瞳を閉じて…
 夜明けに近い褥の中で、私はふと目覚めた。
 腕の中では私にとって唯一人の女が、安らかな寝息を微かに漏らしている。

〔愛している…〕

 愛しい妻の乱れ散ったつややかな髪に指を絡ませると、私はその香しい黒紫の絹糸へ何度もくちづけを繰り返す。

「ん…」

 柔らかく寝返りをうった美凰は私の方を向くと、胸の中に擦り寄ってきた。

「美凰…」

 眠りに就く前のひととき、全身を薄紅色に染めて妖艶にしなった姿は微塵もなく、無心に眠るその姿は朝露に濡れた白薔薇の様に清々しい。
 結ばれてから半年近くも経つというのに、毎日貴女を求めている…。
 求めても求めても、まだ足りない。
 もっと満たされたくて、そしてもっと満たしたいのだ。
 あどけなく眠っている美凰に対して、いつもの如く悪戯心が起こってしまう。
 私は柔らかな身体を仰向けにすると、その上に跨った。

「ん…」

 美凰は微かに声をあげるだけである。
 豊満な乳房をやわやわと揉むと、長く濃い睫毛が微妙にゆれた。

「あっ…、っん…」
「美凰…」

 耳元で優しく囁きかけると、美凰は夢現の状態で甘い吐息を漏らした。

「貴女が欲しい…」
「……」

 半開きになった甘い唇にくちづけを与えつつ、私の手は薔薇の中心部に触れた。
 秘密の花園は夜の余韻がそのままに、情愛の潤いに満ちていた。
 私達二人が交わした甘い蜜…。
 私が手探りを始めると、美凰は甘く鼻を鳴らしてゆっくりと覚醒し始めた。

「んんっ…、総司、さま…」
「美凰が欲しい…」

 熱い花園が密やかな欲望に目覚め、誘惑の泉を充溢させる。
 私の指はいつも通りに蠢き、愛しい女を快楽に導いた。

「ぁん…、やっ!」

 身悶え始めた美凰の腰を掴むと、私は一気にひとつになった。

「うっ…」
「あぁっ!」

 貫かれた衝撃で美凰はうっとりと眼を開け、下から私を見つめてきた。
 艶冶な黒曜石の瞳が私を見つめ、そして私から与えられる心地良さにゆっくりと閉じられる。

「あんっ! あっ…、総司さま…」
「目覚めたら、貴女が欲しくなりました…」
「ま、あ…、はっ、んぅ…、あぁん…」

 美凰は私の思うまま、敏感に反応する。
 私の思うままに…。

「朝露に濡れる薔薇は、清々しいだけではないのですね?」
「? やっ! あふっ…」
「凄く…、淫らですよ…、っつ! くっ!」
「んっ! あっ! あぁぁぁっ!」

 瞬く間に達した美凰を追い、私は放恣に己を解き放った…。





「まだ夜明け前ですのに…、いつもいつも意地悪ですのね?」

 快楽の淵から戻ってきた美凰は、頬を薄紅色に染めて私を見つめてきた。
 少しだけ艶を帯びた漆黒の瞳…。

「意地悪なんかじゃありませんよ…。貴女を心から愛しているが故の衝動、とでも言いましょうかね…」
「まあ…」

 私は美凰を強く抱き寄せ、耳朶を愛撫しながらひくく囁いた。

「起床にはまだありますからね。もう少しゆっくりしましょうか」
「でも、目覚めてしまいまいたし…、折角ですから…」
「心配しなくてもまだ大丈夫ですよ。さあ! 瞳を閉じて…」
「総司さま…」
「好きですよ…」
「嬉しい…」

 美凰は素直に、全身を私に預けてきた。 

「美凰…」
「わたくしも、お慕いしております…。総司さま…」

 起床の刻限近づいているものの、僅かなひとときを幸せに満ちて過ごす私と貴女。
 次に目覚めたらまた悪戯してやろうと思いつつ、私は美凰を抱きこんで再び甘い眠りを貪った…。

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