心ひとつに決めたこと
眞城セツナは自分のことが嫌いだった。
地味で、暗くて、友達もいなくて。
誇れるものなどなにもなくて。
そんな自分が大嫌い、で。
その中でも特に、自分を嫌いだ嫌いだと言い続けるだけで何もしない自分が、一番。
嫌い、だったから。
中学を卒業して臨む新たな季節を迎え、ひとつ、決めた。
・・・自分を嫌いな自分も、一緒に卒業したい。
ただ伸びるままに伸ばしっぱなしだった黒髪の、傷んでいた部分をバッサリと切った。ショートにするのは親に断固反対されてしまったので傷んだ部分だけだったが、それを切り落としても背中の真ん中ほどの長さは残っているのだから随分長い間放置していたことを痛感する。目を覆い隠していた前髪も、眉より少し長いくらいまで切って横に流してピンで止めて。
地味な黒縁のメガネを止めてコンタクトにして、すこしだけ、アイラインを引いてみたり。
親に頼み込んで、地元から少し離れた都内の高校に入学を決めて、条件付きだけど一人暮らしもさせてもらえることになった。
白襟に黄緑色のラインが入ったセーラー服。中学校は灰色のブレザーだったからとても新鮮に感じて、どきどきした。
新しいスクールバッグ。新しいローファー。新しいノートとペンケース。
何もかもを新しくして、一度目をつぶってから思い切り見開いた。
この春、セツナは誠凛高校の一年生になる。
そしてこれは新たなる眞城セツナの誕生なのだ。
自分が大嫌いな自分にさよならをする、その為の。
「・・・大丈夫。大丈夫よセツナ。どこもおかしくない。普通の高校生よ」
入学式当日。ばくばくと早鐘のように打ち鳴らされる心臓をなだめるように、小さく自己暗示をかける。鏡を覗いて何度も身なりを確認した。
背中に流れる髪は以前よりは短いけれど、それでもまだ肩よりは長い。
少し悩んで、顔の横でひとつ髪を結んだ。それから更に悩んで、水色のシュシュで黒ゴムを隠す。それから今日のおは朝のラッキーアイテムであるバニラのアロマを少しだけハンカチに馴染ませて。
それから部屋の壁に貼った目標を、ひとつずつ声に出して読んだ。
「自分から、声をかけること。常に笑顔を心がけること。気を、大きく、持つこと」
これで大丈夫。
何度も深呼吸をしてからちらりと時計を見ると、出発予定時間を少し過ぎてしまっていた。しまった、と焦りつつ忘れ物がないか戸締りはできているかを大急ぎで確認しスクールバッグを持って部屋を飛び出る。
眼前に広がるのは眩しすぎるほどの青空で、思わず息を飲んだ。
足がすくみそうになるのを叱咤して、マンションの階段を駆け下りる。
あぁどうか神様。
私の決意を守ってください。
20130427
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