目を覚ましてリビングへの扉を開けると、思った通りに陸遜さんは帰った様だった
賈クさんの時と同じく、パジャマ代わりのスウェットは布団の側に散らばっている
ただ1つ違う、というか不思議な事があった
家の中、どこを探してもマッチが無いということだ

確か陸遜さんは、元々着ていた服の上に大事そうに置いていたはず
それは勿論、陸遜さんと一緒に消えてしまっている
つまり、陸遜さんが向こうの世界に持っていったのだろうか
もしも彼がアレを使ってしまったら、色々とまずい気がする……まあ、考えても仕方ないんだけど

とりあえず今日も休みだ
使いっぱなしの客用布団を干して、洗濯をして、家でゆっくりすることにする

そうして、気を抜いたのが悪かったのかもしれない

「あら……いつも通りの長さね?」
「え……あ」

次の日の事だ
常連で、私を指名してくれるお客様の髪を切り終えた後
普段は伸びた髪を切ってボブにして行く方、今日は毛先を揃える程度と言われたのに
癖で片付けられない、髪はお客様の物だ

「申し訳ございません!」
「あらあら謝らないで、いつもの癖で私も気付かなかったんだから」
「そんな訳にはいきません、今日のお代は私が」
「駄目よ、私は今日の髪型も気に入ったんですもの……そうね、次も名前さんが切ってくれるなら怒らないわ」

にっこり笑って言う彼女に、私は頭を下げるしかない
本当に怒っていないのだろうし、これ以上は逆に失礼だろう

「勿論です、いつでもご指名下さい」
「ふふふ、ありがとう」

もう一度深く頭を下げると、常連さんは私の頭を撫でてくれた
泣きそうになるから止めてほしい

その後はいつも以上に気を付けて仕事を終えた
店長からはお客様が怒ってないから自分が言う事はないと言われ、雛子には疲れてるんじゃないかと心配され
確かに疲れてるのかもしれないけど、仕事中にそれを出しちゃ駄目だ
今日は早めに休むよ、と雛子に告げて店を出た

必要な買い物だけをぱぱっと済ませて、寄り道せずに家に帰る
少しだけお酒を飲んで寝てしまおう、明日も仕事だ
この気持ちも何も引きずる訳にはいかない
とは言っても、引きずらない自信も無いのだけれど

「おや……お前さんが家主かい?」

そういう気持ち全部を打ち壊すように、彼は床に座っていて
もう慣れてしまった私は、とりあえず戸締まりをして片付けをしてしまう事にした


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