ぶつり、ぶつり、ぶつり。



べちゃ。
粘着質な音が頭の中に響く。
額に流れ、目に染み、頬を伝い、顎で落ち、制服に染みを付ける。
それはかつての私の昼食。

今日の弁当は汁気が多かったらしい。
未だに私の頭から首元までを汚し続ける。
流石に目が痛くて、何度も瞬きをした。

瞬きをすると、頭の上のプチトマトが転がり落ち、卵焼きが机に着地する。

その様子を笑いながら見るのは、私の弁当箱を、私の頭の上でひっくり返した奴等と、それを見ていた奴等。

他の奴等は見て見ぬフリしているけれど、口元が少し揺るんでいるのが、丸見えだった。


『×××××! ××××××?』

ああもう何も聞こえない。
聞きたくない。
ぼぅっ、と床を見ていると、急に視界が揺らいだ。


椅子ごと倒れた私の手の平で、艶々と丸いプチトマトが見るも無惨に潰れていた。
中身が手に付いて、ベタベタしている。


「それ、あんたみたい。汚くて、醜くて、潰れてるあんたにそっくり」


ぶつり。



「大丈夫? すぐに落とさないと…」

大袈裟に眉を下げながら、私に話しかけるこの女は誰だっただろうか。

「また……なに…れ…たの?」

ああもう。
なに言ってるのか聞こえない。

「なにかされたら、またおいで?」

気持ち悪い。
この女の笑う顔に吐瀉物を投げつけてやりたい。
そんなのは無理なのは分かっている。
私の吐瀉物はさっき、トイレに流して来てしまった。
今は臭くて苦い胃液しか出ないだろう。


「私は貴方の味方だから」



ぶつり。
また何かが切れた。
今日はやけに多い。



『×××、お前また成績が下がっているみたいだが…』


『もうちょっとしっかりしてよ』

『汚〜い、あんたにはこれがお似合いね』


『私は貴方の味方だから』


『今日も頑張って』


『あんたなんか、生まれて来なけりゃ良かったのに』


ぶつり。


ああ、また何かが切れた。
なんだか今日は酷く疲れた。
それに、酷く鉄臭い。
甲高い声が耳に響いて来たので、それを早々に静めた。


それじゃあ、おやすみなさい。


路地裏様に提出。





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