誘拐?いいえ、勧誘です




錬金術。
それは物質の構成元素や特性を理解し、物質を分解、そして再構築することで完成する技術。
その基本は等価交換。
何かを錬成──つまり、作りかえるためには、それと同等の代価が必要となる。
だから無から有は作り出すことはできない。
原材料となる物質が必要なのだ。











「──というわけなんです」


正座をしたまま、オレは目の前に座る3人を見る。一応簡単な説明をしてみたけど・・・。

黒スーツが、博識レディ〜とかなんとか言ってる横で、あとの2人は渋い顔。
麦わら帽子に至っては、大口開けて欠伸なんかしてやがる。

・・・まあ、仕方ないか。
オレも初めてエドから教わったときは、ちんぷんかんぷんだったもんな。


「・・・まあ、つまりてめぇは別の世界の人間で、気づいたらここにいた、と」


「あー、うん。そんなとこです。そこだけでもわかってもらえたんなら良かったです」


とりあえず不審者は避けたいもんな。

しっかしなんでオレこんなとこにいるんだろーな。
あっちの世界ではどーなってんだろ。


「なぁお前!その、れんこんじゅつ見せてくれよ!!」


「れんこんじゃなくて錬金!!」


なんだれんこんて。
初めてだぞそんな間違いする奴。

オレはきちんと訂正してから立ち上がり、近くに落ちてた木の棒で砂に錬成陣を描き始めた。

「なんだソレ?」


「これは錬成陣っていって、術を使うのに必要なんデス。───よし」


出来上がった錬成陣の前に膝をついて、陣に両手を当てる。
男3人が見つめるなか、パチパチと化学反応の光がはじけた。
そしてその光が消えたとき、陣の真ん中には砂の城が出来上がっていた。

ふぃー、上出来上出来。


「まあ、こんな感じ」


「すんげえええ!!なんだお前!!すんげえなー!!!」


「は、はぁ・・・どうも」


真っ黒な瞳をらんらんと輝かせて、麦わら帽子がオレの手をとって上下に振る。
その後ろで、黒スーツと腹巻きもポカンとした表情。

よかったー。
こっちの世界でも錬金術使えんのな。
一安心。






「よし!お前、仲間になれ!!」


「はぁ・・・・・・はい!?」


仲間!?なんだ仲間って!?
しかも命令形!?


「ゾロ、サンジ!こいつ、仲間にしよう!!」


「てめぇは急すぎんだよ!」


「俺は可愛いレディならいつでも大歓迎でーっす!!」


おいコラ。
なに両手あげて万歳してんだ黒スーツ。


2人の反応を見た麦わら帽子は、嬉しそうにオレに向き直る。
そして一歩離れたかと思うと、ずいっと右手を差し出した。


「オレはモンキー・D・ルフィ!!海賊王になる男だ!!」


「は?か、かいぞく?」


「ああ!お前は?」


「え?あ、オレはイヴ。イヴ・シナーズ」


ってなに名乗ってんだオレ。
言ってしまってから後悔したけど遅かった。


「よし、イヴ、ゾロ、サンジ!船に戻るぞー!!」


「うわ!?ちょっと待てえええ!!」


ひょいっとオレを肩にかついで走り出す麦わら・・・じゃなかった。えっと、ルフィ。
後ろから2人もついてくる。
黒スーツは相変わらず目からハート飛ばしてるけど。

なんだこれ、なんだこの展開!?
これって誘拐じゃないのか!?


「ちょ、待っ、オレ、は!」


もっと丁寧に走れ!
舌噛んだらどーすんだ!


「なんか言ったかー?」


「だっ、から、オレは」


「あ、あれがオレ達の船だ!」


「話聞けええええ!!」


んでもってスピード上げんな!
ついでに言うと後ろ向きに担がれてるから前なんか見えねーよ!!

あー、なんか後ろでも人の話し声するし。


「ちょっとルフィ!?あんた何拾ってきてんのよ!?」


女の人?


「おう!新しい仲間だ!!」


「だからオレはまだ仲間になるなんて一言も」


「よし、着いたぞ」


「!」


キキィーと音がしそうな止まりかたで止まったルフィは、軽々とオレを降ろした。

足がついたのは、木でできた床。

そして恐る恐る顔を上げれば、そこには麦わら帽子をかぶったドクロの描かれた真っ黒な旗が、風に吹かれて揺れていた。



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