「月見酒…とはちょっと違うか」
「私が月の代わりですね」
「自分で言うのか」
「言っても構いませんよ、『月が綺麗ですね』って」
「ツキガキレイデスネ」
「はいありがとうございます」
少し間をおいた後、堪えきれずに小さく吹き出した二人の声が、静かな空間に染みた。
「そういえば、この辺りは見張りがいなかったか?」
「少し席を外してもらいました。私たちがいれば問題ないでしょう」
「それもそうか」
グランコクマの王宮前広場。噴水の縁に座るガイとジェイド。噴水を背に、王宮を眼前にして酒を飲み交わす。
今日は生憎の曇天。
「晴れだったら、今頃は城の後ろにでっかい月が望めたのに」
「残念としか言えませんね。雨が降らなかっただけいいでしょう」
「…それでも、あんたと見たかったな」
小さな猪口に映る曇り空を見てぽつりとこぼした。
あぁ、月を飲みたかった。
「ふふ、ガイが私のために考えてくれたのでしょう?あなたの故郷の酒まで用意して」
「まぁ、な」
「私はそれが、嬉しいですよ」
こんなこと初めてですから。
同じように曇り空を手に収めて眺めるジェイドは、そう早口に言うと一気に猪口をカラにした。
「…そうか」
器を傾けて飲み干すと、横から酒瓶が差し込まれた。また猪口に曇りが映る。
心地よい沈黙が長く続いた後に、どちらともなく呟いた。
――嗚呼、月が綺麗ですね。
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ジェイドお誕生日おめでとう!
フリーにさせていただきます!
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