上演時間:約15分

【登場人物】
カイト  ♂、会社員の男。ミヨコの彼氏。飄々としているが根が真面目。バカやってる時はバカ。
ミヨコ  ♀、作家の女。カイトの彼女。基本的にサバサバしている。女性らしい一面も。


【本編】



ミヨコ  (キーボードをたたきながら)…あー…んー…うーん……あー…っあーくそぉ!

カイト  うるさい。

ミヨコ  いった!もーペットボトルで叩かないでよね。

カイト  飲物買って来いって言ったから買ってきたんだろうが。要らんのか?ん?

ミヨコ  要る、要ります、ありがとうございます。

カイト  ほい。で、進捗どうなの。

ミヨコ  んー。三歩進んで三歩下がった感じ。

カイト  てんで進んでねぇじゃねぇか。

ミヨコ  色々書いてんのよ。

カイト  それで書いては消し、書いては消しを繰り返して早何日だ。

ミヨコ  …三日。

カイト  締め切りは。

ミヨコ  …明日。

カイト  それで間に合うのかね。

ミヨコ  間に合う。つか間に合わせる。

カイト  そう言い続けて今だろ?俺んとこにも加藤さんからメール来たぞ。「進捗どうなってますか?失踪しないように見張っててくださいね」って。

ミヨコ  どいつもこいつもうるっさいなぁ。物を書いたことないからそんなこと言えんだよ。

カイト  書こうとも思ったことないからな。安定万歳。

ミヨコ  社畜め。…でさぁ。

カイト  なに。

ミヨコ  打ちにくいから、くっつかないでくんない?

カイト  やだ。

ミヨコ  やだじゃないんだよ、小さい子供じゃあるまいし。

カイト  けち。

ミヨコ  けちじゃない。

カイト  バカ。

ミヨコ  バカじゃない。

カイト  ハゲ。

ミヨコ  ハゲてねぇわハゲ。

カイト  俺もハゲてねぇよ。

ミヨコ  って言うか…、…もう良いわ。好きにして。

カイト  …なんだよ。

ミヨコ  なんもないよ。

カイト  なんかあるんだろ。言えよ。

ミヨコ  良い。これ以上言っても作業に打ち込めないだけだし。

カイト  なんだそれ…なぁ、今度久々に呑み行くか。

ミヨコ  行かない。

カイト  なんで。

ミヨコ  なんでも。

カイト  ふーん。…じゃあ買い物は?

ミヨコ  行かない。

カイト  ドライブ

ミヨコ  行かない。

カイト  どっか。

ミヨコ  行かない。

カイト  こないだ一緒に歩いてた男誰。

ミヨコ  行かな…は?

カイト  だから、こないだ歩いてた男。誰。

ミヨコ  …別に。大学時代のサークルの同期だけど。

カイト  そんだけ?

ミヨコ  それ以外に何があんの。

カイト  あると思ったから聞いたんだろ。何してたんだよ。

ミヨコ  何もしてないよ。会ったからたまたま話しながら帰っただけ。

カイト  ふうん。

ミヨコ  何。

カイト  いーや。何にも。これ以上言ったら先生のお邪魔になりそうなんで。

ミヨコ  嫌味ったらしいわね。

カイト  …何話してたんだよ。

ミヨコ  結局聞くのね。…別に、最近彼女と折り合いが悪いだ同期が結婚してくだなんだってよくある愚痴を聞かされただけよ。

カイト  ふうん。

ミヨコ  納得した?

カイト  …まぁ。

ミヨコ  …してないって顔ね。

カイト  別に?納得しましたよ?

ミヨコ  じゃあ何よその顔は。

カイト  元々こういう顔なんですぅ。

ミヨコ  あ、そ。

カイト  …あのさ。

ミヨコ  今度は何。

カイト  別れようか。

ミヨコ  …あんたさ、さっきから何なの。急にくっついて来たり変な嫉妬心出して来たと思ったら突然別れようって。メンヘラ彼女かなんかか?

カイト  あぁそうだよ。知らない男に嫉妬したりするメンヘラ彼氏だよ。だから別れようっつってんだよ。

ミヨコ  それとこれとは話が別でしょ?前々から意味わかんない奴だとは思ってたけどそこまで意味不明な人間だと思ってなかった。

カイト  意味わかんないってなんだよ。意味わかんないの分かってて俺と付き合ったんじゃないのかよ。

ミヨコ  そうだよそう言うのも分かった上で付き合ってたよ。でもこっちが切羽詰まってる時にいきなり別れようなんて言う奴があるかって言ってんの。

カイト  そりゃ別れようって言いたくなるだろ。

ミヨコ  なんで。

カイト  お前何にも言わないもん。

ミヨコ  そんな…そんなことで別れようって言ってんの?

カイト  そんなことって大事なことだろ、さっきだってなんか言おうとして何度か黙っただろ。

ミヨコ  それはあんたも同じことしたでしょ。

カイト  俺はお前の真似しただけだよ。俺達恋人同士だろ?言わなきゃわかんないだろ。

ミヨコ  言って分かんのかよ。

カイト  わかんねぇよ。

ミヨコ  じゃあ言わねぇよ!バカかお前は!

カイト  わかんねぇよ!100%お前の気持ちとか、考えなんてお前じゃないんだから分かる訳ないだろ。でもお前のことを知ることはできるだろ。言わないってことはお前、そういうチャンスすら俺にくれないんだぞ。それで恋人って言えるか?
ミヨコ  じゃあ何でもかんでも言わなきゃいけないの?私だって隠したいことの一つや二つあるわよ!

カイト  別にお前が見られたくないとこまで晒せって言ってるんじゃないよ、でもせめて俺に思ってることぐらいは隠さずに言ってくれよ!こういう話ついでに言うけどな、お前が鈍感なのかバカなのか知らないけどな。その同期の男、お前にアプローチしてるんだぞ!メンヘラ彼氏な俺だからこそ分かる!

ミヨコ  な、なに言ってんの!?んな訳ないでしょ!

カイト  何でそう言い切れるんだよ!一般人の皮被って生活してるけどな、メンヘラ舐めんなよ!そう言ったところには敏感なんだからな!

ミヨコ  聞けよメンヘラバカ野郎!

カイト  いってぇ!

ミヨコ  はぁ…はぁ…わかった…あんた、本物のバカだわ…。

カイト  はぁ…あぁ…本物のバカだよ…今更分かったか…。

ミヨコ  よーく分かったわ。分かったからちゃんと、全部話してやるわよ。…あいつがサークルの同期なのは本当。彼女と折り合いが悪いって話を聞いたのも本当。でもあいつと居たのは…。

カイト  居たのは?

ミヨコ  …プレゼントを選んでもらってたの。

カイト  やっぱり浮気じゃないか!

ミヨコ  聞け!!…あんたへのプレゼントを選んでもらってたの。

カイト  …え?俺の?

ミヨコ  あいつもあんたと似ててなーんか変なとこあってさ。だからあんたの好みの物ぐらい選べるんじゃないかと思って声かけたのよ。代わりに彼女のプレゼント選ばされたけど。…ほら。

カイト  え。

ミヨコ  今日、でしょ。誕生日。

カイト  え…あ、うん。…覚えててくれたの。

ミヨコ  当たり前でしょ。…恋人なんだから。

カイト  …いや…なんか、ごめん。勝手なこと言って。

ミヨコ  今更謝んないでよ。…私も、ごめん。本当は仕事も終わらせて、ちゃんとした形でお祝いしたかった。けど、仕事は進まないし、あんたは急に絡んでくるし、それで…別れるなんて言い出して。…正直、頭真っ白になった。

カイト  …そっか、ごめん。

ミヨコ  謝んないでよ。

カイト  だって。

ミヨコ  謝るの、私の方だし。

カイト  良いよ。俺も意地悪だった。…ちょっと試してたところあるし。

ミヨコ  え?

カイト  半分本気だった。もしお前があの男と本当に浮気してたなら、別れようって。俺にとっては、お前が幸せになってくれることが一番の願いだから。

ミヨコ  そんな

カイト  なぁ、一つだけ聞いていい?

ミヨコ  な、なによ。

カイト  お前さ、俺のこと意味不明な奴って思ってたんだろ?なんで付き合ったの。

ミヨコ  …。

カイト  まぁ、自分で言うのもなんだけどさ。他にいい男いると思うのよ。でもなんで

ミヨコ  寂しそうだったから。

カイト  え?

ミヨコ  寂しそうだったから。私達合コンで知り合ったじゃない。だからもちろん他にいい男も居たわよ。でも、はしゃいでるあんたを見て…なんか寂しそうに見えたから。

カイト  別に、俺そんなつもり無かったけどなぁ。

ミヨコ  私はそう思ったの。んでさ、その時「傍にいてあげたい」って思ったのよ。…そんだけ。満足した?

カイト  …そっか。

ミヨコ  …今更こんなこと言わせないでよね。小っ恥ずかしい。

カイト  そういうのも含めて、言葉にしないと伝わらないもんってあると思うんですよ。

ミヨコ  そういうもん?

カイト  そういうもん。ロマンス小説でもあるだろ?「その一言を言ってれば万事解決なのに」って。

ミヨコ  …ふふっ。そうね、そう言われたら分かるわ。

カイト  だろ?俺も伊達にお前と話合わせるために本読んでないよ。

ミヨコ  そんな気持ちで読んでたの?

カイト  もちろん。何よりもいつも、お前優先だからな。

ミヨコ  ほんと…そういうこと言うの恥ずかしいからやめてほしい。

カイト  嫌か?

ミヨコ  …嫌だったらもっと怒ってる。

カイト  うーん。本当は「そういう所も好きー」とか言ってもらいたいけど、しょうがないな。そこは察してやるよ。

ミヨコ  うるさい。

カイト  …ミヨコ。

ミヨコ  なに。

カイト  好きだよ。

ミヨコ  …何よ、その少女漫画みたいな。

カイト  嫌か?

ミヨコ  そういうのは二次元の中だけにしなさいよ。

カイト  そういう割には満更でもない顔してるぞ?ん?

ミヨコ  うるさい。

カイト  で、お前はどうなの。

ミヨコ  は?

カイト  お前は好きなのかどうかって。

ミヨコ  …それくらい、分かるでしょ。

カイト  言わなきゃ分からない。

ミヨコ  …。

カイト  ほらー、言わなきゃメンヘラ彼氏が泣くぞーほらほらー。

ミヨコ  わかった!好き!好きです!これで満足?

カイト  …へへ、うん。満足。

ミヨコ  あぁ恥ずかしい。こんな甘ったるい話する歳でもないのに。

カイト  たまには良いだろ。俺達だし。

ミヨコ  …まぁ、そうね。たまには、ね。

カイト  なんだよその言い回し。

ミヨコ  さぁ、なんでしょうね。ほら、作業の邪魔になるから。シッシッ。

カイト  さっきの話まるで聞いてないな…しかも野良猫みたいに扱って…。ん?…「ロマンスと暴論」。なんだこれ。

ミヨコ  静かで甘い恋物語にも無茶苦茶な話が入っても良いじゃない?

カイト  さっきの俺達みたいだな。

ミヨコ  割とありきたりなオチに落ち着いたけどね。

カイト  …もしかして、今のくだりそのまま書くつもりか?

ミヨコ  まさか。名前変えたり若干の脚色はするわよ。でも、私が忘れないように形に残したいの。カイトが言ってくれたこと。

カイト  …そっか。

ミヨコ  …よぉし、イメージ沸いてきた。なんかすぐ書き上げられそう。

カイト  そうか、頑張れよ。先生。あ、ケーキはチョコな。

ミヨコ  はいはい、今日ぐらいはなんでも言うこと聞いてあげるわよ。

カイト  いやぁ、歳も取るもんですねぇ。

ミヨコ  ったく…カイト。

カイト  うん?

ミヨコ  …愛してる。



おわり。





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