不思議なお隣さん




はぁ〜・・・。
小さくため息をついて、すぐ横のベッドに寝てるユーリを見る。


あの後捕まっちゃって、牢屋に入れられてしまいました。
ユーリはキュモール隊の人達に殴られて、まだ気を失ってる。
私も治癒術が使えたら、治してあげられるのになぁ・・・。


「で、その例の盗賊が、難攻不落な貴族の館から、すんごいお宝を盗んだわけよ」


・・・?
隣から聞こえてきた男の人(おじさんかな?)の声に首を傾げて、よく聞こえるように壁にひっついてみた。


「知ってるよ。盗賊も捕まった。盗品も戻ってきただろ」


「いやぁ、そこは貴族の面子が邪魔をしたってやつでな、今館にあんのは贋作よぉ」


「バカな・・・!」


見張りの騎士の驚く声。
がんさく・・・ってなんだろ?


「ここだけの話な?漆黒の翼が目の色変えて、アジトを探してんのよ」


「例の、盗賊ギルドか?・・・・・・・・・・・・っごほん!大人しくしてろ。もうすぐ食事だ」


あれれ?
話、終わっちゃったみたい。
盗賊とかギルドとか、面白そうだったのになぁ・・・。


「・・・そろそろじっとしてるのも疲れてるころでしょーよ、お隣さん。目覚めてるんじゃないの?それに・・・お嬢ちゃん、ため息つくと幸せ逃げるわよ」


「・・・へ?」


「そういう嘘、自分で考えんのか。おっさん暇だな」


「っ!?」


ユーリ起きてたんだ!
それに、おじさん気づいてたみたい・・・。びっくりした。


「おっさんは酷いな。おっさん傷つくよ」


急に声が暗くなったおじさんを無視して、ユーリがゆっくり起き上がった。
それから、壁にひっついたままの私を見て、どこかホッとしたような顔をした。


「ティナは・・・怪我なさそうだな」


「うん、だいじょーぶ。ユーリは?」


「俺は平気。いつものことだろ」


壁から離れて、ユーリが寝てたベッドに座った。
・・・固くて、ベッドじゃないみたいだけど・・・。


「それにウソってわけじゃないの。世界中に散らばる俺の部下達が必死に集めてきた情報でな・・・」


「はっはっ。ホントに面白いおっさんだな」


ぐりんぐりん肩を回しながら、ユーリが笑う。


「世界中って・・・おじさん、結界の外、出たことあるの?」


「あら、お嬢ちゃん興味あるの?なんならおっさんが個人的に教えてあげてもいいわよ?」


「前言撤回。ただの変態だな」


「酷っ!」


ユーリの言葉に、おじさんの嘆く声。
ユーリを見たら、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「変なおっさんにはついていくなよ?」


「む・・・。それぐらい、ちゃんとわかってるもん」


ちょっとだけユーリを睨んだら、あっそ、って意地悪な笑みを浮かべて返された。
むぅ・・・信用されてないな、これ。


「じゃあためしに質問してよ。何でも答えられるから」


立ち直ったのか開き直ったのか、おじさんがまた声をかけてきた。


「盗賊ギルドが沈めたお宝か?最果ての地に住む賢人の話か?それとも、そうだな・・・」


「それよりも、ここから出る方法を教えてくれ」


おじさんの言葉を遮って、ユーリがうんざりしたように聞いた。
下町のことがあるし、こんなところでお話してる場合じゃなかった。


「何したか知らないけど、十日もおとなしくしてれば出してもらえるでしょ」


「そんなことしてたら、下町が湖になっちゃうよ・・・」


「ああ。早くここから出ないとな」


私の言葉にユーリが頷く。


「下町・・・?ああ、聞いた聞いた。水道魔導器が壊れたそうじゃない」


「今頃、どうなってるのかな・・・」


「悪いね、その情報は持ってないわ」


残念・・・。
ハンクスおじいさんも、みんなも、無事だといいけど・・・。


考えてたら、ユーリが立ち上がって鉄格子の下を調べ始めた。
・・・まさか、掘る、とか・・・?


「・・・モルディオの奴も、どうすっかな・・・」


「モルディオってアスピオの?学術都市の天才魔導士と、おたく関係あったの?」


「知ってるのか?」


ユーリが驚いたように聞いたら、おじさんは急にノリノリな口調になった。
やっとかまってもらえて嬉しいのかな・・・。


「お?知りたいか。知りたければそれ相応の報酬を貰わないと・・・」


「学術都市の・・・」


「天才魔導士なんだろ?ごちそうさま」


私の言葉をユーリがつなげて、2人でにっこり。
そしたらおじさんの焦る声。


「い、いや、違う、違うって。美食ギルドの長老の名だ。いや、まて、それは、あれか・・・」


面白しろくて小さく笑ったとき、誰かの足音が聞こえた。
ベッドから降りて、ユーリの横に行くと、歩いてきたのは白い頭のおじさん。
何度か見たことある、騎士団長のアレクセイさん。

アレクセイさんは、そのまま私たちの前を通ってお隣さん、つまり、おじさんの牢屋の鍵を開けた。


「出ろ」


「いいところだったんですがねぇ」


おじさん、出してもらえるみたい。
いいなぁ。私たちも出してくれないかなぁ。


「ね、ユーリ・・・」


「騎士団長アレクセイがなんで・・・」


「ユーリ・・・?」


その時、何か考えているユーリの前で、アレクセイさんの後ろを歩いていたおじさんが突然しゃがみこんだ。
転んだのかな?
ユーリもしゃがんだから、一緒にしゃがんでみる。


「騎士団長直々って、おっさん何者だよ」


「・・・女神像の下」


シャランって、何かが滑る音。見ると、足元に小さな鍵が落ちてた。
手にとっておじさんを見たら、パチッてウインクされちゃった。


「何をしている」


「はいはい、ただいま行きますって」


そしてそのまま、おじさんはアレクセイさんと一緒に出て行った。


「ユーリ、これ・・・」


はい、ってユーリに鍵を渡したら、呆れたように半目になって鍵を見つめた。


「そりゃ抜け出す方法を知りたいとは言ったけどな・・・」


それから鍵穴に差し込んでみたら、簡単に開いちゃいました。


「マジで開くのな」


「おじさん、いい人だったんだね」


「どーだか・・・。下町の様子見に行くだけなら、朝までには戻ってこれるだろ。ティナはどうする?」


「もちろんついてくっ!」


「よし。このまま抜け出すのもいいが・・・脱獄罪の上乗せは勘弁したいからな」


誰もいないことを確認して、ユーリが外に出る。
脱獄するのは初めてだから、ちょっとだけ緊張。
ユーリの手を握ったら、いつも通り優しく笑ってくれた。


「じゃ、行きますか」


「行きますか!」







さあ、脱走劇の始まりだ!
(・・・楽しそうだな)
(だってユーリと一緒だもん!)
(・・・・・・・それ反則)



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