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【KRBS】ミルクパズル(緑高?高緑?)

一般的にパズルと言えば、風景画や動物の写真や、建物の絵などが描かれているものだと思う。
しかし妙に機嫌のいい高尾が持ってきたそれは何も書かれていない真っ白の…所謂、『ミルクパズル』と言われるものだった。


「妹ちゃんが持ってたんだけどさ、どうにも難しくて投げちゃったんだよね〜」
「だからといって何故俺のところに持ってくるのだよ」
「え?真ちゃんならできるかなーって思って?」


まぁまぁとりあえずやってみようぜ〜、とカラカラ笑いながら高尾はその真っ白いピースのひとつを手にとった。ぱちんぱちんと、最初のうちはスムーズに進んでいたその手だが枠組みを完成させたとともにぴたりと動きが止まる。手に持ったピースを当てはめようと試行錯誤するが叶わず、それを諦めてまた違うピースをとってはうんうん唸っている様は思ったよりも真剣で、緑間はその端正な目元をわずかに瞬かせた。
意外だ。いくら無地で難しいとはいえ、あの高尾が枠組みのみで躓くなど。
高尾は決して頭が悪いわけではない。むしろ文武両道を校訓に上げ歴史ある進学校である秀徳高校の生徒であるのだから、そこら一般の高校生よりかはよほど記憶力もあるし応用力もある。加えて発想力もそれなりに優れているのだからただ無地であるだけのパズルなどは差ほど苦もなく作り上げると踏んでいたのだが。


「って、真ちゃんもやってよ」
「なぜ俺が」
「俺一人でこんなのできるわけねーっしょ?」
「・・・そんなに難しいのか」
「だから、やってみようってば。もしかしたらこのミルクパズルが後々ラッキーアイテムになるかもよ?」
「・・・」



確かに、目の前の真っ白なパズルは色々と当てはまることがありそうだ。『白』にも『四角いもの』にも『組み立てるもの』にも当てはまる。高尾の言うことも一理あると思い、とりあえずやってみようと1ピースをつまんでみた。随分と厚みのないパズルだ、確かにやりにくそうではある。
ふと、感触を確かめるようにひっくり返した指先に小さな違和感を覚え、その違和感の正体を確かめようとつまんだピースをまじまじと見る。しかし分からず、とりあえずパズルを完成させてからもう一度よく見ようと散らばるピースの前に腰を落ち着けた。
・・・複数のピースを手のひらで握ってぐいぐいと押し付けてくる高尾にイラっとしたのもある。高尾が出来なかったものをあっという間に完成させてやったらこの生意気な顔つきを少しは歪ませてられるだろうかと考え、内心見ていろとほくそ笑んだ。

ぱちん、ぱちん。
ひとつひとつのピースをよく見て、当てはまるところにはめていく。
しかし確かにあの高尾が唸るだけあって、形が同じに見えてもはめてみると合わないピースが多々あった。そういったものはひとまず横へ置いておいて、嵌るものから優先的に嵌めていく。そうすると、先ほど合わなかったピースが合うスペースが出来たりする。
じっくりと焦らず、よく見極めて深く思考し少しずつ進めていく。そうすれば自ずと道が見えてくる。
パズルとは、そういうものだ。
決して一度に結果が出ることはないそれは、どこかバスケに通じるような気もしてきた。
気の遠くなるような過程を、ただただ1ピースずつ・・・一歩ずつ進むしかないのだ。
無心でパズルを組み立てていると、不意に顔の横で高尾の感嘆の息が聞こえた。


「すっげ・・・真ちゃん、ほんとなんでもできるのな」
「ふん、これも日頃の努力の賜物なのだよ。今日のラッキーアイテム『クォーツのブレスレット』・・・クォーツには集中力を高め雑念を払う効果があるのだよ。パズル等集中力を必要とするものの攻略にはまさにもってこいの代物だ。しかも今回のクォーツは純度透明度が高く、その輝きは市場に出回っているものの比ではない」
「へぇー、・・・それもまたすげぇ高そうなブレスレットだな・・・」
「母のを借りた」
「真ちゃんの家庭環境、時折怖くなるわ。おぼっちゃんめ」
「誰かおぼっちゃんだ誰が」


雑談をこなしながらも、緑間の視線と指先はとどまることなくパズルを完成させていく。時折迷いながらも止まることなく、ついにあと三ヶ所を埋めるのみとなった真っ白なパズル。
ほぼ完成に近づいたそれを興奮を含んだ眼差しで見つめる高尾と、まだまだ油断できぬとばかりに真剣な眼で対する緑間と。
ぱちん、ぱちん。
緑間の長い指先が、最後の1ピースをとらえる。

・・・ぱちん。


「・・・おぉー・・・」
「・・・ふん・・・まぁ、こんなもんなのだよ」


ついに姿を現したミルクパズルの完成形。
電灯の光を受けて煌々と光って見えるそれを前に、二人は知らず詰めていた息を長く長く吐き出した。


「で」
「ふぁ?」
「完成させたぞ」
「ん、おぅ!スッゲーな真ちゃん、俺無理だったわ!」
「ふん、バカめ」


ただただすげーすげーと繰り返す高尾の、なぜかこちらを見ようとしない鷹の目を睨んでやる。初めてパズルのピースを指に持った時の違和感。パズルを組み立てていくに連れ明確な感触となったそれは、完成を待たずして緑間にあるひとつの可能性を示していた。


「お前、このパズルに何を書いた?」
「へ?な、何が書いてあるっていうんだよ、見ての通り真っ白だろ」
「俺が分からないとでも思ったのか、甘く見られたものだな。俺の指先は3Pの為に感覚を磨いているのだ、ピースのいくつが不自然にへこんでいたのはとっくに気づいていたのだよ。それでもシラを切るというのなら、いいだろう、ちょっと待ってろ」


立ち上がり、勉強机の引き出しからルーズリーフと鉛筆を取り出す。
そわそわと急に落ち着きなくなった高尾が止めるのも構わず、パズルの上にルーズリーフを重ねてその上を鉛筆で黒く塗りつぶしはじめた。あ、だの、ちょ、だの言葉にならない単語のかけらをこぼしながら、高尾は鉛筆を握る緑間の左手を抑えようと試みるが緑間の長い足に阻まれて敢え無く失敗する。


「おい、行儀悪いんじゃねーのおぼっちゃん!!」
「だから誰がお坊ちゃんだというのだよ!!いいから黙って見ていろ、お前が何を書いたのかしらんがもし暴言でも書いていようものなら一発殴ってや・・・る・・・」
「あー・・・だからやめろっていたのに・・・」


わずかに耳を赤くした高尾が、いたたまれないとでも言うように片手で顔を覆った。
重ねたルーズリーフを鉛筆で塗りつぶして、そうして浮かんだ文字は。

『しんちゃん だいすき』

首まで沸騰するような熱さを隠しきることもできず、緑間は叫んだ。


「なん、おい高尾!!!」
「あーあー・・・だから、止めたのに・・・」
「いや、そういうこっちゃないのだよ!なんだこれは、お前妹が持ってたとか言ってなかったか!?」
「いや、うん。もともと妹ちゃんのなんだけど。もらった。十日かけて完成させて、・・・んで、なんとなく、思いついて・・・だ、だってお前、面と向かって言うと照れて怒るし!」
「これはこれで驚くのだよ!!そしてなんでお前まで照れてるんだ!!!」
「いや、最初はいいこと思いついたおもしろそー!!って思ったんだけど、真ちゃんがあんまり真剣な顔でパズル組んでるからなんか、罪悪感というか!羞恥心というか!!」
「〜っ、この馬鹿者め・・・!!」
「ごっ、ごめんってば!!でも嘘じゃねーもん!!」
「い、一回だまれ!!!」


二人とも真っ赤な頬で顔を付き合わせる様は、さながらさくらんぼのようである。
ぎゃんぎゃんと喚きつつも、緑間が握り締めたルーズリーフをゴミ箱に捨てるようなことはなかった。

この日はなし崩しに(後日高尾が緑間に十日分のおしるこを奢らせることを条件として)仲直りして一見落着したミルクパズルメッセージ事件だが、数年後緑間と一緒に暮らし始めた高尾がこの時のパズルとルーズリーフが一緒にしまわれているのを発見して一人悶えることになる。



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リハビリ

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6th.Oct.2014


 
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