今宵、お城で大騒ぎ


〜ユーリside〜



向かってきた騎士を、鞘で殴り飛ばす。
情けない声を出して倒れた騎士をまたいで先に進む。
さっきからこれの繰り返し。
……飽きてきたな。


「ユーリ、あのおじさんの言ってた女神像って、出口のことかな?」


「かもな。探してみる価値はありそうだ」


後ろからついてくるティナにそう返すと、やっぱりおじさんいい人だ!とかなんとか嬉しそうに言った。
俺には変態不審者にしか見えないけどな。


「それより、武器は取られてなかったのか?」


「うん。今日は持ってきてなかったし。武醒魔導器も、ちゃんと持ってるよ」


ほら、と胸元の青く光るブローチを見せる。





初めて会ったときに、ティナが魔導器なしで術が使えることを知った。そのことを誰にも言うなと言ったはずなのに、なぜかフレンが知っていて。そしてフレンがカモフラージュにと、どこで手に入れたんだか、ブローチ型の魔導器をプレゼントしてくれたらしい。
それのおかげか、このことは俺とフレンしか知らない。
・・・・・・本人が誰にも言ってなかったらの話だけどな。




「?ユーリ、どうかした?」


「・・・いや。それよか闇雲に走り回っても埒があかねえな」


首をかしげて見上げてくるティナに答えて、辺りを見回す。
さっき結構潰したせいか、周りに騎士の気配はない。


「ユーリ、私もお手伝いしようか?ユーリ怪我してるでしょ?」


この場合のお手伝いは、もちろん騎士との戦闘。
さっきからティナを極力前に出さないように気を遣っていたせいか、腕に小さな擦り傷がある。そのことに気づいたティナが、不安そうに眉を寄せた。


「心配ねーよ。ここらの騎士に負けるほど、俺は弱くないからな」


「・・・・・・でも・・・」


尚も口を開こうとするティナの頭を撫でると、渋々だが小さく頷いた。


「よし、じゃあ急ぐか」


「・・・うん」


剣を肩に置き、歩き出すと、ゆっくりとティナもついてきた。


俺がティナを戦わせない理由。もちろん怪我をさせたくないのもあるが、魔導器なしで術が使えることが騎士団にばれたら厄介なことになる、が第一。
フレンもそのことを危惧してくれてるっていうのに、当の本人にその自覚はゼロ。

ちら、と後ろを見ると、もう機嫌が直ったのか、鼻歌を歌いながら歩くティナの姿。
目が合うと、嬉しそうに微笑まれた。










〜ティファナside〜


よし決めた。
今度、治癒術のお勉強しよう。
そしたら、ちゃんとユーリの怪我、治してあげられるしね。
じゃあまずは、治癒術の本読まなきゃだね。でもどこにあるんだろう・・・。あ、ハンクスおじいさんなら知ってるかな?
下町に戻ったら聞いてみよっと。


「〜♪」


そんなことを考えてたら、なんか楽しくなっちゃったから、思いついた歌を小さく歌う。
ユーリがこっちを見たとき目が合ったから、笑ってみたら、ちょっと驚いたような顔された。
・・・そんなに私、歌下手だったかな?

歌うの好きだから、誰もいないときとかに歌ってる。
前に一度だけユーリとフレンの前で歌ったら、上手だねって言われた。フレンは拍手までしてくれたんだよ。
どこで覚えたのか、どうして知ってるのかはわからないけど、ふと思いついて口ずさむ歌はどこか懐かしくて。
だから、なのかもしれない。私が歌うことが好きな理由。
少しだけ自分の世界に入ってたら、急に前を歩くユーリが立ち止まった。背中にぶつかって見上げたら、そのまま腕をひかれて物陰へ。


「ユーリ?」


「静かに」


人差し指を口にあてて、ユーリが小声で答える。
ユーリの肩越しにのぞいたら、青いドレスを着た女の人が走ってきた。

綺麗な人だなぁ。
お姫様かな・・・?
そしたらその人が通ろうとしていた通路から騎士が出てきた。慌てて後ずさる女の人の後ろにももう1人。そのままゆっくりと騎士と距離をとった女の人は、持っていた剣をつきつけた。
お姫様なのに戦えるのかな。


「もうお戻りください」


「今は戻れません!」


「これは貴方のためなのですよ」


・・・・・・嘘だ。だって棒読みだもん。
それに、ホントなら、あのお姫様が剣を向けるはずないし・・・。
ユーリを見上げたら、まだ静かにしてろって無言で言われた。


「例の件につきましては、我々が責任をもって小隊長にお伝えしておきますので」


「そう言って、あなた方は何もしてくれなかったではありませんか」


お姫様がそういうと、騎士が顔を見合わせて近づこうとした。


「それ以上、近づかないでください」


わぁ、かっこいい!
騎士よりも騎士みたいなお姫様。
それでも、剣を向けられた騎士2人は小さく首を振った。


「お止めになられたほうが・・・お怪我をなさいますよ?」


「剣の扱いは心得ています」


ふわぁ・・・私も言ってみたい!
ビシって剣を振ると、ドレスがふわって揺れて、尚更かっこいい!


「ねえユーリ、あの人かっこいいね」


「ああ・・・しかしなんであんなお嬢さんが騎士に追われてんだ?」


小声で話す私達。
ユーリも頷いて、私もまたお姫様に目を向ける。


「・・・致し方ありませんね。手荒な真似はしたくありませんでしたが・・・」


・・・え?
スラリと剣をぬく騎士2人。
あれ?あの人、お姫様じゃないの?あれれ?
首をかしげて考えてたら、バタバタとたくさんの足音。今日は足音たくさん聞く日だね。


「いたぞ!こっちだ!」


「お願いします!行かせてください!!」


走ってきた別の騎士を見て、お姫様が叫ぶ。
私とユーリが顔を見合わせたとき、お姫様の次の言葉が響いた。


「どうしてもフレンに伝えなければならないことが!!」



フレン?



「蒼破っ!」


青い光が飛んで、お姫様の前にいた騎士を吹き飛ばした。


「フレン・・・!?私を助けに―――・・・・・っ誰・・・?」


パアって顔を輝かせてこっちを向いたお姫様は、きょとんて首をかしげた。
私は走っていって、お姫様の前に立つ。


「ティナ!」


ユーリが叫ぶ声がして、目の前の騎士が一斉に剣を抜いた。


「貴様ら何者だ!」


「お姫様に剣を向けるなんて、騎士失格ですよ!」


ビシッて指を指したら、怒らせちゃったみたいで小さく舌打ちする音が聞こえた。
どうして私が言ったことにみんな怒るのかな。


「こっそりのつもりがいきなり厄介ごとかよ」


ユーリがやれやれって剣の鞘を投げ捨てる。腕についている金色の魔導器がキラリと光ると、騎士がちょっとだけびっくりしたみたい。


「仕方ねえな・・・ティナ、そのお嬢さん頼んだぞ」


「うん!」


頷いたらユーリが騎士に向かって全力疾走。
くるくる剣を回転させながら戦うユーリの剣技はいつ見てもやっぱり凄い。


「ぐっ・・・!」


「!」


うめき声に気づいて横を見たら、剣を構えてこっちに向かってくる騎士。
後ろのお姫様が小さく息を飲む音が聞こえて、私は足元に陣を展開した。


「とりあえず!ファイアボール!!」


「ぐあっ!?」


ドカーンってファイアボールに当たって、騎士は倒れちゃった。
・・・・・・だいじょーぶだよね?
手加減したし・・・。あ、やっぱりスプラッシュのほうがよかったかなぁ・・・。


「えっと・・・ごめんなさい」


「何してんだ?」


倒れた騎士に頭下げたら、後ろからユーリの
声。
頭をあげたら、ポンて撫でられた。


「怪我ないよな?」


「うん」


ユーリもだいじょーぶ?って聞こうとしたら、ユーリにぐいって腕を引っ張られた。


「危ね!」


「ひゃっ!?」


バランスをくずしてユーリに抱きついたのと同時に、すぐ後ろで何かが割れる凄い音がして、おそるおそる振り返ったら足元にたくさんの破片が落ちてた。


「何すんだ!」


ユーリがお姫様に怒鳴る。

・・・あ、お姫様がこれ割っちゃったんだ。壷・・・かな?


「・・・だってあなた方、お城の人じゃないですよね?」


「そう見えないってんならそれまた光栄だな」


そう言いながら、ユーリが私をお姫様から遠ざける。
だから仕方なくユーリの横からお姫様に聞いてみた。


「ねぇねぇ、これ、割って怒られない?」


「・・・え?あ、いえ・・・えっと・・・?」

お姫様に聞いたら、びっくりしたみたい。首をかしげてユーリを見上げたら、小さく笑われた。
・・・なにゆえ?


「ユーリ・ローウェ〜ル!ティファナ・クロノス〜!どこだ〜!!」


「不届きな脱獄者どもめ!逃げ出したのはわかっているのであ〜る!!」


「ばれちゃったね」


「もう牢屋に戻る意味なくなっちまったよ」


言いながら、落ちていた鞘を拾って剣を戻すユーリ。


「・・・もしかして、フレンのお友達のティファナ・クロノスさんと、ユーリ・ローウェルさんです?」


「うん。そーだよ」


頷いたら、お姫様はユーリを見た。


「なら、以前は騎士団のいた方なんですよね?」


「え!そーなの?」


私もユーリを見る。
ユーリって騎士だったんだ!初めて知りました!


「ほんの少しだけどな。・・・それ、フレンに聞いたの?」


「はい」


「ふ〜ん。あいつにも城の中にそんな話する奴いたんだな」


「?フレン、お友達いないの?」


「いや・・・まぁ、そうかもな・・・」


こーいうの、意外って言うんだっけ。
フレンは優しいから、お友達たくさんいそうなのに・・・。あ、でもキュモールみたいなお友達だったら嫌だけど。デコさんとボコさんなら楽しそうだからおっけーかな。


「あの、ティファナさん、ユーリさん!フレンのことでお話が!」


「ちょい待った。あんた一体何なんだ?フレンの知り合いなのはわかったけど、どうして騎士団に追われてんだよ」


そのとき、騎士の声が聞こえた。
お城って広いはずなのに、すぐ見つかっちゃうんだね。やっぱり騎士だからかな?


「ユーリ、騎士が来ちゃうよ」


「・・・事情も聞きたいけど、お互いゆっくりしてらんないな」


ユーリがお姫様に言うと、お姫様は困ったように頷いた。


「まずはフレンのところに案内すればいいか?」


「あ、はい!」


「フレンのところ行くの?フレンに会える?」


「ああ。留守じゃなければな」


やったぁ!
フレンに会うの久しぶり!
でも、また怒られちゃうかな・・・。心配してくれてるってわかるけど、フレンのお説教はちょっと怖い。
だって怒ってるときも笑顔だったりするんだよ。


歩き出したユーリについていこうとして、私はお姫様のを見た。


「えっと、よろしくね!」


「!はい!よろしくお願いします!!」


にっこり笑ったら、お姫様も嬉しそうに、とっても可愛く笑ってくれた。








出会いは偶然?それとも・・・
(ユーリとフレンに会ったときみたいに)
(なんだか不思議)
(偶然なんかじゃないって、)



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