第22話 入寮

 築3日らしい寮の前で相澤先生のきついお言葉を頂いた。伊達眼鏡は家に置いてきた。寮はハイツアライアンスというらしい。築3日って何?やっぱ一気に建てる個性があったり…いや、このセキュリティを作れる雄英なのだから技術で…?それとも前々から…?疑問は尽きない。神野に関して相澤先生にきついことを言われるのは想定済みだった。ただ、止めてくれた人たちまでも巻き込まれるとは思ってもいなかったが。
 寮内に入り設備の説明を受ける。私は女子棟の2階に部屋があるらしい。同じフロアには他に誰もいない。とても寂しい。
 部屋での荷解きをし、家具を組み立てる。個性を上手く使えるようになってきたからとても楽に終わった。だが、個性でカバーもできず手先が不器用な人はどうしているのだろうか。一人で家具は組み立てられまい。友達に頼んでいるのだろうか。人生とはそういうことだ。

 その日の晩、爆豪に呼び出された。集合場所は彼の部屋である。いきなり異性のクラスメイトの部屋に行くことも緊張したが、何よりも彼のテリトリーに招かれた恐怖が勝った。何を言われるのだろうか。何を言わさせられるのだろうか。ただ、爆豪になら何でも言えるような気がしていた。
 1階共同スペースに行くと皆が声をかけてくれた。今から皆の部屋を回ってみるらしい。私は断って急いで爆豪の部屋を目指した。まずいまずい、なんとなくバレたら気まずいぞ。
 部屋の前に着いてドアをノックし続けると数秒後にドアが無言で空けられた。機嫌が悪そうである。促され、椅子に座る。

「とっとと入れや」
「いやいや返事くらいしてよ、入りにくいだろ」

 これはどう考えても正論である。するとベッドに座った爆豪は黙ってスマホを弄り始めてしまった。気まずい時間が流れる。私はスマホを弄ることもできないまま部屋を眺めていた。所々激しい小物がるあものの、全体的にまとまりがあり普通の部屋である。普通という点は私も人のことは言えない。

「あん時」

 そろそろ部屋には慣れてきた頃、爆豪が口を開いた。

「何で来てたんだよ」

 その時私は初めて部屋に呼び出された真意を悟った。神野でのことだ。私の口は勝手に動きだした。

「私、中学の頃荒れてて。人を助けたいって活動してたんだけど、その手段が人を殴ることだった」

 なぜ、身の上話から始めたのか分からない。質問の答えにはなっていない。爆豪に怒られるかとも思ったが、黙って聞いてくれている。

「でも本当はさ、人を助けるとかそんなことの為じゃなくて、ただ人から認めてられたかったんじゃないかって思う。事件を起こす度に人から恐れられた。でも私に感謝する人もいた」

 私は正義心がどうのこうのと言っていたが、結局それだけなのだろう。だからこそ、ヒーローを志したのだ。

「ヒーローは力を使って人から認められる仕事だから。だから、私はヒーローになりたかったんだと思う。先生はヒーローの素質があるとか言ってくれたけど、多分嘘だから」

 私が雄英に入れたのはこの個性のお陰であり、この個性のせいなのだろう。ヒーローの素質がなくとも、正しく力を使うヒーローにしてしまえば敵になる可能性も低くなるだろうから。

「でも、きっと初めて人を助けたいって思ったんだ。敵の狙いが爆豪だと分かって、かなり焦った。敵をぶちのめしてやりたかったし爆豪の無事を願った。そんなのは初めてだった」

 それでも結局爆豪は強いから大丈夫だろう、とにかく目の前の事に専念しようと思い行動したことを後悔した。それはどう考えても正しい行動ではあったのだが。

「だから行った。何かしらの行動をしたかった。そして、確かめたかった」

 ここまで話して爆豪を見る。爆豪は少し考えた様子を見せて口を開いた。

「話が長え。つまり、俺を助けたかったんだろ」
「うん」
「ヒーローの素質は無いとか言ってたが、結局そうやって助けたいって思うのは素質があるってことなんじゃねえの」

 ドクン、と鼓動の音が大きくなる。

「人の為に力を使おうとしてたことには変わりねえんだろ。十分じゃねえか。そもそも、人から認められる方法は人を助ける以外にもあるだろ」

 この人はなぜ、過去の私までもを肯定してくれるのだろうか。自分が封じ込めたかった過去を、なぜ真正面から肯定してくれるのだろうか。――素質があるってことなんじゃねえの。その言葉が頭の中でループする。すると、目頭が熱くなりじわっと熱が溢れ出した。

「私、人を助けるヒーローになりたい。その為にこの力を使いたい」

 泣きながらだから声が震える。爆豪はまた黙って話を聞いてくれていた。それがとても心地良かった。そしてベッドから立ち上がって私に近づき、優しく頭に手を乗せてくれた。それがまた私の涙腺を緩くした。ティッシュまで取ってくれた為にますます緩んだ。

 泣き止んで呼吸が整ったとき、爆豪が「ん」とペットボトルを差し出してくれた。新品のお茶だ。飲んで落ち着けということだろう。何となく介護でもされているような気分になった。感謝を述べてお茶をいただく。

「すまん、泣いて」
「俺が泣かしたみてえだから目の腫れが治まってから帰れよ」
「お気遣い痛み入ります…」

 爆豪はまたベッドに座ってスマホを弄り始めた。そして、ふとまた口を開いた。

「そういえば、知っとったからな。中学の時の」
「え」

 それ、一番の爆弾発言じゃないですか?

[ 24/39 ]

[] / []
[目次]
[しおりを挟む]




top
×
- ナノ -