春の淡雪 4
 やがて…。
 一刻近い愛欲の時が過ぎ、殆ど無言裡に女体を苛む刻が、漸く終焉を迎えていた。
 雲雀は二度の放射を仕了え、今は三度目の頂点を目指していた。
 室内には男の激しい呻きと息遣い、女のひそやかな悶えが言葉にならぬ音として、蠢く肉体とそれによって起こる淫らな情交の蜜音に溶け合い、密かにそして淫らに響きわたる。

「何度死なせてやったかな? 望み通りだろ?」
「……」

 美凰は意識はあるものの、儚なげな朦朧とした体で弱々しく夜具を掴みしめて悶えていた。
 雲雀の淫指が、花びらの廻りを弄って嬲った。
 雲雀の吐精を受け続ける花園からは、熱くぬめらかな愛蜜が枯れることなく溢れ続ける。
 二人の繋がりは、もはやどちらのものか解らない程に交わりあった体液でしとどに濡れそぼっていた…。
 十五歳の少女とは思えぬ艶冶な姿態。
 処女の血に濡れる女体は最初の痛みを通過した後、息もつかせぬ程に激しい雲雀の欲望に曝され続け、いつしか男の望むままに痴態をえがき、何度も尤き続けていた。

「こんなにぐちょぐちょに濡らして…。君には本当に吃驚だよ。みてくれは清楚なお嬢様って言っても過言じゃないのにね?」
「ふぅっ…」
「どう? これでも舌噛むの? ん?」
「やっ、やぁ…」
「仕方のない子だね。それじゃ僕が噛んであげるよ」

 いやいやと弱々しく頸を振る美凰に対し、赤子の様に乳房を吸っていた雲雀が顔をあげ、朱唇を求めてきた。
 柔らかな喉と頤を押さえつけ、しゃにむに唇を重ねて舌を搦めて吸い続け、己が津液を無理やりに嚥ませる。

「んっ…、んんっ…」

 美凰の口の端から嚥下しきれない銀の雫が滴り落ちた。



 細身で優雅な肢体を持つ雲雀だが、琉球古武術にして攻防一体の武器“旋棍(とんふぁー)”を自在に操る優れた体術の持ち主として近衛士官指南役の一翼を担い、若くして沢田宮親王家にも特別待遇で出入りを許されている程に鍛え上げられた体躯の持ち主でもある。
 筋肉質の右腕が柔らかな白い左腕に絡み付き、夜具を掴んでいる繊手を強く握った。

「うっ…、ん…、あっ…」
「んっ!」

 やがて低い呻きと共に、雲雀の腰の蠢動がせわしげになり始めた。
 嬲る様に花蕊を掏摸し続け、女体に陶酔し続ける雲雀であったが、ぴったりと抱き竦めていた美凰からしなやかに鍛え上げられた上半身を反らすように起こすと、黒光りする双眸を細めて息を荒げ始めた。
 僅かに頸を振り、美凰は喘いだ。

「もう…、もう、お許し…、を…、わた…、くし…」

 雲雀の激しい抽送に、か細い美声が漏れた。

「駄目だよ! 許さないっ…、まだだ! まだ…」
「だめ…、そのままは…、後生です…」
「今更だね…」
「赤ちゃんが…」
「大丈夫だ…。君の周期は…、計算済みだから…」
「ひあっ! はあぁぁぁっ!」
「明日からは…、ちゃんと…、Durex…、つけてあげるから…、うっ、くっ!」
「あっ! ひっ、ひあぁぁぁーんっ!」

 三度目の精気が雲雀の股間に凝集した。
 既にぐったりと尤きついて崩れていた美凰の柔襞が、雄芯を激しく絞りこみ始める。
 その究極の収縮具合に乱れた雲雀は、蕩けそうに柔らかな美凰の臀を抱え込む様にして、強く激しい突き上げを繰り返した。

「うっ…、む…、はっ…、い…、いくっ!」

 ついには根元まで深々と雄芯を埋め込むや、雲雀は堪えかねて快楽の呻きを小さく叫んだ。

「ううっ…、くっ!」

 歓喜と美快が男の四肢を駆け巡った。
 雲雀は自身の精が女体の中へ迸り入るのをうっとりと認識し、 荒々しい息遣いと低い呻きを同時に吐いたが、喜悦の房語を漏らすまいと芙蓉花の唇にくちづけ、美凰の口腔に男の浪声を吹き込んだ。
 熱い白濁がまたしても己の中に放射されたのを感じ取ったのか、女体はひくひくと柔らかに痙攣を繰り返して身体を弓なりに反らした。
 雲雀は柔らかな唇を吸ったなりで、反った美凰の身体をぐっと抱き締め、やがて覆い被さる様に身を俯伏せると、そのまま花痣の散った白い頸筋に顔を埋めつつ、満足そうに低く唸った。
 美凰は気を失っていた。
 萎えた雄芯は、強引に押し開かされた柔襞の中に嵌め込まれたままであった。
 ひと心地つくと、雲雀は腕を伸ばしてその辺りに放ったと記憶のある美凰の寝間着を探り、女の器に根元迄納まっている自身のものを包む様にあてがうと、静かに身をどけて引き抜いた。
 互いの淫蜜に塗れてぬめらかに輝く男根を木綿の布で手早く拭った雲雀は、湿り気を帯びてくしゃくしゃになっていたそれで、雲雀の吐精を滴らせ続けている美凰の下腹部を無造作に覆うとどさりと仰向けになった。
 残滓の後始末を優しくして貰うことさえなく、美凰は悲哀に満ちた表情のまま冷え冷えとする忘却の眠りの中にその意識を漂わせ続けていた…。



 時刻はもはや、明け方に近い。
 東の空がほの白く、障子をぼんやりと照らしていた。
 雲雀は男女の情交の匂いに満ちたなまめかしい牀の中に仰臥したまま、瞬きもせずに空虚な眼差をじっと天井に彷徨わせていた。
 美凰の香しい匂いと仄かに漂う己の香。
 交わったその芳香に、雲雀はいとおしいものを覚えながらそうしたなりでいるのであった。
 雲雀の腕の中には、目覚めてはいるもののぐったりとしたなりの美凰が抱き締められている。
 普段の雲雀なら、女を抱いた後はそれがたまらなく厭わしいものであったし、朝まで牀を共にすることなど決してなかった。
 所が今に限り、全く嫌気が起こらないのが不思議だった。
 堪能した後の爽やかな心地よさが、四肢に染み込んでいた。
 雲雀は自身の胸の中に抱き締めている女体が、まことのものなのかと確かめる様に、膂力により一層の力を込めた。

〔なんて…、素晴らしい身体なんだ。こんな思いは初めてだ…〕

 雲雀はそっと身を起こして、自分が女とした娘の表情を視た。

〔なんという…、美しい面差しなんだろう…〕

 美しい眉宇を顰めてきつく瞼と朱唇を閉じ、俯いて懸命に羞恥に耐えている美凰の様子がたまらなく愛しい…。

「美凰…」

 起き直った雲雀は美凰の細い頤に指をかけ、くいと仰のけた。

「……」
「眼を開けて…、僕を見て…」

 食い入る様にまじまじとその面を見つめ、固く閉じられた芙蓉花に唇を寄せると、雲雀はそっとくちづけをした。
 美凰は逆らわず、男のするに任せていた。
 やがて、くちづけだけでは物足りなくなった雲雀は、更に激しい愛撫を女体に施そうとし始めた。

〔好きだよ…〕

 口に出して囁いたつもりが実際は心の中で呟いていたのだと気づき、苦笑した瞬間…。

「い…、いけません!」

 美凰は雲雀の動きを必死に押し止どめると、緩んだ男の腕から離れ、無造作に下肢を覆っていた寝間着を鷲掴み、真っ赤になった胸元を覆いながら起き上がった。

「どうか…、どうかもう…、もうお許しを…」
「……」

 喉元まで出かかった恋情の言葉を危うく飲み込んだ雲雀は、項垂れてか細く歔欷く小さなその姿をじっと見つめていたが、やがて溜息をつくやむっつりとした表情になって、そのなまめかしい姿から眸を背けた。

「わ、若さま…。もう…、もう間もなく夜が明けます。二度と…、二度とこんなことをなさってはなりません…」
「?!」

 雲雀は衝動的に跳ね起き、美凰の嫋々たる双肩を掴みしめた。

「ど、どうぞわたくしのことは…、お捨て置きくださいませ…」
「…、何故なの?」

 自身でも驚く程に、鋭い語気であった。

「こ、この様なこと…、間違いです…。若さまのお為…、なのです…。どうぞ…」

 息を喘がせつつ、涙声の美凰は俯いたなりで囁く様に呟いた。

〔間違いとは何の間違いなの? 僕の為って一体どういうこと? 君を抱いたのは僕にとって正しい事だ。僕の為になる事だ。それなのに君は間違いだと言うの? 僕に抱かれるのは…、いやだったの?〕


「君は…、忘れることが出来るのかい?」

 雲雀の冷たい声音に、美凰はびくりと繊肩を顫わせた。
 口許をきゅっと噛み締め、己が無垢な身体を犯した非道な若君の視線を必死になって避け続ける。

「わ、忘れます…。わ、若さまは…、わたくしの様な身分の者に…、この様なことをなさっていい方では…、ありません…。ど、どうか…」

 怯えて泣き濡れる美凰の、雲雀から見れば卑屈ともとれる態度に奇妙な苛立ちが湧き興った。
 先程まで感じていた清々しい想いが微塵に打ち砕かれた心地に、雲雀は烈しい怒りを抑えることが出来なかった。

〔忘れると? この僕との至福のひとときを“忘れる”だって?!〕

 雲雀の双眸が憤怒に燃え上がった。

「あっ!」

 雲雀は美凰の身体を、乱暴に組み敷いた。
 二人の双眸が絡み合った。
 一瞬、眼差しが熱く交わされたが、美凰は雲雀の凄まじい怒りの色を瞳に見いだし、慄き喘いだ。

「じゃあ片時も忘れられない様に、もっと羞しい思いをして貰うよ! 今だけじゃない! 今日から毎日毎晩ね!」
「わ、若さまっ! だ、だめっ!」
「君に拒否権はないよ! 僕はもう、何年も前から…、初めて君に逢った時から君を僕のものにすることばかり考えていたんだ! 君がいやだと言っても、そんなの聞かない!」
「いけませんっ! 若さま! わたくしは…」
「聞かないよ! 絶対に聞かない! 君は僕のだ! 忘れるなんて二度と言わせない! 忘れられない程してやるっ! 僕のこと、絶対に忘れさせるもんか!」
「……」

 蒼白の花顔に、雲雀の妖しく冴えた顔が近づいてくる…。

「刻み込んであげるよ。二度とそんな言葉を口に出来ないようにね」

 怒涛の嵐の様な勢いで美凰の肌を貪り始めた雲雀の動きを、なんの手練手管も持ち合わせていない小娘にとどめることは不可能であった。
 美凰は恐怖にうち顫えつつ、儚げにただいやいやと頸を振って雲雀の蠢きを受け止めているしかなかった…。



 半刻のち…。
 雲雀は美凰の部屋からよろめく様に抜け出ると、誰にも見咎められずに自身の部屋へ戻ることが出来た。
 今まで過ごしていた質素な小部屋とは、比べ物にならない程に豪奢なつくりの自身の居間。
 重いカーテンを静かに開けると、白々と明け切った夜明けの光が窓越しに全身を照らす。
 だが、その美麗な面差しの眉宇には、爽やかな目覚めとは程遠い、苦渋の皺が刻み込まれていた。

「美凰…、美凰…、絶対に、僕を忘れさせはしない。君は僕のものだ…。僕だけの女だ…」

 雲雀はそのまま勢いよく仏蘭西窓を開き、朝の空気を吸い込んだ。
 清浄な空気とはほど遠い、自身の身体の火照り…。
 雲雀の頭の中を掩っているのは、いま起きて出て来た牀にぐったりうつ伏せに横たわったなりの、纏っていたものすべてを引き千切られた全裸のなまめかしい白い肢体であった…。

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