小説 | ナノ

06/


【二人の時間】逆トリップ三日目


「…という事でね、この世界の歴史では徳川家康が天下統一して、とりあえずは大平の世の中が何百年も続いて行くの」

「…家康か…。
確かに秀吉様に次いで世を治める器量の人物だとは思っていたが…」

「まぁ、でもこれは私の世界の過去だから清正の世界とは少し違うかもしれないよ?」

「…そうだな」


次の日の昼、私と清正は車で少し走った所にある図書館に来ていた。どうやら、時々通訳は必要だが、現代の漢字は何とか読めるらしい。

ネット注文すれば次の日に届くという便利なシステムがある現代において、清正の服や靴などをすぐ揃えれたので、今日は外に出掛けていた。
好みがよく解らないので、なるべくシンプルな服を注文したのだが…着る人がいいせいか、現代の服は清正にとてもよく似合って、モデルか俳優さんの様に格好良かった。


「この本、返してくる」


そう言って、目の前の本棚に本を戻している清正を私は無意識にぼーっと見つめていた。
身長が高く、それでいて筋肉のついたしっかりした体格、顔も美形だ。
そう言えば、図書館内に入ってきたときも銀髪と高身長で目立つだけではなく、女性陣達の熱いまなざしを沢山受けていたように思えた。


この容姿にこの体格だもん。
現代でもモテないわけがないよね…。


本を選んでいる姿でさえも見惚れてしまう。
現実世界の人ではないからか、本当に悔しいぐらいに格好いい。


瞬間、不意に振り向いた清正と瞳が合い、ビクリと身体が震える。


「どうした?」


新しく選んできた本を机に置きながら清正が言った。
見惚れてました…何て口が避けても言えないので、慌てて話題を考える。


「えっ…!?
え〜っと…そう言えば車にそんなに抵抗なさそうだったなって思って」

「ああ。
思ったよりも違和感なかったな。
寧ろ、楽しかった」

「そうなの?
じゃ、また遠出でもしようか?
いい気分転換になるかも」

「ああ、またお願いする」


清正は笑顔でそう言って、漢字ばかりの難しそうな歴史本に目をおとした。


危ない危ない。
上手く誤魔化せてよかった。


それからしばらくの間、私達は図書館で本を読みあさっていた。


***


暫く時が経った。
今何時頃だろう…と私が時計を確認すると、17時を廻ったところだった。

ふと隣の清正に視線を送ると、まだ真剣に本を読んでいるようだ。

珈琲の入れ方に関しても元の世界に帰る手立てを探す事に関しても、ひとつひとつの行動にとても真面目で真剣に取り組む人なんだと思った。
ゲームでは知らなかった彼の新しい一面にふれる度に私は益々清正に興味を惹かれていくようで少し怖い。

いずれ元の世界に帰る人なんだから。
共に同じ世界で暮らすことは出来ないのだから。
その言葉を何度も心に言い聞かせながら、私は清正に声をかけた。


「清正、もう図書館閉まっちゃうから帰ろう?」


彼はっとしたように私を見た。


「そうなのか?
早かったな…」


昼から夕方までいたのだから決して早くはないと思うがそれだけ集中していたのだろう。


「結構長い間いたよ。
集中してたから早く感じたんだね。
今日は私も少し疲れたから、どこかでご飯食べて帰ろ?」

「そんなに一生懸命になってたんだな。
…すまない」

「気にしないで。
また来ようね?
ところで何食べたい?
やっぱり和食かなぁ〜」

「萌に任せる」

「えー!?責任重大なんだけど。
では、私のオススメのお店に行きますか。
ご飯ご飯〜♪」

「メシ食うのにそんなに喜んで…
やっぱり子供だな」


清正はにっと意地悪に笑った。


「立派な成人女性はお腹は減るんです!
もーからかってないで、行くよっ」

「はははっ」


図書館の中に差し込む夕陽に照らされながら笑う清正があまりにも綺麗で…。
私はまるで2人の間の時間だけが止まってしまったかのように感じていた。

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