お試し黒ばす | ナノ

イベリコ豚以下略とツナたまごサンドとクリームパン


昨日の今日で、流石に眠そうだ。

こく、こく、と船をこぐ黒子と完全に寝おちている火神をこっそり眺め、セツナはマナーモードにしたケータイを机の下でこっそりと開いた。
先生が黒板に向き直ったのを確認してリコにメールを送る。



Date 20xx/4/27 10:32
From 眞城セツナ
 to リコ先輩
Sub こちらも撃沈です


火神くんも黒子くんも爆睡してます。
さっきの時間に降旗くんたちの様子も見てきたんですけど、二人ほどじゃないにしてもウトウトしてるみたいでした(´`;)



送信。
授業前にリコから届いたメールによると二年生の先輩方も大方疲弊しているようで。
やっぱり試合って大変なんだなぁ、とノートにシャーペンを走らせる。二人が頼ってくれるかはわからないが、もしノートを写させて欲しいと言われた時にちゃんと見せてあげられるようにしておきたい。
もう少しで板書が終わりそうになったとき、膝の上に乗せていたケータイのランプがオレンジに光った。リコからだ。



Date 20xx/4/27 10:42
From リコ先輩
 to 眞城セツナ、火神大我、黒子テツヤ、・・・
Sub  緊急連絡!!


1年生全員、昼休み2年校舎集合



「・・・なんだろう」


とりあえず了承の旨を返信し、残りの板書に専念する。
居眠りがバレてしまった火神が職員室に呼び出されたが、・・・黒子はスルーされていた。本当に、カゲが薄いんだと実感した。




・*・*・*・





パタパタとスカートを翻して屋上までの階段を駆け上がる。
あの後の授業で、まさか先生から用事を言いつけられてしまうとは予想していなかった。半分ほどになってしまった昼休みだが、間に合うだろうか。リコに遅れる旨を連絡したらじゃあ屋上に来て、との返信をもらい、こうして走っているわけだが・・・



「すっみま、せん!!おくっ、遅れました・・・!!」
「セツナちゃん!待ってたわよ〜」



ばん!と扉を体当たりで開けて既に集合しているバスケ部員たちの輪に転がり込んだ。まだ二年生しかいないようだ。
てっきりもう全員集合していると思っていたのだが。


「あ、れ・・・あの、黒子くん達は?」
「あぁ、あそこ」


あそこ、とは。
日向が指差した中庭を見て・・・二度見した。


「え、なん、え、全校生徒・・・?」
「いるだろうねーそれくらい」
「購買、ですよね?いつもこんな混んでるんですか・・・?」
「いや、毎月27日だけ幻のパンが売られるんだ。一年生はそれを買いに行ってもらった!!」
「数量限定なんだけど、それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束されるという幻のイベリコ豚カツサンド三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!!」
「・・・え・・・イベリコ豚・・・すみませんもう一度言ってもらっていいですか?」
「イベリコ豚以下略」
「・・・」


困惑を多大に滲ませた笑顔を貼り付け、セツナはひくりと口の端を痙攣させた。黒子たちはこんな人波・・・新歓の時の勢いを凌ぐ大波である・・・この中にいるのか。
少し、用事を言いつけてくれた教師に感謝した。セツナがあの人波に飛び込んで幻のパンを買うなんて、100%無理な話だ。


「あ、あれ火神じゃね!?」
「どれどれ」
「おー頑張ってんなー♪あ、弾かれた。アメフトのライン組やっぱつえーなー」
「河原いけー!!」
「ちょw降旗ww女子に吹っ飛ばされてやがるwww」
「えー?あぁ・・・あれは仕方ないわよあの子柔道部のエースだし。でも一年生ちょっと弱いわねー皆フットワーク二倍にしようかしら」
「カントク容赦ねー!!お、福田がいいとこ行きそう・・・ダメだ潰れた!!」
「火神ー!がんばれー!!で、黒子はどこだ」


高みの見物、とはこのことか。
必死であろう一年生を激励しつつ、絶対に楽しんでいる二年生に思わず苦笑いした。話によると彼らも去年は死闘を繰り広げたらしいが・・・一年生の恒例行事なのか。
むしろある意味試練?
セツナもちらりと中庭を見下ろした。じーっと人波を見つめて、あの綺麗な水色を探す。


「・・・あ、黒子くん」
「え!?眞城、黒子みつけたのか!?この人ごみから!!?」
「は、はい。あそこです。購買の・・・あ、パン買えたみたいです」
「なんだって黒子が!?予想外だな・・・ハッ!?予想外そうかいヨッ総会!?」
「伊月だまれ」
「あはは・・・」


ゆら、ゆら、と波に身を任せるように動いている黒子は、流石としか言い様がない。
あっという間に人ごみから抜け出してもたついていた一年生ズと合流するまで見届けて、セツナはくすりと笑った。


「リコ先輩、私みんなの分の飲み物買ってきます。先輩たちはリクエストありますか?」
「そう?お願いしちゃおっかな!私飲むヨーグルト。あ、これお金ね」
「気がきくな!じゃあ俺ウーロン茶ー」
「アクェリあったっけ」
「炭酸飲みたいかな、グレープで!」
「俺カフェオレー!水戸部はさっき買ったから大丈夫だって。一年ズのはテキトーにオレンジとかでいんじゃね?」
「分かりました、行ってきます!」
「ありがとねー!!」


先輩それぞれからちゃりんちゃりんと集まった小銭をスカートのポケットにしまい、セツナは軽い足取りで踵を返した。扉の締り際ひらひらと手を振られ、しかし次の瞬間には再び一年生ズの応援に戻った先輩達にこっそり苦笑をこぼし、一階の自動販売機まで早歩きで急ぐ。途中教室に寄ってお弁当を入れたエコバッグを持ち出し、リクエストされたものと一年生ズの分、それと自分用に合わせて12本のジュースを購入しエコバックに入れた。
地味に重い。が、なんとかなるだろう。
よたよたしながら階段を上り屋上に戻ると、すでに一年生が帰ってきていた。


「ジュースお待たせしましたー」
「おかえりセツナちゃん!ほら一年ズ!我らがマネージャーがジュース買ってきてくれたわよ!」
「わりーな眞城。さんきゅ!」
「いーえ!これもマネージャーの仕事です!」


口々に礼を言ってくれた先輩達と同級生にジュースを配り、最後に残ったオレンジを手になにやら巨大なパンをもっしもっしとほおばる火神と、その隣で小さなサンドイッチを食べる黒子の傍に座った。


「ここいい?」
「おー」
「どうぞ」
「ありがとう。・・・火神くんのパン、おおきいね」
「おう。黒子のみたいなちいせぇのよりでかいほうが腹に貯まるからな」
「でもそれは流石に大き過ぎだ思いますよ。1mって・・・それにこれだって、本当に美味しいです。眞城さんも食べますか?予想外に美味しいですよ、幻のパン」
「いいの?黒子くんが買ったんでしょ?」
「お金は先輩たちからもらいましたし、一年生で食べていいということだったので・・・一口分くらいしか残ってなくて、すみませんが」
「そんな、みんなで買ってきたんだからみんなで食べていいんだし。でも、そう言ってくれるなら貰っていいかな?実はちょっと気になってたんだ」
「どうぞ」
「ありがと!」


黒子の厚意に素直に甘えることにして、ドキドキしながら渡されたパンにちょこっとかじりついた。
・・・たしかに、予想以上に美味しい。カツがジューシーでほわりと甘いのはフォアグラ?三大珍味ははじめて食べたがこれほど美味しいとは・・・


「考えた人天才だね・・・」
「購買のおばちゃんに感謝です」
「・・・な、なぁ、やっぱり一口くれ」
「火神くんは次回自力で頑張ってください」
「黒子テメェ!」
「だめ、ケンカしない!はい火神くん、これ食べていいよ。本当に美味しいから」
「お、サンキュー眞城!どれどれ・・・うっぉなんだこれうめぇ!!?」
「・・・眞城さん、火神くんに甘くないですか?」
「そんなことないよ?それに私お弁当持ってきたから、どのみちそんなに食べられな・・・あれ?」


がさごそとエコバッグの中を漁る。・・・が、目的の箱は見つからなかった。
おかしい、確かに朝お弁当を作ってエコバックにいれた・・・はず・・・

・・・入れてないかもしれない。
そういえば、可愛いお弁当箱の袋を買ったからそれを使おうと思ってそっちに入れて。それからどうしたっけ。


「どうしました?眞城さん」
「・・・・・お弁当忘れちゃった」
「え」


いつもはエコバックに入れていたけど今日からは違う袋に入れて、・・・それを持って部屋を出た記憶がない。おそらく、目的のものは今も自宅のキッチンに鎮座しているだろう。思い出して消沈した。


「眞城さんも、けっこうドジなんですね」
「言わないでー・・・」
「なんだ眞城、弁当忘れたのか?さっきのパン貰って悪かったな」
「いや、うん・・・それはいいけど・・・うーん、今から購買行ってももう残ってないよね」
「そうでしょうねぇ」
「どうしよう・・・ジュースで我慢かな」
「・・・しょうがねぇなぁ、これやるよ」


火神の呆れた声と共に、ぽいと菓子パンが投げてよこされた。


「クリームパン?え、いいの?火神くんは・・・」
「俺はさっきのBLTでそれなりに腹いっぱいになったしな。やる」
「あ、ありがとう」
「じゃあボクはこれあげます」
「黒子くんも?わぁ、卵サンドだ」
「ボクもさっきのパンでお腹いっぱいになったので。どうしようかと思ってたので、良かったら眞城さんが食べてください」
「ふ、二人共ありがとう!お金払うよ」
「いいですよ、ジュースもらっちゃいましたし」
「そーだぜ、たまには甘えとけ」


がしがしと火神に頭を撫でられて、そして乱れた髪を黒子がそっと直してくれる。
なんだか恥ずかしい。火神と黒子に子供扱いされているような気がして。


「・・・ありがとう」


でも悪い気はしなくて、もう一度お礼を言って卵サンドから食べ始めた。
おかしいな。購買の、普通の卵サンドなのに。

幻のパンよりずっとずっと、美味しいと思った。











***********************************





「で、なんだあいつら」
「青春だよな〜」
「俺思うんだけどさ、眞城ってぜったいあの二人のどっちか好きだと思うんだけど」
「う〜ん、好き、まではまだ行ってないんじゃないか」
「・・・」
「水戸部がね〜、セツナちゃんは多分まだ恋愛したことないと思うって!」
「待て、何故わかる」
「・・・!」
「男の子に対する反応が三番目の妹ちゃんと同じだからって!!」
「兄貴こぇぇなそこまでわかるのか・・・」
「でも、眞城は二人のことほんと好きだよな。恋愛とか、そんなんじゃなくて」
「土田もそう思うのか」
「んー、まぁな。眞城はバスケ部の皆のこと大好きだけど、あの二人とカントクはまた特別なんだろうと思うよ」
「やだもうセツナちゃん可愛い!!ほんっと妹に欲しいわ!!!」
「カントク落ち着いて」
「・・・恋愛に変わったりしないのかなー」
「えー、どうだろう」
「じゃあもし眞城が恋をするとしたら、火神と黒子どっちだと思う?」
「そうだなぁ・・・」
「まぁどっちと青春してもいいけどね、もし万が一私の可愛い妹分泣かせたり、挙げ句の果てに三角関係とか部活に支障が出るようなことになったらその時は・・・」
「カントク、顔。顔」
「般若がいる・・・!!」


先輩たち、好き勝手話す。



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