お試し黒ばす | ナノ

vs海常After


にっこにこのリコと、心底悔しげな武田監督と。
その前で握手を交わし合いI・Hでの再選を約束する両校のキャプテン・・・日向と笠松を横目に、セツナはきょろりと周囲を見渡した。


「・・・どうしたんです、眞城さん」
「え、いや、あの・・・黄瀬さん、いないなと、思って」
「・・・そうですね・・・」


黒子も視線を伏せて黙り込む。寂しそうに見えるのは、セツナだけだろうか。


「・・・て、それよりも!黒子くん。このあとすぐ病院行かなきゃダメだよ」
「え、どうしてです?」
「どうしてって・・・頭、ケガしちゃったでしょ」
「あぁ・・・」
「あぁって・・・」


呆れた。もしかして忘れていたのだろうか。
ケータイを取り出して一番近くの総合病院を検索しながら、つい溜め息を付いた。その拍子にズキッと腰が・・・
・・・いや、気のせい、に、したい。
落ち着いたら違和感を感じ始めてしまった腰に、セツナは僅かに焦った。


「黒子君!それからセツナちゃんもいらっしゃい!」
「はい」


リコが呼んでいる。その手に握られた紙はどうやら海常の生徒がよく利用している総合病院までの地図だそうで、怪我をさせてしまったお詫びにと笠松から渡されたらしい。
検索は無駄になってしまったが、海常が贔屓にしている病院なら間違いないだろうとケータイを閉じた。


「これ、ここから歩いて10分もかからないって。二人でいってらっしゃい」
「はい・・・ありがとうございます」
「付き添いは私でいいんですか?」
「何言ってんの?セツナちゃんも見てもらうのよ。付き添いは私が行くから」


リコが呆れを多大に含ませながら言い、その言葉に黒子を初めとしたバスケ部一同がぽかんと口を開けた。


「え、カントク?なんで眞城も病院に行くんだ?」
「そ、そうですよ。私は別に怪我してません・・・よ・・・」
「・・・・・ほーぅ?」


火神の問に乗りセツナが慌てて否定すると、リコはじとっとした目でセツナに近づいた。
バレてる、まずい。
そう思うよりも先に、にゅっと伸びたリコの手がセツナの制服の上着をまくりあげて。


「ひ、きゃあ!!?」
「買Jカッカントク何やってんだ!?///」
「やっべ見えたセツナちゃんのおへそ!!」
「どこ見てんだバカコガ目ぇ閉じろ!!!///」
「やっぱりね!私の目は誤魔化せないわよ!!セツナちゃん、黒子君を支えた時に腰打ったでしょ!?動きがおかしいと思ったの!!!」


日に焼けていない腰回りを周囲の目に晒され、セツナは顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。しかしリコは男部員の悲鳴・・・一部喜びの声も入っている気がするが・・・すら一切気にせずセツナの腰に手を当て怪我の有無を確認して。
羞恥のあまり半泣きになりながら必死に制服を抑え、セツナは叫んだ。


「ごごごごめんなさい大人しく病院行きますかかりますから!!リコ先輩、はずっ、恥ずかしいです・・・!!!」
「え、あ、・・・あっ!!?ごっ、ごめんねセツナちゃん!!隠そうとするから思わず・・・ちょ、野郎共なんでこっち見てんの見んな!!てかセツナちゃんのへそチラ見た奴そこに並べ記憶なくしてやるから!!!!」
「そんな理不尽な!眞城の服まくったのはカントクだろ!!?」
「うっさいお黙りいいから並べェェェ!!!」


ぎゃああああと幾多の断末魔が響く中、黒子はミスディレクションをフル発動して気配を消しつつ、そっと熱くなった顔を抑えた。


(・・・眞城さんの肌、白かった・・・)


そんな不埒な思いがむくむくと盛り上がり、ハッと我に返って頭を振る。
黒子だって健全な男子高校生だ。思わぬラッキーハプニングだと思ってしまえばそれで終わりだが。


(かお、熱い)


リコが最後まで逃げ回った火神にシャイニングウィザードを決め、返り血にまみれつつ君臨するその横で、耳まで真っ赤にしたセツナを盗み見る。
思えば彼女に怪我をさせてしまったのは自分だ。
そう思えば申し訳なさが襲ってきて、動揺を顔に出さないように気を引き締めつつセツナの傍に歩き寄った。


「あの、眞城さん・・・すみません、ボクのせいで」
「狽ヲっ、あ、ううん、気にしないで、そんなに痛くないから!私より黒子くんの方が大切だからね」
「それは違います。誠凛の仲間で、誰に上下もありません。眞城さんも、大切なマネージャーなんですから」
「・・・そ・・・それは・・・あり、がとう・・・」


ぶわ、と更にセツナの頬が朱に染まる。
・・・かわいいな、と、思った。
思えば、帝光にいた時から黒子の周りには桃井を初めとした女子マネが数多くいたが、仲良くしてくれてもあくまでマネージャーの域を出なくて。女の子から面と向かって「友達」だと言われたのは初めてだったし、・・・面と向かってあんなにキラキラした目で、かっこいい、と言われたのも初めてだった。
黒子はそのプレイスタイル故、試合中もほとんど目立たない。黒子は影だ。それはよく理解しているし、気づかれないことが強みなのだからそれはいい。
それでも。
黒子のプレイを認めてくれたセツナが寄せてくれる純粋な憧れが嬉しくて、無邪気な褒め言葉が嬉しくて。
黄瀬やかつての相棒が好意を含んだその言葉を投げられているのは幾度となく聞いてきたが、こんなにもむず痒くなるものなのだろうか。

女の子の、友達。
いい、な。

黒子の頬がふっと緩んだ。


「病院、一緒に行きましょう」
「・・・うん」


まだ頬を染めたままのセツナの頭をなんとなく撫でて、やっと落ち着いたリコに連れられて病院へ向かった。







・*・*・*・







「黒子は異常なし、セツナちゃんもただの打撲だって言うし・・・なにはともあれ」



っしゃー!勝ったーッ!!
空に向かって雄叫びをあげた小金井を微笑ましそうに見ながら、リコは満足げにうなづいた。和気藹々と帰路を辿る誠凛一行だが、その空気にぐー・・・ッという小さな音が混じる。セツナが、小さな体を更に小さくしてリコの後ろに隠れた。


「・・・今の、セツナちゃん?」
「・・・・・・・・す、みません。朝ご飯、食べるの忘れてて・・・」
「ぶっは!いいよいいよ可愛い!!このままどっかで食べてこーぜ!」
「そうだな、何する?」


小金井の発案で食事による事になり、皆の所持金を確認する。
・・・絶望、とはこういうことを言うのかもしれない。交通費を抜いて小銭しか残らなかった懐に涙しつつ、主に日向と小金井が奈落に落ち込むその前でリコが満面の笑みを見せた。


「大丈夫!むしろガッツリ行こうか!肉!!」


思えば。
リコの満面の笑みに、何かを悟れば良かったのだ。
不審に思いつつリコに促され入店したのはステーキボンバーというそれなりに名の通ったチェーン店で・・・そしてジュウジュウと音を立てて目の前に置かれた4kgの特大ステーキ。その場にいた一同(リコは除く)の額に脂汗が滲んだ。
セツナの前に置かれた小振りのハンバーグ定食が更に小さく見える・・・


「遠慮せずいっちゃって☆」
「ガッツリ行き過ぎじゃねぇ!!?」
「え・・・ちょ・・・マジ・・・?これ食えなかったらどうすんの!?」
「え?ちょっと〜・・・何のために毎日走り込みしてると思ってんの!?」


暗に食い逃げを示唆したリコに
バスケだよ!!!
という総ツッコミ入った。ひとり普通のランチセットだけで済んでいるセツナはただただ苦笑いを零すしかなく。


「リコ先輩、いいんですか本当に・・・」
「大丈夫大丈夫、食べるのもあいつらの勤めなのよ!ガッツリ動いたらガッツリ食べて回復する!んでまた動く!!体力向上の基本よ」
「そうですか・・・」


もぐ、とハンバーグを口に含んで、それから号泣している日向、現実逃避する伊月、気絶した水戸部とそれを嘆く小金井、まで順番に見回し心底申し訳なくなった。
ギブです、とフォークを置いた黒子に更に悲鳴が巻き起こる。
しかし、救世主というものは案外近くにいるもので。


「うめー、つかおかわりありかな?あれ?いんないんだったらもらっていい?ですか?」
「買潟Xみたいに食っとる!!」
「ごっほ、けほ・・・っ、か、火神くんもう一枚食べちゃったの!?」
「これうめーよ。眞城、そのポテト食わないならくれ」
「い、いいけど・・・」
「うん、これもうめー」


もぎゅもぎゅと口いっぱいにほおばる様はまさにリス。いや、ハムスターか・・・?
二年生からも崇められつつステーキをモリモリと食べ続ける火神を見ていると、セツナも気分的にお腹いっぱいになってしまった。まだ半分残っているセットを横目にどうしよう、ときょろりと周囲を見渡すと、朝準備した自分の保冷バックが目に入って。


「あ、そうだ、リコ先輩!」
「ん?なぁに」
「あの、私ドリンク作ってみたんです。粉末じゃなくてレモンと糖とクエン酸、それからちょっとだけ塩も入ってます。よかったら、味見てくれませんか?」
「そうなの?あれ結構手間かかるじゃない。よくできたね」
「今朝、緊張して早く起きてしまって・・・」
「うふふ、勉強熱心ね〜!どれどれ・・・。・・・うん、美味しい!これいいわ、やっぱり粉末のより生素材の方がいいわね!!塩加減もばっちりよ、これなら市販のスポドリより効果ありそう」
「ほんとですか!良かったー、初めてだったんで不安だったんです」


リコの合格も得られて、セツナの作った初めての生ドリンクは無事部員の飲料を認められた。更に、時折作って来てね、との嬉しい言葉も貰い、セツナの顔もゆるっと笑んだ。
・・・しかし・・・本当に、火神がいなかったらどうなっていたことか。
結局一人ですべての特大ステーキを平らげた誠凛の光に拍手が湧き、そしてその現状を見たセツナの中に「火神の胃袋はブラックホール」としっかりと記憶されることになった。







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