確定未来にいざ一歩



好き、の最上級形。
それってきっと「愛してる」だけじゃ伝わらないと思うんだよね。
だから行動で示そうと思います。



―思いたったら吉日と言うし!





本を読む礼の背中にぎゅむぎゅむと抱き付いて行動を束縛する。
心底迷惑そうに溜息を付かれたけど気にしない!



「勘右衛門、邪魔」

「おれが居るのに本ばっかり読んでる礼が悪いんだよ」

「これ明日までに返さなきゃいけないの。私に図書委員長の雷受けろっていうわけ?」

「礼ならそんな薄い本一刻もあれば読めるだろー」

「じっくり読みたいのよ」

「おれだってじっくり礼を味わいたいのを我慢してるのに」

「……」



無言で睨まれた。
でも、おれ知ってるよ。
礼の心臓がすごくドキドキしてること。耳がわずかに赤いこと。眉間に寄せてるその皺は、実は照れ隠しなんだって事。

だって、世界で一番大好きな君のことだから。
おれの希望的観測が多大に含まれていることは否定しないけど、それでもね。



「礼いいにおいー」

「殴るよ」

「どうぞ?」

「・・・・・」



ギロッと視線が鋭くなった。しばらく見つめ合った(おれは睨まれてるけど)後、礼はふいと視線を外して再び読書に没頭する。
もっと礼を見ていたいけど、これ以上ちょっかい出して本気で怒られたらきっと二、三日は口を利いて貰えなくなるから大人しく礼の小柄な体を抱きしめるだけに留めた。
さらさらと指通りの良い髪が頬に触れて、気持ちよくて目を閉じる。
ふわふわと柔らかい肌に、息を吸い込めば甘い香り。

愛しい。
この上なく、愛しい。

目を閉じたまま、鼻先で礼の首筋を探る。
一瞬だけぴくんと反応したけど、礼は無視してずっと本に目を落としていた。



「ねぇ礼」

「………」

「おれ達、もう付き合って長いよね?」

「…そうでもないわよ。たかだか四年」

「長いよ。一年の時からじゃん」

「長くないわ。普通よ」

「…そっか。じゃあさ、これからもっと長くしよう。ね」

「…」

「好きだよ。すっごい好き。礼とずっと一緒に居たい」

「いきなり何?あとちょっとで読み終わるから、すこし黙って」

「やだ。おれ今本気」

「何がよ」



しかめ面した礼の正面に回り込んで、正座した。
ちょっとびっくりした礼の顔もやっぱり可愛い。
彼女の手から本を取り上げて、空いた掌に自分の掌を重ねる。ひやりとしたのは一瞬だけ、すぐに体温が混じってどちらの手なのか分からなくなった。

一呼吸、して。



「礼。卒業しておれが無事プロ忍になれたら、おれと結婚して」



びく、と礼の手が震えた。
ひっこめ掛けられた手を強く握って引き寄せる。逃がすもんか。
心底驚いて油断したらしい礼は捕らえるに容易い。がちんがちんに固まった体を腕の中に閉じこめて、もう一度耳元で言った。



「おれと夫婦になってよ」

「かん、え、もっ…」

「最初の内は礼に楽させてやれないかも。でも、いつか絶対、礼を幸せにする自信がある。その為ならおれは頑張れるから」

「なに、言って」

「もうねー、限界だよ。礼はどんどん可愛くなるし、おれ自分でも引くぐらい本当に礼にベタ惚れなんだ。他の奴に渡したくないし、渡すつもりも毛頭無い。でも人生何があるか分からないから、礼がおれのものだって言う確かな証拠が欲しい」



礼の額に唇を寄せる。ちゅ、と小さなリップ音、それだけでもその行為を礼に許されていると言うだけで嬉しくてたまらない。
見開かれた礼の瞳におれが映っているだけで、ここが天国だと言い切れる。



「おれも色々考えた。でも考えるの止めた。おれは礼が好きで、ずっと一緒にいたくてさ、好きだって一生言い続けてもぜんっぜん足りない。だからせめて少しでも多く愛してるって言いたい。礼の一生の隣におれを置いて」

「………ほんき?」

「じゃなきゃ言わない」

「私で良いの」

「礼が良いの」



右往左往する礼の視線がおれと繋いだ手に行き着いた。
ぐ、と力を入れて離そうとするけど、やだよ。離さないよ。
礼が応えてくれなきゃ、離せないから。



「…離して」

「やだ」

「離して、くれなきゃ…私が、勘右衛門に抱きつけないじゃない」

「!!」



え。
顔を背けながらもはっきり言われたその言葉に、おれはつい力を弱めてしまった。
その隙にするりと抜け出た礼の手がそっとおれの首に廻る。



「これで…返事は分かってくれるかしら」

「えーっと、あの…」

「さっきの言葉、撤回したらひっぱたくわよ」



礼の顔が見えない。でも首筋にあたっている礼の頬はすごく熱い。
急にバクバクと暴れ始めた心臓に、今更だけどおれはすごい事を言ってしまったのだと自覚した。
礼と夫婦になる。
礼と。



「―――っ!!」

「…なんで黙ってるのよ」

「え、いや、その、」

「あんたが言ったんでしょ。結婚してって。私は、その申し出を受けるわ」

「…本気?」

「なんであんたがそれを聞くのよ」

「ごめん、今更だけど頭破裂しそう」

「おばか」



くす、と礼が耳元で笑う声がした。
どうしようどうしよう。

いま凄く、幸せすぎて泣きそうだ。

自分から言い出しておいて何だけど、礼の顔が見れない。
それでも触れた体を離すことはもっとできない!



「………ぜっったい!礼を幸せにするから!!」

「期待しないで待ってるわ」



つい叫んでしまったおれの頬に唇を押し当てて、礼はひどく優しく微笑んだ。
その笑顔にまた、愛しいという気持ちがこみ上がって噴き出して。



「一生離さないからぁぁぁ!」

「はいはい、幸せにしてね」



好きよ、勘右衛門。
照れた様に呟いた、おれには勿体ないくらい可愛い礼をきつくきつく抱きしめた!!











「言っておくけど、前提条件忘れないでね。勘右衛門が無事にプロ忍になってくれないと、私安心して子供生めないから」

「子供!?」

「当然でしょ、夫婦になるんだったらね」

「………っ、頑張る!!」

「よし」


満足気に笑う礼とまだ見ぬ子供との家庭を想像して、おもわずにやけた。













************************



「おい聞いたか兵助、勘右衛門がついに礼にプロポーズしたらしい」
「聞いた…と言うか聞こえた。あいつら俺が部屋の外に居るのに気付かなかったのだ…」
「あぁ、それで僕達の部屋に来たんだね」
「勘右衛門、将来絶対に礼の尻に引かれるぜ。礼はあぁ見えてかなりの女傑だからな」
「まぁ…本人が幸せなら良いんじゃない?」
「…それもそうだな」



20110916



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