第13話 期末試験
職場体験から帰ってきて最初の授業はヒーロー基礎学だった。皆は運動場γにて訓練するらしいが、私は1人TDLで個性の実験をしていた。何ができるだろうかと絞り出す作業が一番苦労した。
「おい」
その日の昼休憩に例の謎ベンチでたまごサンドを食べていると、声をかけられた。こんな所に来るのは1人しかいない。
「爆豪」
「お前嘘ついとったんか」
「は?」
「体育祭の時」
常闇戦で壁を作った時の話か。その前の種目で私は爆豪に個性を伝えていた。その時点で分かっていたことといえば、まあまあ色んなものを操れるということしかなかった。
私に聞くタイミングが無かったのをずっと心残りに思っていたのだろうか。一瞬見た彼の表情からは少し怒りが見て取れる。
「嘘をついていたわけじゃない」
「じゃあ何なんだ」
「個性を知らなかった」
私の個性については期末試験の演習試験まで皆に隠そうという話を相澤先生としていた。それまで、何かあっても対処してくれるプロヒーローとの実戦経験をこれから積む予定になっている。そして上手く使えることが分かった上で、全員に「空間操作」という個性についての説明をすることとしていた。だが、何故だか爆豪には話しておきたかった。
「私の個性は接触操作だと知らされていたし、それを信じていた。けれど、体育祭の時に違和感があった」
爆豪は黙って話を聞いていてくれる。
「コードネームを考えた日の放課後、私は相澤先生と校長先生から個性についての説明を受けた。私の個性は空間操作というものらしいんだ」
ここで爆豪の方をちゃんと向いた。眉間にしわを寄せているが、不快感を表しているわけではないようだ。
「私も学校もこの個性についてまだ把握しきれていない点が多くある。だから、期末試験まで隠しておくつもりだったんだけどな」
「じゃあ何で話した」
「分かんね。強いて言うなら聞かれたから、かな」
そこまで話すと爆豪は来た道を戻って行った。私はとっとと残りのたまごサンドを平らげ、教室へ向かった。
次の日、HRで夏休みに行われる林間合宿の案内がされた。参加条件は期末試験で合格点を満たすこと。それがなければ学校で補習に追われることとなるらしい。
正直めちゃくちゃやばい。何故なら、私はこのクラスでの座学成績は下の中くらいだからだ。実技に関しては今やり直している最中だからカウントしないでおく。ただ、座学はそういう問題ではない。
元々読書は好きであったから、知識量はそれなりにある方だとは思う。だが、中学の時は授業中寝ることも多かったし、そもそも数学がからっきしだ。受験の時は付け焼き刃で何とかしたが、受験前大量に身につけた頭脳は高校に入ると全て抜け落ちた。そもそも普通レベルの中学で上の下程度だったのだから、偏差値79の雄英では下になって仕方がないだろう。
その日から実技に関しては先生との訓練だけに控え、朝から晩まで勉強をし続けていた。休憩時間も惜しんでペンを動かし続ける。
「空間めちゃくちゃ勉強やってるな」
「意外にあいつ馬鹿だからな」
意外に馬鹿とは何だはっ倒すぞ。心の中で悪態をつきつつ問題に取り組む。
「そういえば颯、地毛金髪なんだね。逆プリンになってる」
昼を教室で食べている時、響香にそう言われた。確かに、毛が伸びてきた。しばらくはリタッチもしていたが、体育祭以来髪に気を配ることをしていなかった。急に伊達眼鏡が邪魔に思えてきた。
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