【KRBS】IF設定で同棲(火黒)
とにかく甘く甘くイチャイチャさせたかった定例通りに仕事を終え、帰路につく。
今日はいつもより早く園児全ての保護者の迎えが来たため、保育士である黒子もその分早く恋しい我が家へと歩を進めることができた。途中寄ったスーパーで安売りしていた鶏肉といくつかの野菜、それから切らしていると連絡があったボックスティッシュとキッチンペーパーと・・・少し迷ってから缶ビールを二本購入する。暦はそろそろ春を迎え、固く締まっていた桜の芽もうずうずしているようだ。この分なら近日中にあの綺麗なピンク色が見られるかもしれない。そういえば先日、降旗からメールが届いていた。高校時代の同級生からのそのメールは久しぶりに誠凛高校バスケットボール部で集まって花見でもしないかという提案で、黒子にしては珍しくすぐに了承の旨を返したのだ。
誠凛高校バスケットボール部。
そのワンフレーズを聞くだけで懐かしく、暖かく、輝かしい思い出が溢れんばかりに蘇ってくる。
苦しいこともあった、辛いこともあった。怒り、涙を流し、悔しさに咆哮した。しかしそれ以上に胸を占めるのは狂おしいまでの愛おしさだ。黒子一人では決して掴みとれなかったであろう努力の実りとそれに伴った栄光を、力を併せ共に手にした仲間たち。尊敬する先輩と、切磋琢磨した同級生と。
それから。
それから・・・
息が詰まるほどの郷愁に震えながら、居を構えるマンションの一室へ走る。エントランス入り口のオートロックキーを解除し、エレベーターで七階へ。やっと使い慣れてきた部屋の鍵を差込んで少し重めの扉を開ければ鼻を掠めた香ばしい匂いに弱く感嘆の息を漏らした。靴を脱ぎ捨て、・・・流石に保育園の先生ともあろう自分が(例え自室であろうとも)行儀悪くするのは謀られたのできちんと揃えて、空腹を刺激する香りの発生源へ向かう。
玄関を入ってすぐにキッチンが見えるこの広めの1LDKのマンションは二人で決めた。
そのキッチンの奥に見える人影にいつも・・・いつも。泣きそうになる。悲しさではなく嬉しさだけでなく愛おしさだけでも涙が滲むのだと、初めて教えてくれた人。
「かがみくん、」
「おー、おかえり黒子」
濃いワインレッドのエプロンをつけた彼は黒子に気づくとフライパンを操っていた手を止め、にっと笑ってその大きな手を差し出した。
その手に自らの手を重ねて、黒子は彼の前ではすっかり馴染んでしまった笑みを表情に登らせる。
「ただいまです」
「疲れてるだろうに買い物頼んじまって悪かったな。帰ってきてから買い忘れに気づくなんてフカクだったぜ」
「不覚、ですね。漢字で言えれば完璧なんですけど」
「うっせ、んなもんお前くらいにしかわかんねーんだからいいんだよ」
「ふふ、そうですか」
黒子が買ってきたものを火神が冷蔵庫にしまい、その開けた冷蔵庫からよく冷えた麦茶を取り出す。黒子は火神の夕飯準備の進み具合を見てふたり分のコップに、火神から渡された麦茶を注いだ。この間、二人はまったく別の話題について話している。それなのに二人の行動に矛盾が見られないのはもはや日常のことで、高校時代から数えて10年の月日がどれほど濃いものだったのかを容易く連想させた。
麦茶を飲む前に手を洗ってうがいをしてきた黒子を、火神がほんのすこし待ちきれなかったかのように引き寄せる。黒子の細い腰はバスケをやめてさらに華奢になってしまったようだ。それを言ったら高校時代から全く衰えていない掌底を食らって悶絶したのはまだ記憶に新しいが、呆れたようにため息をついた黒子の表情が思ったよりも柔らかくてより一層強く抱きしめてしまったのは決して火神が悪いわけではないだろう。
「くろこ、上向け」
「ん」
少し屈んで黒子の唇を掠め取った火神はそのまま、もう一度「おかえり」と低く呟いた。
ふるりと黒子の耳が震え朱に染まるのをさも面白そうに確認してくつくつとした笑みを堪える。ふ、と息を吐いた黒子がもう勘弁してくれ火神の厚い胸板を押すが、いくらやんちゃな子供たちに鍛えられているとは言え細身の一般男子、ガタイのいい現役の消防士の鍛え方には適わない。黒子の抵抗虚しく安安と火神に抱え込まれ、黒子は早々にその腕の中からの脱出を諦めた。
代わりに腹いせだとその鍛え上げられた腹筋に手を這わす。さわさわと微妙な力加減でなで上げてやれば、ついには堪えきれなくなった火神はぶっはっと思い切り笑いだした。
「くすぐってぇよ!」
「そりゃくすぐってますからね」
「やーめろってっ」
「じゃあ離してください」
「なんだよ、せっかく二ヶ月ぶりに明日の休みが被ったってのに」
ぶすくれて眉根を寄せる火神の眉間をぐりぐりと押しながら、黒子は呆れたようにため息をついた。
「だから、ですよ。折角キミが作ってくれたご飯、美味しいうちに食べたいです。それから一緒にお風呂に入って一緒に寝て。明日一緒に寝坊したいんです。わかります?それに・・・」
「それに?」
「・・・火神くんガタイ良いんですから、抱き込まれたら、ボクが火神くんのこと抱きしめられないじゃないですか」
ボクだって抱きしめたいです、キミのこと。
視線を明後日の方に投げながら呟いた黒子の声はとても小さかったが、それを聞き逃すほど物理的に火神との距離は遠くない。つまり、しっかりと届いたわけで。
「・・・ん」
「よし、いい子です」
一度離れ、黒子が抱きつきやすいようにソファに座り込んで腕を広げた火神の頭を抱え込むように抱きしめた黒子の緩みきった表情を、もし中学時代のキセキ達が見たらきっと驚愕仰天するだろう。
そうしたら彼らに教えてあげたい。黒子だけではなくて、あの時確かに色々な意味の孤独を持っていた彼らであるが、今はもう過去のことなのだと。高校でそれぞれ出会ったかけがえのない人とともに、きっと今頃、今の黒子と同じような笑みを浮かべているに違いないのだ。
火神の、赤混じりの黒髪に鼻先を埋めながら黒子は目を閉じた。その瞼の裏にいつまでも焼きついて離れない姿に思いを馳せる。
黒子の手から放たれたボールが火神の手によってゴールに吸い込まれていく、あの光景。
10年を過ぎても尚色鮮やかに、むしろその貴さを増して浮かびあがる彼の人の背中。
「あした」
「ん?」
「ねぼう、して。一緒にランチを食べたら、久しぶりにバスケしませんか」
「バスケ?やる!」
「本当は先輩たちやカントクや降旗くん達にも声かけたいところですけど・・・流石に急すぎますし。あ、お花見の返信しました?行きますよね。休み取ってくださいね。その時に誠凛バスケ部再集合なんですから」
「もちろんだっつーの。例え急な出勤になってもソッコーで鎮火して花見行ってやらァ」
「いやそこはちゃんと仕事してきてください」
「例えだよ例え!ってか、なんの事件も起こさせねーよ。その為に最近警察署と・・・つか青峰と組んで犯罪防止キャンペーンの見回り強化してんだから」
「わぁ、頼もしい。頑張ってくださいね、現役消防士さん」
「おうよ。お前も腕白な子供に負けてんじゃねーぞ、保育士」
「大丈夫です、見てくださいこのチカラコブ」
「なんか懐かしいフレーズだなソレ」
クツクツと笑いながら名残惜しげに黒子の胸に顔をすりよせ、火神は一度強く力を込めてから解放する。黒子も最後に火神の香りをたっぷりと堪能してから距離を取った。
「さて、そうと決まればさっさとメシ食っちまおうぜ。風呂は洗ってあるからお湯貯めれば大丈夫だ」
「そうですね。実はお腹ぺこぺこです。あ、そうだ缶ビール買ってきたんでした。晩酌しましょう」
「気がきくじゃねーか!」
「えっへん」
戯れのような会話を続けながら、ふたりで自然と役割を分けてテーブルの上に料理を並べていく。鼻腔をくすぐるいい匂いは少しぐらい冷めてしまっても全く衰えることはなく、ふたりの頬をゆるりと緩めさせた。お揃いの食器とお揃いのお箸。お揃いのお椀。一緒に暮らし始めた当初は恥ずかしくて仕方なかったそれが今は当たり前で、その当たり前が『当たり前』で有り続けていることに途方もなく幸せを感じている。
「火神くん」
「なんだ?」
「好きです」
「・・・あぁ、俺も」
「キミと逢えて本当に良かった」
「また小っ恥ずかしいことを・・・まぁ、俺も、そう思うけどよ・・・あー!もう!黒子テメェ今夜覚悟しとけよ!!」
「それは困りました。とりあえず明日の午後には回復できる程度でお願いします」
キミとバスケしたいですし。
目を細めて笑う黒子の幸せそうな唇に、火神は僅かに耳を赤く染めながら本日三度目の深い口づけをした。
スイング譲ってくれた春ちゃんへ!
仕上げるのめっちゃ遅くなっちゃってごめんなさいー!!!
でも愛だけはもったり詰めたので宜しければお納めくださいm(_ _)m
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15th.Apr.2014
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