俺はあくまでも軍師だ
いくら戦えると言っても、限度がある訳で
つまり、敵に囲まれた状態で全部を蹴散らせる程に力があるわけじゃないって事だ

そんな事を考えながら戦っているんだから説得力は無いかもしれないが、割と限界に近い
策を講じるからこそ、なんとかなる数なのだがなあと思いながら目の前にいた1人を斬り捨てる
何人を倒したのかなど覚えていない、というか数えていられない
だが、周りが怯む程度には仕事をしていたらしい
俺を囲んでいる敵達は、すっかりひるんで睨み合いになってしまっている
正直、辛い
もういっそ、倒れて死んだふりでもしてやろうか――そんな事を考えはじめた時だった

「文和殿、ご無事ですか!」

ばっさばっさと敵を斬り捨てながら俺に向かって来た名前殿
俺が目を丸くしたのと、残った敵が情けない声を上げて背を向けたのは同時だったと思う
名前殿は直ぐ様背を向けた敵兵達を斬り捨てたから、俺の顔は見ていないと思うが
それでも、戻ってくる名前殿へ浮かぶのは疑問だ
彼女は、それなりに離れた場所で戦っているはずなのだが

「名前殿、なんでまた」
「文和殿が前線に立っていると聞いたもので、お手伝い出来るかと……あ、勿論仕事はちゃんと引き継いでまいりましたよ」

浮かべた笑顔は、月並みではあるが、戦場に咲く花とでも言えるもので
しかし、腕っぷしは男に劣らない――いや、少なくとも俺……軍師や文官なんかは負けるであろう力がある名前殿

「……本心は?」
「文和殿を私の手でお守りしたかったのですよ」

口を開けばこれである
顔は確かに愛らしい、力があるのも目をつぶろう
だが、大の男を姫の様に扱うのはいただけない
どうやら俺は名前殿に好かれているらしいのだが、その方向性がどこかおかしいのだ

「またそんなことを……守られるべきは名前殿では?」
「いいえ、そんな事はありませんよ」

俺より低い位置にある頭
そちらへと顔を向けると、伸びてきた手に頬を撫でられた
頬が熱くなると、それに気付いたのか名前殿が笑う

「ほうら、可愛らしいじゃないですか」
「ばっ……からかうもんじゃない」
「からかってなどいませんよ」

頬から手を離して、俺の前に跪く名前殿
今日の俺は驚いてばかりだ
敵は逃げるか斬り捨てるかしたとはいえ、此処は未だ戦場に違いは無いのだが
それでも、名前殿の雰囲気はふざけている時のそれではないので止めるのは躊躇われた

「貴方は知恵を授けてください、私は力を奮います……文和殿を守らせて下さい」

そうして、俺の手を取るのだ
微笑んでいる名前殿がからかっているとは思えない、が
やはり性別が間違っているとは思う
いや、それも言い訳だろう

「……とりあえず、立ってくれるかい」
「はい、わかりました」

そうでないなら、身体中が熱い理由がつかない
俺はきっと、名前殿の言葉が嬉しいのだ

「本陣に戻ろう」
「そうですね、長居は無用でした」

ただ、流石にそれを伝えるのは矜持が傷つけられる気がする
名前殿も、分かっているのかいないのか、深く聞いてこない訳だから
とりあえずは、この状況に流されていようと思う
なんてったって、今の俺は酷く疲れているんだから
気の迷いの可能性だってある
ゆっくり休んで考えて、それでも嬉しいなんて思えた日には――その時は、受け入れてもいいかなんてぼんやり考えた


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