外の世界へ あの後部屋を出た私達は、なんだか忙しそうに走り回る騎士たちを見て、自分達のせいじゃないことを祈った。ちょっと牢屋抜け出しただけで、あんなにたくさんの騎士には追われたくないもんね。 ユーリは、さっきのザギの仕業じゃないかって言ってた。 そして今。 ドアの前には一本の剣。 「…ユーリ、覗こうとしてたでしょ」 「してねーよ」 横に立つユーリに言ったら、即答された。コツンと額をはじかれる。いてて。 エステリーゼが、ドレスじゃ動きにくそうだったから着替えるために部屋に寄ったんだけど、部屋に入る前にこの剣を突き立てた。 「フレンに、会ったら用心するようにって言われてますから」 って、にっこり笑って言うエステリーゼは、ちょっとだけ怖かった。あ、怒ったときのフレンみたいな感じかな。 「お待たせしました」 ガチャってドアが開いて出てきたエステリーゼは、水色のドレスから白とピンクの洋服に着替えてた。髪もおろしてて、なんだか違う人みたい。 「…ふーん」 「あの…?」 「いや、似合わねえなって思って」 「え、そうです……?」 「そんなことないよっ!すっごく可愛い!!」 ユーリって、素直じゃない。絶対可愛いって思ってるくせにー。 エステリーゼは、ありがとうございますってにっこり笑ってからユーリに手を差し出した。 「何、これ?」 「よろしくって意味です」 にっこり笑って言うエステリーゼを一瞬見たあと、ユーリは軽く握手した。…照れてるのかな? そのあとエステリーゼは、ティナもよろしくお願いしますって握手してくれた。 「んじゃ、いくぜ」 「うん!」 「なるほど、これか…」 「女神像…」 「この像に、何かあるんです?」 天使みたいな女の人の像を見上げて、エステリーゼが首をかしげる。 あのおじさんが言ってたのって、これのことかな? 「秘密があるんだと」 「でも……普通の像だよね?」 「ですよね…」 像の周りを見てみるけど、変わったところはない。そしたらユーリがにやりと笑って、女神像の下を見た。 「動かしたら秘密の抜け穴があるとかな」 「これ動くの?重そうだよ?」 「ま、やってみる価値はあるんじゃねえの?」 そう言ってユーリが女神像の台に手をかけて引っ張ってみたら・・・以外と簡単に動いちゃった。 エステリーゼもびっくりしてる。 「……え…本当に……?」 「うわ…まじでありやがった…」 動かした下にあったのは、地下に通じるハシゴ。下を見たけど、暗くてよく見えない。 「ここから外に出られるのかな?」 「保障はないぜ。それよかティナ、落ちるなよ」 「平気ー」 下を覗いてたらユーリに注意された。ここで落ちたら絶対笑われる…。 「俺たちは行くけど、どうする?」 「…………行きます」 少し迷ったみたいだけど、エステリーゼははっきりとそう言った。ユーリが、なかなか勇気のある決断だなって褒めてから、私に先に降りるように言う。頷いてから足を降ろしたとき、エステリーゼがユーリの腕をつかんだ。 「どうした?やっぱりやめんの?」 「いえ…手、怪我してます。ちょっと見せてください」 そう言って、エステリーゼは治癒術を発動した。 ―――トク、ン…… また…音が聞こえた気がする。 どうしたんだろう?なんか、不思議な感じ……。 「…ん?」 「きゃあっ!?」 「ふへっ!?」 エステリーゼの叫び声にびっくりして、今まで考えてたことが一瞬で消えちゃった。 どうしたんだろう? 「あ、悪い…綺麗な魔導器だと思ったらつい手が」 「本当に、それだけです?」 「ユーリ、エステリーゼいじめちゃだめだよっ!」 「いじめてねーよ。…ホントにそれだけ。手、ありがとな」 「……いえ…」 じーってユーリを見てたら、ホントに何もしてねーよって頭を撫でられた。…ホントかなぁ。 「ほら、行くぞ」 「…はーい」 促されて、ゆっくりとハシゴを降りる。 降りる瞬間に見たエステリーゼの表情が、なんだか不安そうだった。 地下にいたネズミみたいな魔物を退治しながら、上に続くハシゴを見つけた。 「うわぁ、眩しい〜」 「あ〜あ、もう朝かよ。一晩無駄にしたな」 見上げたら、青い空。エステリーゼが眩しそうに手を額に当ててる。 周りを見ると、貴族街だった。ここにつながってたんだ…。 「窓から見るのと、全然違って見えます」 エステリーゼが嬉しそうに空を見上げてる。お城の外に出るの、初めてなのかな…?でも、お姫様みたいだし、なかなか外には出られないのかも。 「まぁとりあえず、脱出成功だな」 「うん!」 パチンってユーリとハイタッチ。ちゃんと手を下げてくれるから、気持ちいい音が響いた。 何かが成功したときは必ずハイタッチするんだよ。フレンがユーリとするときはちょっと違うけど。なんだか、男同士のハイタッチって感じ。拳をこつん、てね。 「で、エステリーゼはこれからどーすんの?」 「フレンを追います」 「行き先知ってんのか?」 「先日、騎士の巡礼に出ると言っていましたから…」 「じゅんれー?」 「帝国の街をまわって良いことしてきましょーっていうイベントみたいなもんだよ」 「へぇ…」 エステリーゼが言うには、そのじゅんれーでは最初に花の街ハルルに行くのが決まりなんだって。 だからハルルに行くっていうエステリーゼに、下町に戻るから出口まで案内するってユーリが言ってた。 ハルルってことは、結界の外だよね…。 「じゃあ、行く」 「そこの脱獄者共、待つのであ〜る!!」 「ここが年貢の納め時なのだ!」 ユーリの言葉の途中で、デコさんとボコさんの声が響いた。あちゃぁ…追いつかれちゃった。 「ばかもーん!能書きはいいからさっさと取り押さえるのだ!!」 「あ、ルブランさんもいるー」 デコさんとボコさんの隊長。ルブランさんの声は相変わらずおっきい。 「ど、どうしましょう?」 「んなもん…」 言いながら、ユーリが足元に落ちてた石を拾う。 どうして都合良く2つ石が落ちてるのか、なんて気にしないとこがユーリらしい。 「こうするに決まってんだろ!!」 「ごがっ!」 「もふっ!」 見事命中。ボコさん、もふって可愛いな〜。 「下町に逃げるぞ」 「行こっ、エステリーゼ」 「あ、はいっ」 私達は急いで下町へと逃げた。 下町に着いたら、ハンクスおじいさんが心配そうに駆け寄ってきた。 「おおユーリ、ティファナ、どこに行っておったんじゃ!」 「ちょいとお城に招待受けて、優雅なひと時を満喫してた」 「何をのんきな……その娘さんは?」 ユーリの返事に呆れた様子のハンクスおじいさんがエステリーゼに目を向けると、エステリーゼは丁寧に頭を下げて自己紹介。ハンクスおじいさんもつられてお辞儀してた。 「いや、それよりも騎士団じゃよ。下町の惨状には目もくれず、お前さんたちを探しておったぞ。やはり騎士団ともめたんじゃな」 「ま、そんなとこだ。ラピードは戻ってるか?」 「ああ。何か袋を加えておったようじゃが……」 「その袋、あとで振ってみな。いい音がするぜ。モルディオも楽しんでた」 ユーリがそう言うと、ハンクスおじいさんは目を丸くした。モルディオさんに会ったのかって聞かれたから、簡単にユーリが説明してる間、私はエステリーゼと一緒に壊れた水道魔導器を見てた。 水はもう流れてなくて、止まっちゃってるみたい。 「騎士団は何もしちゃくれねえし、やっぱ本人から魔核取り返すしかねえな」 「まさかモルディオを追って、結界の外に出るつもりか?」 「え、外行くの?」 「心配すんなよ。ちょっくら行ってすぐ戻ってくっから。ティナは…」 「行くっ!」 「そう言うと思ったぜ」 ニッってユーリが笑ったから、真似して笑ってみる。 ハンクスおじいさんが、やれやれって肩をすくめて言った。 「誰が心配なんぞするか。丁度いい機会じゃ。しばらく帰ってこんでいい」 「はぁ?なんだよそれ」 「前にフレンも言っておったぞ。ユーリはいつまで今の生活を続けるつもりなのかとな」 「余計なお世話だっての」 ユーリが苦笑する。 私がエステリーゼに、モルディオさんを追うことを伝えに行くと、ちょうどそのとき、ルブランさんの声が聞こえた。 「ユーリ・ローウェ〜〜ル!!よくも可愛い部下を二人も!お縄だ!神妙にお縄につけ〜!!」 「あれ?怒ってるの、ユーリだけだね」 「石ぶつけたのが俺だったからな……。と、まあこういう事情もあるから、しばらく留守にするわ」 ユーリがハンクスおじいさんにそう言ったのと同時に、下町の人たちが集まり始める。 エステリーゼと顔を見合わせて周りを見ると、なんだかやる気満々で戦闘態勢に入ってる。 「これで金の件は貸し借りなしじゃぞ」 「年甲斐もなくはしゃいで、ぽっくりいくなよ?」 「はんっ、お前さんこそのたれ死ぬんじゃないぞ」 ハンクスおじいさんは笑いながら言うと、私とエステリーゼを見た。 「ユーリを頼んだぞ。無理しないようにな」 「はい、ありがとうございます」 「うん!絶対取り戻してくるからね!」 それから、ユーリのあとを追って走り出す。 後ろを見たら、下町の人たちが集まって、ルブランさんの周りを取り囲んでた。みんな、私達が逃げられるようにしてくれてるんだ。そう思ったら、すっごく嬉しかった。と思ったら、前からもたくさん人が走ってきて、あっという間に人の流れに巻き込まれた。 「両手に花かい!この色男め!」 「ティファナちゃん、気をつけてね!」 「って、今叩いたやつ覚えとけよ!」 「花の街ハルルに行くんなら、これもっていきな」 「あ、ありがとっ!」 手渡されたのは地図。真っ白なところは自分で書き足していくんだって。 まずは、地図に載ってる北のテイドン砦に行くといいって教えてくれた。…誰かはわからなかったけど。 やっと人混みを抜けたら、エステリーゼがにっこり笑った。 「お2人は、皆さんにとても愛されているんですね」 「冗談言うなよ。厄介払いができて嬉しいだけだろ?……って誰だよ金まで入れたの。こんなもん受け取れるか」 慌ててユーリが引き返そうとしたら、ルブランさんがちょうど人混みを抜けてきた。 「ユーリ、仕方ないからもらっておこう」 「…だな」 ユーリはお金の入った袋をしまうと、また走り出した。 後ろからルブランさんが追いかけてくる。するとそのとき、ちょうどわき道からラピードが飛び出してきて、ルブランさんに体当たり。 「な、なにごとだ!?」 転んでびっくりしてるルブランさんを無視して、ラピードが駆け寄ってくる。 「狙ってたろ、おいしいやつだな」 「犬…?」 「ラピードっていうんだよ」 頭をなでてあげたら、嬉しそうに目を細めた。 「じゃあまずは、北のデイドン砦だな。どこまで一緒かわかんねえけど、よろしくな、エステル」 「はい……え?あれ……エス……テル…?」 「エステル!よろしくね!」 「……エステル――……はい!こちらこそ、よろしくお願いします、ユーリ、ティナ!」 そう言って、エステルはにっこり笑った。 後ろを振り返れば、いつもの下町。 「しばらく留守にするぜ」 「みんな……行ってきます!!」 さあ、旅に出よう! (エステル…エステル……♪) (…嬉しそうだね、エステル) (…だな) () |