではああ言ってるけど、バレバレ。 「そうでもないわよ、イヴ」 「?なんで?」 キッチンから出てきたナミ。サンくんもついてきた。 「悪魔の実の能力者は、海に嫌われちゃうの。だから一生泳げない体になっちゃうのよ」 「まじ!?え、じゃあ…船長とチョッパーって泳げないのか?」 オレの言葉に大きく頷く2人。 海賊なのに泳げないって、不利じゃないのか?四方八方海にかこまれてるわけだし…。 「ちなみに、もし落ちたら?」 「サンジくんとゾロが助けるわ」 「イヴちゃんも落ちたら俺がすぐに助けてあげるからね」 にっこり笑うサンくん。 落ちないように気をつけよう。 「…まぁ、話聞いてもよくわかんないでしょ?実際に見たほうがいいわ」 「見る?」 ナミの言葉に首をかしげると、横にいたビビの表情が少しだけ険しくなった。 ……ていうか、なんで皆さんそんなにシーンてなるの? 「安心しな。今から嫌というほど見られるだろうよ」 「起きたのか、マリモ」 「マリモじゃねえ!!」 いつのまにか起きてたゾロの鉄拳を避けて、もう一度ナミに向き直る。 「嫌というほどって……能力者、まだいるのか?」 「ええ。そろそろあんたにも話とかなくちゃね、ビビ」 「うん…イヴさん、今、私達は、アラバスタという王国に向かってるの」 なにやらシリアスモードに突入したようです。 オレはただ黙って、ビビの話に耳を傾けた。 ●● |