雛子は結局、電話の後すぐに帰ってしまった
どうやら外に彼氏がいたらしい
そして、残った1時間2人で飲み食いするといいよと私と徐庶さんが残されたのだけれど
「徐庶さん、その辺でやめませんか」
「どうしてだい、美味しいよ?」
ほら、と私にコップを差し出す徐庶さんが飲んでいるのはカクテルだ
さっきからメニューを順に制覇していってるのが怖い
出された物を美味しい美味しいと飲み干しているというのに、顔色が全然変わらないのが更に怖い
「ありがとうございます……」
受け取れば彼が飲む量が減るかと思えば、またメニューを見始めるのだからきりがない
潰れられても困るなあと思っていたら、メニューを持った徐庶さんがぐっと寄ってきた、無駄に近い
「名前殿、これはどんな飲み物かな」
「カルアミルク、はえっと、コーヒーみたいなって言っても飲んだこと無いですね」
「そうだね」
「じゃあ飲んでみましょうか、アイスコーヒーを頼みましょう」
小休止させようとしたそれが功を制するとは、想像できなかった
「大丈夫ですか徐庶さん」
「……この辺が痛いよ」
そう言いながら彼が擦ったのは
「胃ですね……コーヒーが駄目だったんですかね」
まだ飲み放題の時間は残っていたけれど、徐庶さんがコーヒーを飲んで割と直ぐに胃を痛めたようだったので店を出る事にした
正直、徐庶さんの飲むペースの早さに店の人の視線も痛くなってきていたし、助かったと思わないでもない
徐庶さんは胃の辺りを擦りながら、私の腕に掴まって歩いている
ただ胃が痛いだけのようだし、帰ったら直ぐに寝てもらえばいいだろう
「家まで頑張ってください、もうすぐですよ」
「ありがとう名前殿……迷惑をかけてすまない」
「こんなの迷惑じゃないですよ、むしろ私がコーヒー勧めたんですし」
「美味しいとは思ったんだけどね……」
私も時折コーヒーで胃を痛くするから気持ちは分かる
「ままならないですよね」
「そうだね……」
「まあ、仕方ないです」
「……仕方ない、かい?」
「ええ、自分じゃどうしようも無いことを気にしすぎ無いようにする魔法です」
「……ふふ、そうか、そうだね」
会話はそこで途切れる
だから居たたまれないとか言うわけでも無かったし、徐庶さんも辛いかもしれないし
私と彼は黙々と家を目指したのだった
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