]U 交際

「XANXUS、私考えたんだ」

 その日の夜もまたXANXUSに呼び出された為、部屋に入ってすぐこの話題を持ち出した。ちなみにいつもは部屋に来てもただお茶を飲んでスマホを弄って帰るだけである。お茶は私が入れる。部屋に入ると彼はいつも机に足を乗せた格好で出迎えてくれる。正直下ろした方が楽だと思う。

「何だ」
「私達、付き合ってみるのはどうかな」

 スクアーロと話して考えついた結論だ。というより彼のアドバイスそのままだ。けれど、突然結婚への違和感が払拭できるなら良いアイデアだと思う。

「どういう意味だ」
「付き合うって言っても私は付き合うってのが分からないんだよね。でも、結婚する前には付き合っておくのも良いと思う」
「……そういうもんなのか」
「多分」

 するとXANXUSは黙ってしまった。とりあえず今日もお茶を入れて飲みながら話をしようと思い、作業に取り掛かる。とはいえカップにティーパックをセットし、電気ケトルに水を入れてスイッチを押し、注ぐだけなのだが。

「書面で結婚する前に、口約束で結婚しておくって感じだと思う。誰とも付き合ったことないから分かんないけど」

 電子ケトルからピーっと電子音が鳴る。最近のはとても優秀で、たった数秒で熱々の熱湯が出来てしまうのだ。これを注いでしまえばお茶は完成。ディーパックを捨ててソーサーに乗せたカップを机に置く。

「XANXUSが私と付き合いたくないんだったら別に良いんだよ」

 そう言うと彼は口角を上げて笑う。

「俺を脅すつもりか」
「人聞きが悪いな。要望に答うようとしてるだけだよ」
「交渉成立だ」

 そう言うと彼は足を下ろして立ち上がり、私に近づいて来た。すると顔が近づき、口内が今まで感じたことのない感触に触れられる。頭がジンとして痺れる。その反面、ああなかなかに濃厚なキスなんだなと冷静な分析は出来ている。
 顔が離れると今度は「来い」と言われる。アールグレイが冷めてしまうのに、と思いつつ、アイスアールグレイも好きなんだよなあ、という考えに至った。

「これは受け取れ」

 そう言って渡されたのは前に見せられた指輪で、そういえば渡されたのに拒否してしまったんだよなあと思うと急に申し訳なくなった。それを強引に右薬指に着けられた。

「結婚したらこれを左につけろ」
「XANXUSは?」
「俺のはねえ」
「今度買いに行こ」

 右手を見ると、中指にヴァリアーリング、薬指にXANXUSからの指輪。右手がより豪華になってしまった。どちらも、私にとって大切な指輪だ。

「剣握って割れたりしないよね」
「はっ、特別強く作らせた」
「流石です」

 たったこれだけの小さな指輪なんかでこんなにも胸が熱くなるのは何なのだろうか。XANXUSとの関係に新たな名前が加わったことが原因だろうか。それとも、彼が私の事を考えて作らせた物を貰ったからだろうか。

「XANXUS、ありがとう。改めて宜しくね」
「すぐに結婚したくさせてやる」
「強気は良い事だけど、人生初めての交際というものはゆっくり楽しみたいな!」

 わざわざ指輪を用意したり、私からの返事を待って毎日呼び出したり、そういう健気な部分がとても可愛らしく思えてきた。彼は元々赤ちゃんだのと言っていたが、そんな赤ちゃんが自分で考えて行動している事が大変微笑ましい。

「あれからずっと我慢してんだ。良いだろ」

 そう言ってベッドに横にさせられる。体目当てだろと思われかねないタイミングではあるが、正直私も待ってましたな事である。素直に受け入れ、身を委ねた。あの時と変わらず優しかった。


 恐らく朝に目が覚めて見ると目の前にXANXUSがいる。昨日はあのままこの部屋で寝てしまったのか、と直ぐに理解できた。幸い服はきちんと着ており、裸で寝た時のやっちまった感は無い。裸で寝るとお腹は痛くなるしなんだか寒いし冷静に見る裸は何も楽しくないしで、目覚めた時に良い事など無い。
 XANXUSはよく寝る子だから私が起きてゴソゴソしても起きない。時計を見たら午前の11時で、急いで帰って昼食を取る準備をせねばいけないな、と少々焦る。
 とりあえず部屋に戻る前におこさねば、と思い肩を揺する。すると地の底から湧き上がるような低音で「うるせえ」と言われた。前にもこんなことあったな、と思ったが、今回こそはきちんと起こそうと決意をして根気強く彼を起こす。

 数分してめちゃくちゃ不機嫌そうに起きたが、私の顔をぼーっの見つめると徐々に眉間のシワは伸びた。変なおもちゃみたいでかわいい。そんな彼を放置して部屋に戻る事にした。

「じゃあ、また後で。お昼には来るんだよ」

 そう言って自分からXANXUSに口付ける。恥ずかしいから彼の反応は見ずに部屋を後にしてしまった。



 私達は未来について考えるべきではない。今日も明日も人の命を奪い、奪われる覚悟を持って生きているのだから。それでも、いつか来る死の瞬間まで共にしたいと思える人に、出会えた。

 この気持ちを表す言葉に気付くまで、あと――

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