【チグハグファミリー・ヨリコさん】

【登場人物】
ヨリコ:寄子と書く。眉目秀麗スタイル抜群・優しいオーラ溢れる優良物件だが、様々な問題で結婚とは縁遠い生活。
サトル:悟と書く。ヨリコの彼氏。ヨリコ同様、頭脳明晰なイケメンだが、勘が良すぎるのが玉に瑕。
ママ:ヨリコの母親。名前は清美(キヨミ)。大らかで優しいお母さん。皆を優しく見守っている、良くも悪くもただそれだけ。
パパ:ヨリコの父親。名前は一郎(イチロウ)。見た目はイカツい親父だが、ひょうきんでヨリコLOVEな良いパパ。
ユウ:ヨリコの弟。遊と書く。イタズラ好きのワガママっ子。
ケント:ヨリコの兄。健人と書く。面倒見もよく家族思いの良い兄。いい人なのに色々不憫。

【役表】
ヨリコ:
サトル:
ママ:
パパ:
ユウ:
ケント:




【本編】

サトル   ヨリコさん。僕と…結婚してください!

ヨリコ   け、け、結婚!?

サトル   あ、嫌…だった?

ヨリコ   ううん!そんなことない!…すっごく嬉しい…。

サトル   僕たち付き合い始めてもう二年になるだろ?それに僕、ヨリコさん以外に素敵な女性なんて見つけられないと思うから…。

ヨリコ   サトルさん…。

サトル   だからできたら、この指輪と僕の気持ち…受け取ってください。

ヨリコ   …ごめんなさい。

サトル   うぇ!?

ヨリコ   あ、いや!違うの、待って!…あのね、家族と…相談させてほしいの。

サトル   あ、そ、そっか!うん、良いよ、大事だよね相談!そうだそうだ家族に相談…あ、それなら僕も一緒に行くよ。

ヨリコ   うぇえ!?

サトル   だってホラ、今まで一度もヨリコさんの実家って行ったことなかったし、これを機に挨拶ぐらいしとかないと。薄情な男にはなりたくないからね。

ヨリコ   サトルさん…その気持ちはありがたいんだけど、その…。

サトル   どうしたの?都合悪いならヨリコさんに合わせるから、いつでもいいんだよ?

ヨリコ   そうじゃないの…そうじゃないのよおおお……!!!



ヨリコ   たっだいまー…。

ママ    あら、ヨリコちゃん。お帰りなさい。彼氏さんとのデートはどうだったの?

ユウ    どうせまたフラれたんだろー?ま、今回のヤツは頑張ったほうじゃねぇの?

ケント   こら。変なこと言うなよ。

ユウ    だってそうだろ!見てみろよヨリコのあの服!

パパ    こらユウ。お姉ちゃんのこと呼び捨てにするんじゃない。ヨリコお姉さまって言いさない。

ユウ    あんなカッコの女誰がお姉さまなんて言えるかよ!外ではピシっとスーツで決めてるヤツが、家に帰ったらゆるゆるジャージに可愛げもねぇゴムで髪まとめて、顔にパック貼り付けたまんまウロウロしてんだぞ!

ケント   ヨリコは一生懸命働いてるんだ。適当に子供からかって遊んでるばっかのお前とはわけが違うんだぞ。

ユウ    うるせー!

ママ    まぁまぁ、良いじゃないの。それでヨリコちゃん。今日はえらくお疲れのようだけど…何かあったの?喧嘩でもした?

ヨリコ   いや、喧嘩はしてない。…してない、けど…。
ケント   けど?

パパ    なんだ、ヨリコのその姿を見て幻滅したのか!?なんてことだ!そいつを今からぶちのめしに…

ママ    お父さん、やめてちょうだい。

ヨリコ   違うよ。幻滅もされてない。「おちゃめで可愛いね」って笑いながら褒めてくれた。

ユウ    それ煽られてるんじゃね?

ケント   こら。

ヨリコ   学生時代のジャージ着てパックつけたままウロウロして、ダラダラ一日すごしてたって彼優しかったの。「夕飯僕が作るよ」とか「僕も今度ジャージ出してみようかな」とか、優しく語りかけてくれるの!あのイケたフェイスで!

ユウ    そんなイケメン彼氏とのデートの後なのに、なんで疲れてるんだよ。

ヨリコ   ……結婚しようって言われた。

ケント   えっ

ユウ    マジかよ。

ママ    あらやだ、お父さーん。鍋のおたま持ったまま倒れないでくださいよー。

パパ    ゆ…ゆ、許さん…!!私の可愛い可愛いヨリコを連れていくなんて…!!やっぱりソイツの枕元に立って…

ヨリコ   待ってよ!それより大きな問題があるじゃない。

ケント   大きな問題って?

ヨリコ   …家族に挨拶したいって。

パパ    …それの何が問題なんだ?ヨリコ。私たちは何にも問題のない、いたって普通の家族じゃないか。

ヨリコ   何が普通よこのハゲ親父!!自分の身体よぉーく見てみなさいよ!!
ケント   あぁ、そういうことね。

パパ    なんだなんだ!お父さんのビール腹が気になるのか!それならお父さん頑張って痩せるぞ?

ママ    違いますよお父さん。

ヨリコ   …もう良いや。とにかく、家族に挨拶ぐらいしないと薄情な男になるって言って聞かないのよ。

ユウ    そりゃ当たり前だよな。家族に何も言わないで結婚なんて世の親父は激怒するよな。

ヨリコ   でもほら、うち…アレじゃない。

ママ    そりゃ、まぁそうねぇ。

ケント   それも全部受け止めてもらってこそ本当の家族になれるんじゃないのか?
ヨリコ   え?

ケント   確かに、俺たちは普通じゃない。普通じゃないかもしれないが、それを隠し続けてどうなる?お前は日々俺たち家族のことに悩み、それを隠しながら彼との生活を続けないといけなくなるんだ。それって辛くないか?

ヨリコ   そりゃ、そうだけど…。

ケント   嫌われたくないのはわかる。でも、お前のその姿を見ても何も嫌がらない人だったんだろ?今までその干物女にしか見えない格好・生活、だらしのないその全てを見てもなお、好きでいてくれた人なんだろ?

ヨリコ   ケン兄(にい)…ケン兄もやっぱ、そう見えるんだ。

ケント   そうだな。女性って家にいても、もこもこパジャマとか着てアロマ焚いたり可愛いぬいぐるみとか抱いてくつろいでるもんだと思ってた。

ユウ    ケン兄ってそんな思春期真っ只中の中高生みたいな想像してたんだ…だせぇ。

ヨリコ   あー、なんかごめんね。夢壊しちゃって。

ケント   いや、大丈夫。こういうのも許していけるって言うのが愛なんだろうなって感じて諦めてる。

ヨリコ   あ、諦めたんだ…。

ユウ    ケン兄の言葉のチョイスって絶妙に悪いよなぁ…。

ケント   俺だってこうして受け入れられたんだ。彼も俺たちのこと、分かってくれるさ。

ヨリコ   …分かった。今度彼と予定合わせて一緒に帰るから。

ユウ    ヨリコの彼氏どんなのだろうなー、へへへ。

パパ    ソイツがヨリコに釣り合う男かどうか…私が確かめてやろう…足を洗って待っていろ、ヨリコの彼氏!!

ママ    お父さん、洗うなら首ですよ。ユウちゃんも彼氏さんが来たらイタズラしちゃだめよ。



ヨリコ   さてこのお話をお聞きの皆さんは既になんとなくお察しだと思いますが、うちの家族は私を除いた全員、幽霊です。

ケント   え、この流れで突然言っちゃうの?

ヨリコ   ケン兄これ私の一人語りなんだから邪魔しないで。

ケント   あ、ごめん…。

ヨリコ   コホン。改めまして、私の家族は皆幽霊です。父のイチロウ、母のキヨミ、兄のケント、弟のユウ。全員幽霊で、なんなら一滴の血も繋がっていません。赤の他人同士なのです。そんな私たちがどうして家族という形をとっているのか。これには深い深い、泥沼のような訳があります。

ケント   泥沼って、愛憎劇じゃないんだぞ…。

ヨリコ   ケン兄うるさいって。

ケント   ご、ごめん…。

ヨリコ   まぁそんなチグハグな私たちですが、これまた不思議と家族として成立しちゃっているのです。でも私は、今まで付き合ってきた彼氏の誰にも、家族のことを話したことはありません。

パパ    なんでだ!お父さんが恥ずかしいっていうのか!!お父さんはヨリコをこんなに愛しているのに!!

ヨリコ   うるっさいハゲ!…とにかく、彼氏に私の家族を紹介するという未体験ゾーンに突入した私は、彼氏にどう説明すればよいのか、思案にふけるのでありました。

ユウ    くっそー、なんでヨリコばっか一人語り多いんだよ。俺だってカッコよく語ってみたいっつの。

ママ    ユウちゃんはまだ子供だから仕方ないわねー。もう少し大きくなったらヨリコちゃんみたいに一人語りできるわよ。そのためにも苦手なほうれん草食べられるようにしましょうね。

ユウ    えー嫌だー!

パパ    むう…ユウの好き嫌いはともかくとしても、私の可愛いヨリコがあんなにも困っているのは、お父さんとしても見ていられない…ぐう…何かしてやれんものか…。

ユウ    アンタの子供はヨリコだけかよ。

パパ    そんな訳ないだろう!お前もケントも大事な息子たちだ。しかし男親というものは!娘を溺愛するものなんだ!お前らよりマイエンジェル・ヨリコのほうが可愛いに決まっているだろう!!

ユウ    ハッキリ言いやがったこのクソハゲ親父!

パパ    誰がウンコハゲだこの親不孝モンがぁ!!

ママ    こらユウちゃん、ハゲはともかくウンコはダメよウンコは。

ケント   誰もウンコとか言ってないよ父さん!母さんもよしんばハゲてたとして嫁としてフォローしてやろうよ!

パパ    ケントは口を挟むんじゃない!この親不孝者が!

ケント   え、俺すっごいとばっちり喰らってる!

ユウ    このクソハゲビールっ腹親父!絶対ヨリコと彼氏別れさせてやるからな!

パパ    なんだと!?待てユウ、私の大事な大事な子供その3。

ケント   他人だとしても子供に言うセリフじゃないよ…。

パパ    お父さんとお前では決して譲れないものがあるだろう。そしてお父さんはよしんばハゲてたとしても、うんこではない。

ママ    そうよ、お父さんはれっきとした幽霊なのよ。いくら血は繋がっていなくても、うんこはダメようんこは。

ケント   もう皆うんこって言いたいだけだよなコレ。

パパ    しかーし!!お前もヨリコの彼氏が気に食わん。そうだろう?

ユウ    いや、クソ親父に一泡ふかせるために溺愛してるヨリコにちょっかい出すだけなんだけど。正直あいつの彼氏とかどうでもいいし。

パパ    正直私も気に食わん!あんな花のように可憐で清楚で穢れを知らない聖女のようなヨリコを、どこの馬の骨かもわからん男になんてやれるか!!

ユウ    聖女なわけあるかよ、100%干物女だろ。

パパ    そう、干物のように噛めば噛むほど味がある女、ヨリコは現代に蘇った大和撫子なんだ!流石私の可愛い娘!

ケント   これが会話のドッジボールってやつか…母さん、俺なんだか怖くなってきたよ。

ママ    大丈夫、女同士の争いに比べたらなんてことないわよー。ケンちゃんもその内分かるわ。

ケント   …俺が言うのもなんだけど、この家族…本当に大丈夫かな…。

パパ    ケント、不安になることはない。お父さんがしっかりヨリコについた悪い虫を追い払ってやろう!ハッハッハ!

ケント   いや、俺そこに不安を抱いてるんじゃなくて…あーあー父さん意気揚々と壁すり抜けてったよ…はぁ。これ、当日どうなるんだ…?ヨリコ…なんかごめん。



ヨリコ   許さん。つか筒抜けなのよ。あれで私が聞こえてないとでも思ってんのかな。はぁ。…あ、サトルさんからライン来てる。

サトル   「ご両親とは都合つきそう?」

ヨリコ   …二人とも忙しい人だからまだつかないかも。でも前向きに考えてくれてる、よ。

サトル   「そっか。ご両親へのお土産にお菓子でも持っていこうかと思うんだけど、どんなのが良いかな。」

ヨリコ   えぇ!?…大丈夫だよ、二人とも甘いの好きじゃないし、お父さん食べ物気にしないといけない歳だから。

サトル   「でも手ぶらでお邪魔するのも気が引けちゃうし…。じゃあ今度一緒に考えてくれる?そのまま一緒にご飯でも。」

ヨリコ   …はああ。ほんとイケメン。荷物は持ってくれる、ご飯はおごってくれる、雨が降ったら私のほうに傘をさして自分は肩が濡れようと大丈夫ってさわやかスマイル。私の好みを完璧に把握してデートプラン考えてくれるし、どんな時にでも私への気遣いを欠かさない、まさに絵に描いた王子様のようなパーフェクト・イケメン!…ほんと、私にはもったいないくらい。

サトル   「今日も一日お疲れ様。ゆっくり休んでね。」

ヨリコ   …ゆっくり休めるなら休んでるっての。アンタのせいで悩んでるんだからね!バカ!おたんこなす!…好き!



パパ    …そして次の日、ヨリコは意を決したように口を開いた。

ヨリコ   来週、彼氏を連れてきます。

パパ    遂に、か…。

ユウ    待ってたぜ、この時をよぉ…。

ママ    あらあら、二人ともなんだか熱く燃え上がってるわねぇ。

ヨリコ   でも、やっぱり私の家族は幽霊ですなんて言えない。

ユウ    は?どういうことだよ。

ヨリコ   だから、ちゃんと実体のある状態で話してほしいの。疲れないからって下半身がボヤっとした半透明な姿じゃなくて、ちゃんと、人の形になって彼と会ってほしいの。

ケント   まぁ、いくら俺たちが生身の人間と同じようになれても、ヨリコ以外の人には触れないだろ。そうしたら不自然に思われないか?

ヨリコ   それはほら、うまいことやるから。

ママ    あらそうなの?お母さん彼氏さんのためにいっぱい料理作ろうと思って張り切ってたんだけど。

ユウ    作ったところで彼氏が食ったらそれヨモツヘグイってヤツだろ。

ママ    あら、ユウちゃん。そんな難しい言葉いつのまに覚えたの?賢くなったわねぇ。ところで、ヨモツヘグイってモグラか何かかしら。

ヨリコ   ヨモツヘグイだか世も道すがらか知らないけど!とにかく、今できる最善の策を考えたから。皆、ふつうの家族としてふるまってよね。あ・く・ま・で!生きてる人間としてね!

パパ    わかったわかった。ヨリコのためなら、お父さんなんでもするぞ。

ユウ    ん?今なんでもするって…

パパ    お父さんができることなら!なんでもするぞ!

ケント   ユウ…お前いつの間にそんな言葉覚えたんだ…お兄ちゃんお前の未来が心配だよ。

ヨリコ   まぁ、分かってくれたなら良いわ。来週の夜、仕事終わったら一緒に帰ってくるから。ユウ!…絶対邪魔しないでよね。

ユウ    へいへーい。

ヨリコ   …ユウの言葉だけじゃ信用ならないわね。ケン兄、当日ユウのこと見張っといて。変なことしないように。

ユウ    はぁ?!俺は囚人かなにかかよ!

ケント   分かった。ちゃんと責任もって見ておこう。安心して彼氏を連れてこい。

ヨリコ   流石。ケン兄は頼りになるわね。



ママ    ですがこの時、ヨリコちゃんはまだ気が付いていませんでした。幽霊である私たちの隠された力、そして、とんでもない結末を迎えてしまうことに。…あぁ、かわいそうなヨリコちゃん。

ケント   母さん。そのリアクションでほとんど話の展開わかっちゃうから。

ママ    あらやだ。ごめんなさいね。それじゃあこの後は作者さん渾身のクソつまらないボケの数々を楽しんでいってくださいな。…あらやだ、私ったらクソだなんて。オホホホホ。



ヨリコ   長い間待たせてごめんね。

サトル   良いよ、気にしないで。ご両親も君も忙しいんだし、それくらい待てるよ。…あれ?ここヨリコちゃんの家だよね。一人暮らしって言ってなかった?

ヨリコ   ギクッ…あ、あぁ。実は実家から丁度こっちに遊びに来てるのよ。それでうちに来てもらおうってなって。

サトル   そうだったんだ。わざわざ実家から来てくれるなんて、娘想いの良いご両親だね。

ヨリコ   アハハ…。

サトル   少し緊張してきたな。…よし。それじゃあ、お邪魔します。

ママ    ヨリコちゃんお帰りなさい。…あらあら、その人がヨリコちゃんの彼氏さん?あらぁ、とっても素敵な人ね。

サトル   ど、どうも。ヨリコさんとお付き合いをさせて頂いてる、神崎 悟(カンザキ サトル)と申します。あの、よかったらこれどうぞ。

ヨリコ   あ、あー!それ私が持ってくよ!お母さん忙しいから、ね。ね!

ママ    …あー、そうね。お母さん忙しいんだったわ。それじゃあサトルさん。また後でゆっくりお話、聞かせて頂戴ね。

サトル   あ、はい…。…優しそうな良いお母さまだね。

ヨリコ   う、うん。ありがとう…ほら、上がって。

サトル   うん。…ヨリコさんのお父さんって、結構怖い人なの?ドラマとかでよくある「お前のような奴に娘はやらーん!」みたいなことあったりして。

ヨリコ   アハハ…。

パパ    (変な声が出る)おっ、お前のヨウな奴にむスメはやらーん!!

ヨリコ   うぇ?!

サトル   な、なに今の!?

ヨリコ   あのクソハゲビールっ腹親父…何変なこと考えてるの…しかもフライングだよ、悪い印象をフライングゲットしてるよ…!!

サトル   よ、ヨリコ…さん。今の声って…。

ヨリコ   た、た、た、多分…お父さん…。

サトル   …そ、うなんだ。なんだか、面白そうなお父さまだね。アハハ…。

ヨリコ   そ、そうね…あ、アハハ…。



パパ    ゴホン、ゴホン…しまった、先に言われたことに動揺して思わず変な声が出てしまった。ここは厳格な父親というイメージを持たせるためにも、こう…渋い声で…ゴホン、ゴホン。あー、アー。

ヨリコ   お父さん、彼氏連れてきたよ。

パパ    (変な声が出る)うひょおおおおおおお!?

ヨリコ   (変な声が出る)おひょおおおおおおお!?

パパ    な、な、な、なんだヨ、ヨ、ヨ、ヨリコ!!パパの部屋に入る前にの、の、ノックはしなさいとあれれれれ、あれほど!!

ヨリコ   いつの間にパパってキャラ付けになったのよ!ここリビングであってお父さんの部屋でもなんでもないし、っていうか変に緊張しないでそのままで居てって言ったじゃない!

パパ    そそそそ、そんな訳にはイカンザキ!!

ヨリコ   何で年代によってわかるか分かんないか微妙なラインのボケかましてくるの!?…あぁもう折角スムーズに挨拶を終えてしまおうと思ってたのに…ダサすぎ…。

サトル   …ううん。いいよ。ヨリコさん。

ヨリコ   え?

サトル   好きな人には恥ずかしい所を見せたくない気持ち、わかるよ。僕だってそうだもの。でも、そういった恥ずかしい姿も全部愛そうって思うのが恋人なんじゃないかな。

ヨリコ   …サトルさん…。

サトル   大丈夫。だってヨリコさんの干物女100%のあの姿を見ても平気だったんだよ?今更何が出ても驚きも軽蔑もしないよ。

ヨリコ   さ、サトルさん…!

ママ    あらぁ、とっても素敵な彼氏さんね。お父さんもそう思いませんか?

パパ    …なんだろう、悔しい。でもジーンと来ちゃう。

サトル   ご両親がそろったんだから改めてご挨拶しないといけませんね。改めまして…初めまして。ヨリコさんとお付き合いをさせて頂いてます、神崎 悟と申します。ヨリコさんとは、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いていました。そして今日…結婚の許可を頂こうと、ご挨拶に参りました。



ヨリコ   こうして寛大な超絶ゴッドイケメン・サトルさんの感動コメントによって、比較的スムーズに結婚の話は進んだ。お父さんがやたら緊張したり、お母さんが時たま変なことを言ったりすることを除いては皆和気あいあいと話してて、私もつい楽しくなっていた。そして、話は無事、終わりを迎え…

ユウ    ちょぉーっと待ったァー!!

ヨリコ   うわあああくそおおお!!話もそろそろ長いかなって思って切り上げようとしたのにお前ええええ!!!

ユウ    そうは問屋がおろさねぇぜヨリコ!

サトル   えっ?!ヨリコさん、この子…。

ヨリコ   あ、えっとね!?

ユウ    …ママぁ。

ヨリコ   ……は?

ユウ    ママぁ。パパが遊んでくれなくて寂しいよぉ。ママ遊んでぇ。

ヨリコ   …は。気色悪いし意味わかんないし訳わかんないし。は?何?…ママ?

ユウ    ママはボクのママでしょぉ?ボク今日良い子でずーっと待ってたんだよ?

サトル   ヨリコさん…これは、どういう…?

ヨリコ   いやいやいや待って、違うから!そういうのじゃないから!

ユウ    ちがくないもん!ユウちゃんママの子供だもん!!なんで意地悪言うの!

ヨリコ   待って待ってホント洒落になんないからユウ!あのねサトルさん、この子私の弟で…

ケント   ヨリコ悪い!!俺がちょっと目を離したスキにユウのヤツ逃げ出して…!

ユウ    あ、パパぁ!!

ケント   へ。

ヨリコ   お前―!!!

ケント   パパ?

ユウ    パパさっき本読んでくれてたのに寝ちゃったでしょ?だからママのところ来ちゃった。

ヨリコ   ちょ、ケン兄、コイツどうにかして…!

サトル   ヨリコさん…どういうことか、説明してもらえるかな…。

ヨリコ   違う、違うのサトルさん。コイツはただの弟で…

ユウ    違うもん!ユウちゃんママの子供だもん!違うもーん!!

ケント   気色悪いんだってお前!ちょ、こっち来い!

ユウ    やだやだー!ママと一緒にいるううう!!

ヨリコ   あぁ待って、待って身体透けてる…ユウ透けてるから身体が!!

ママ    あらあら、ごめんなさいねサトルさん。うちの子たちが貴方にヤキモチ焼いてるだけなのよ。

サトル   いや、そういう感じじゃなさそ……お、お母さま…。

ママ    あら、何かしら?

サトル   お母さまは、どうして身体が透けているんですか…?

ママ    それは私が幽霊だからね。

サトル   お父さまは、どうして身体が伸びてるんですか…?

ママ    それはあの人が幽霊だからね。

サトル   ヨリコさんのむ、息子さんは…どうして足がないんですか…?

ママ    あの子は私の子供だけど、あの子も幽霊だからよ。

サトル   ゆ、ゆ、ゆ…幽霊…!?

ヨリコ   もうちょっとホントやめてって……さ、サトル…さん?おーい…?

ママ    …あらいけない。

サトル   …ばたんきゅー。

ヨリコ   さ…サトルさぁーん!!!



ケント   …こうして大波乱の末、ヨリコの彼氏紹介は幕を閉じたのでした。その後の彼氏、サトルさんはというと、俺たちが静かになった後意識を取り戻したようだったんだけど…。

サトル   …僕、ひどい夢を見たんだ。優しいご両親と君とで話していたと思ったら、君の子供と名乗る子が出てきて、その父親まで出てきて、更には…更にそれが…ゆ、ゆ、ゆうれ……あぁ!思い出しただけでも怖い夢だ!

ケント   人間って言うのは都合の良いように作られてるもんで、幸か不幸か、ヨリコは彼と別れることはなかった。しかしそれ以来二人の間で結婚というものは少し遠いものになったようだ。

ヨリコ   …許さん、マジで許さん。

ケント   こんな感じでヨリコも帰ってくるなり呪いの言葉をずっと吐くようになったし…いやぁ、人間って怖いよな。

ヨリコ   うるさいクソ兄!

ケント   あ…スイマセン。…すっかり彼氏を別れさせるという目的を見失っていた父さんも、ヨリコがあんな風になったせいで色々落ち込み気味。ユウだけは目的を果たせて一人勝ちって感じだ。でもいつか、二人の間でまた結婚という言葉が浮かんだときには、今度はきっと大丈夫だ。だってその時は…。

ママ    ケンちゃん、ご飯できたわよー。

ケント   あぁ、今行くー。…さて、まだまだ何か起きるかもしれない俺たち。またここを覗く時があれば、一緒にこの世界を楽しんでくれると嬉しい。それじゃあ、また会える日まで。

ヨリコ   …ねぇ。これ私の話なんだけど。…私の話なんだけどぉおおお!!?




おしまい



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