第4話 私の願いは
どう考えてもだめなのだ。もう私にはオーバーホールを救い出すことができない。それが何よりも悔しくて仕方がなかった。しかし、私はめちゃくちゃに運が良いのかもしれない。
私たちを運ぶ車が襲撃に遭ったのだ。正確にいうと私の前を走る車だ。その衝撃で少し拘束具から抜け出せそうなのを感じ取った。添乗の警察が車外に吹っ飛ばされ、私も脱出を試みた。すると左手を犠牲にしたら抜け出せた。どうせ壊した手はオーバーホールに直してもらえばいい。
車の外にいる奴を全員殺してオーバーホールの元にかけつける。車外は火の海だった。
「何なのこれ…!」
なんとオーバーホールの右腕は切り落とされていたのだ。これを直せていないということは、あの弾を撃ち込まれたことは容易に想像できた。誰だ。絶対あの手の奴だ!
「何してんだ、おい!」
「黙れ!!」
オーバーホールが叫ぶが、私は初めて彼に荒い言葉を使った。ともかく追手が来る前に彼を連れ去ることが必要である。自分の高速を解くのにも使った、車内で拾ったナイフでオーバーホールの拘束を外す。こんな簡単に外れて良いのかな、ヒーローさん。
オーバーホールを背負って高速を降りる。すぐのアパートに入り、適当な部屋に侵入する。住民がいたから殺した。
拘束した後のことは大体警察の仕事である。それはつまりそれだけの警備しかされていなかったということで、隙を突けば逃れられるというものだ。
「もう終わりなんだ、何無駄なことしてやがる」
「うるさい」
「俺に指図してんじゃねえよ!」
「分からないのか!」
あのケースは奪われていた。敵連合なりヒーローの元にあるはずだ。八斎會は事実上壊滅した。オーバーホールの個性も失われている。今まで積み上げたものが全て無くなったのだ。
「応急処置をしたら様子を見て行動に出るから手短に言う。あなたは自分を過信していた。だからこそ、あの薬も100%個性を消すと確信していた。だが、この世に100%の物は存在しない」
「何言ってんだよ黙れ!麻坂のくせに!」
麻坂、それは私の名字だ。オーバーホールに手当てを施しながら話を続ける。
「ともかく、あなたの個性がどうなるかは分からない。そしてエリは奪われたが、あんなガキがいなくてもこれから色々とやり様はある。八斎會はほぼ壊れたが、私とあなたの組員2人がいるのだから、ここで存続している!」
私の願いは、ただこの目の前の人間が綺麗な顔を保たせることだ。あなたの綺麗な顔がある限り、私はこの身を捧げる。だからこそ、自分で破滅へと向かうのを見過ごせなかった。
「逃げよう。生きて、またやり直そう。別にやり直さなくても良い、私はあなたのその顔を見ていられたらそれだけでいい。だから、お願いだから今だけは私の言う通りにして」
これが、私が彼に逆らった最初で最後だ。アパートで適当な服に着替え、当分必要そうなものを袋につめる。簡単に逃げられるわけはないから、まずは適当な人間を見つけて何とかしよう。
大丈夫、あなたはまだ生きている。その顔を私に見せて。それだけで私は十分なのだから。
――あなたの、顔を見せて。
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