名前殿と碁を打ちながら、どうしてこうなったのかと溜め息を吐きそうになった
確かに俺は夜に楽しませると言ったが、大人が聞けばどういう事を指すのか分かるだろう
いや、名前殿の事だから、知った上で碁を打っている可能性もある
食えないくせにお人好し、自分を見せずに助けるのだから皆に慕われるのだろう
天然なのか計算なのかは知らないが、この俺までもが惹かれているのだから相当なものだ

「法正殿?」
「……ああ、俺の番でしたか、失礼」

考え事が過ぎたらしい
名前殿がじっと此方を見ている
俺が盤上に視線を移しても、だ
視線を上げると、案の定それはかち合う

「休憩でもしますか」
「は?」
「ずっと碁を打ちっぱなしです、法正殿には我が儘を聞いて頂いて申し訳ないと思いますし」

そんな事を言われ、驚く――というよりも、呆れた
俺から言い出した逢瀬、受け入れられなければそれまでの発言であったのに関わらず、名前殿は自分の我が儘などと抜かす
俺なんぞを使い続けるのもそうだが、お人好しが過ぎるのではないか

「お茶でもいれますよ」
「いえ……でしたら、少し話でもしませんか」
「話ですか?」

立ち上がろうとした名前殿を制止して、再び座らせる
逢瀬、もっというならば閨事までするつもりであったのに、今までは話すらまともにしていない
名前殿と碁を打つのが楽しかったのは確かだが、それでは本末転倒だ

「あなたの事が知りたいんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、我が儘と思うなら答えてくださいますね?」

ずるい聞き方だとは思っているが、これが俺のやり方
逃げ道を無くしたつもりだったのだが

「でしたら聞いてくだされば良かったのに」
「は?」
「碁を打って下さらなくても、聞いてくだされば答えますよ」

笑顔で、そんな事を言うのだ
恩を売ったつもりで売られている、返したつもりで返されている、そんな気分になる

「……名前殿、もう少し危機感を持ったほうがいいんでは?」
「いやですね、私だって人を選んで言いますよ」

さらに止めをさすのだから逃げられない
いや、逃げたくないの方が正しいかもしれない
俺を使ってくれている恩だって返していないのだから、傍にいるのは当然だが

「……では、1つ質問を」
「はい、どうぞ」
「名前殿は、俺がどういうつもりでお誘いしたのか分かってますか」

そうして聞くのも、本来の質問とは別の事
強がって、何時ものように笑ってはみたものの

「さて、夜に楽しませてくれるとの話だったので碁にお誘いしたんですけれど」
「それは」
「それ以外をお望みなら、私はきっぱり言ってほしい派です」

名前殿まで何時ものように笑って、そんな事を言うのだ
一瞬呆気に取られたものの直ぐに口角が上がる、可笑しくて笑いを堪えるのがやっと

「では、お誘いしたら応えていただけるんでしょうか?」
「法正殿にとっての私は、断るような間柄の男を夜に呼び付けるような悪女に見えているんですか」

名前殿の返事に、遂に俺は吹き出した
どうやら名前殿は天然では無かったらしい
計算高い女は趣味では無いはずだったのだが、惹かれてしまったものは仕方ない

「では、名前殿」

こんな言葉の応酬が出来るのなら、俺もなんの遠慮もする必要は無いはずだ

「覚悟して下さいね?」

ここからは本気で行かせてもらうとしよう


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