賈クさんがそうしてくれと言ったので、渋々私は玄関を開ける
私を庇うように前に立った賈クさんを見た健二は、少し後退った
一般人とオーラが違うのは当たり前だと思う、2日前まで戦が当たり前の世界にいたんだし
そうでなくとも、賈クさんは割と悪人面だ……本人には言わないけど

「で、アンタは何しに来たんだい?」
「お前こそ何なんだよ!」
「おや、承知で来たんだと思ったんだがね」

ぼんやり眺めていたから、賈クさんに手を引かれて隣に並ばされても、そのまま肩を抱かれても抵抗出来なかった

「こういう事さ」

彼の顔はどこか楽しそうだ
対して健二は真っ赤な顔で怒っている、理由は全く分からない

「人の女に手ェ出しやがって」
「誰がアンタの女だ」
「食い違うとはおかしな話だね、そもそも名前からアンタへの思いってのが感じられないんだが」
「ありませんからね」

私の言葉に健二は赤い顔を更に色濃くさせた、どこまで赤くなるのだろうか
賈クさんはそんな様子を見てくつくつ笑っているし
面白いのは認めるけど

「だそうだけどアンタは何か言う事は?なければお引き取り願えないかな」

肩に回した手に力を込められて、私は賈クさんに一層近付かされる
流石に恥ずかしいけど、恋人同士と思わせる為なんだろうし我慢した方が良いのかもしれない

「俺たちは2人でやりたい事があるんでね」

含みを持った言い方だけど、この後2人でするのはワインを飲む事で
つまり賈クさんはさっさとワインが飲みたいだけと言う事だ
思わず吹き出して、2人の視線を集めてしまう

「名前?」
「いえ、そんなに楽しみなのかなと」
「そりゃそうさ、名前と2人なら何でも楽しくてね」

笑顔でそんな事言われると、ふりと分かっていても照れる

「あ、ありがとうございます」

大体そんな事、まがりなりにも元恋人の健二にも言われたことが無い
恥ずかしいのもあるけど、何より嬉しいのかもしれなかった

「さて、アンタは名前をこんな風に喜ばせる事は出来るかい?」
「は?」
「出来ないってんなら、大人しく名前の事は俺に渡してくれないかね」
「何を」
「アンタには名前は相応しくないって言ってるんだよ、言葉だけの内に帰った方が身のためだが」

私を抱き寄せて居ない方の手を握って見せると、健二はじりじりと後退り

「そっ、そんな女くらいくれてやるよ!」

それを捨て台詞に、走り去ってしまう
本当に何しに来たんだアイツ

「敵将討ち取ったり、ってね」

扉を閉めて、悪戯っぽく言うものだから笑ってしまう
恋人だと明確に伝えずに、言葉だけで勘違いのままで帰らせるんだから凄い事だ

「これで来ないとは思うが、一発位は殴っておくべきだったかな」
「賈クさんの手を痛めるだけですよ」
「名前の為ならそのくらいは」
「またそんな事言って」

いつまでも抱かれたままの腕から抜け出す
大袈裟に驚いた素振りをして残念なんて言うから、私もリアクションが取りにくい

「さ、飲みましょうか」
「それがいい、嫌なことは酒で忘れるに限るよ」
「ふふ、そうしましょう」

賈クさんのおかげか、健二に何を言われても腹は立っていなかったけど
彼が来てくれて良かったと、私はその時初めて思った


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