【目覚める人】

上演時間:25分前後

【登場人物(セリフ数)】

♂♀/ミサト(55):ある空間で拘束された人物。基本的にノリは軽いが、根はまじめな大人しい性格。

♀/ミヤコ(25):大人しい性格の優しい女の子。時折感情的になることも。

♂/♀サク(32):常に冷静でどこか冷めたような性格。

♂/トウヤ(30):怒りっぽく言葉遣いが乱暴。根は優しい所もある様子。

生徒A(3):ミサトのかつての同級生。サクと兼役。

生徒B(3):ミサトのかつての同級生。トウヤと兼役。

看護婦(1):ミヤコと兼役。


【配役表】
ミサト:
ミヤコ/看護婦:
サク/生徒A:
トウヤ/生徒B:





【本編】

ミサト    私の目の前は真っ暗だった。…いや、そんなゲームオーバー画面とかそんなんじゃないよ?本当に真っ暗だったの。もう例えとかそんなんじゃなくてマジなやつ。で、電気無いかなーって思って動こうとしたんだけどこれがビックリ動かない!マジかーって思ってたら、私椅子に座ってて、ドラマでよく見る誘拐事件みたいに縛り付けられてたの!いやーもう私パニくっちゃってさぁ!

トウヤ    とりあえず黙れよ。

ミサト    いやあだってこの展開おかしくない!?おかしくない!?怖いよ!?軽くミステリーサスペンスホラーショーだよ!?

トウヤ    どういうことだよ!意味わかんねぇよ!

サク     それっぽい言葉全部つなげたら怖い感じが伝わるとでも思ったんじゃない?

トウヤ    なんだよそれ!?あー、とにかくイライラするから一発アイツぶん殴るか…。

ミヤコ    ま、まぁ落ち着いて、ね?

ミサト    いやいやいや落ち着いてられますかこれ!!真っ暗な中、一人椅子になんの変哲もない一般ピーポーが縛り付けられて?あなた方のご尊顔も拝見できないとなればそりゃあもう怖いですよ!!

サク     じゃあライトでもつけてやるから黙って。はい。

ミサト    うおっ、まぶしっ!ってこれ私だけライト当てられてるー!ドラマでよく見るヤの付くお兄さんとかに大人の取り調べされる奴だー!嫌だー私死にたくないよー!

ミヤコ    死なないんじゃない、かな。多分。

ミサト    多分って怖いわ!

トウヤ    つかご尊顔も何も、俺達見えないんだからどうしようもねぇっつの。

ミサト    は?透明人間?

トウヤ    違うわ!

サク     僕達は透明人間ではない。でも傍目には見えない。そんな僕達を君には認識してもらわないといけない。それができれば君を解放してあげられる。

ミサト    認識って、そんなこと言われてもなぁ…。

ミヤコ    ま、まぁ無理にとは言わないよ。私たちだって力づくは嫌だし…。

ミサト    え、力づくが嫌な割には結構ひどい仕打ちしてるよねコレ。

トウヤ    それとこれとは話が別だ!これは俺らだけじゃなく、お前にとっても重大な問題なんだ。分かるか?だから早く、そのすっからかんの頭で、なんとか思い出してみろ!

ミサト    いでっ、いててっ、ちょ、頭小突かないでくれませんかねぇ!?…ってなんで感覚だけははっきりあんの!?何、やっぱり透明人間!?

トウヤ    だから違うって言ってるだろ!本当にバカだなお前!

ミサト    はん、バカだからバカ言うのは仕方ないですぅ。

トウヤ    あーそうですか、じゃあお前はバカの中の大バカ野郎だ!こンのバーカ!

ミヤコ    バカじゃないよ!あなたはバカじゃない、よ。

トウヤ    はぁ?俺らのことも見えてないんだぜ?それなのに…

ミヤコ    …。

トウヤ    …チッ、ハイハイすいませんでした。

ミヤコ    バカじゃないよ、だって私ずっと見てきたもの。ミサトちゃんはバカじゃないよ。

ミサト    え、あの、ちょっと。話の流れが急展開になってきてるんですけど、ってか何で私の名前知ってるんですかね。あ、誘拐されてたら知ってても不思議じゃないか。

サク     君さ、パニくってるとか言ってるわりに割と平然としてるよね。普通はこんなペチャクチャ喋らないと思うんだけど。

ミサト    いや、結構パニくってますよ?今までのこのテンションの高さで察して!

サク     だから、それがそもそも嘘くさいってこと。それすらわかってないの?ホント重症だね。

トウヤ    だからバカだって言っただろ、俺らだって居ないフリするような奴だぜ?お前らが居るからまだ我慢してるけど、俺だけならもうヤってるね。完全に。

ミヤコ    で、でも…私たちにとっても大事な人なんだから、そんな簡単に…や、ヤるなんて、だめだよ。

ミサト    待って私どういう意味でヤられるの!?台本の文面的にもカタカナになってるから色々怖いよ!

トウヤ    あーもーうるっせぇな!ベラベラ無駄口叩いてる暇があんなら俺らのこと思い出してみろよ!このノロマがよォ!

ミヤコ    あっ…!

ミサト    へ…?…のろ、ま…?



生徒A    ははッ、お前ってノロマだよなぁ。運動も掃除もご飯食べるのもぜーんぶおっそいんだもんな。

トウヤ    うるさい…。

生徒A    あ、もしかして言葉の意味理解するのも遅いのかぁ?お前ノロマだもんなぁ。

トウヤ    うるさい、うるさい、うるさい。

生徒A    ミサトなんて名前じゃなくてノロマってつけてもらった方がよっぽどお似合いだったんじゃね?あははは。

トウヤ    暴力、暴言、笑い声、視線、生温い人間たちの距離感!全部が癇に障る。俺が何をした?全部壊してやる、全部、全部、全部、全部。その命だって…!



ミサト    …ノロマ…。あは、懐かしいなぁ。

トウヤ    チッ、なにが懐かしいだよ。バッカじゃねぇの。

ミサト    そんな顔しないでよー。私なんもしてないじゃん。…あれ。

ミヤコ    ミサトちゃん、トウヤが見えるの?どう?どんな顔してる?どんな姿?

ミサト    …わかんない。ぼんやり、瞬間的に、私を嫌がってる顔が見えた…気がする。

ミヤコ    でも見えたんだよね?私は?ミサトちゃん、私は見える?

サク     ミヤコ、やめなよ。

ミヤコ    だって大事なことだよ!ミサトちゃん、私は?私はどんな顔してる?どんな姿してる?

ミサト    わ、わかる訳ないでしょ!さっきのだってぼやーっとしか見えてなかったのに今なんか見えないよ!

サク     ほら、ミサトもそう言ってるんだから。無理矢理ミサトに聞いたら本当に壊れちゃうよ。ミヤコもそれは嫌なんじゃないの?

ミヤコ    そうだけど…ううん、ごめんなさい。

サク     謝らなくていいんだよ、ミヤコの気持ちも分かるから。だからそんなに気に病むことはないんだよ?

トウヤ    はぁ、お熱いことで。

サク     …幸いここは時間って概念もないし、好きなだけ考えると良いよ。ただ僕達がそんなに気長に待てるほどお人よしかは分からないけど。

ミサト    そんなこと言われてもなぁ…うーん…ヒント、ヒントは?

サク     はぁ…能天気。…一度でも僕達の声を聞いたことはないの?

ミサト    聞いたこと……。さっきの女の子の声は聞いたことある、かも?

トウヤ    俺とかサク…さっきの奴の声とか聞いたこと無いのかよ。

ミサト    あー…うーん…あるような、無いような。

サク     トウヤならともかく僕の声の記憶までぼんやりしてるなんて…。バカ。

ミサト    さっきからバカバカうるさいよ!?

サク     バカなものはバカだよ。僕達のこともまともに思い出せないんだから。それとも何、さっきみたいに罵声を浴びせるだけ浴びせてその減らず口黙らせてあげようか。

ミサト    はは、何、私そんな減らず口叩いてるように見えるわけ?

サク     見えるよ。見えるから僕達が居るって言うのに。それすらも抑えつけて忘れちゃった?ほんとバカだね…。

ミサト    何も抑えつけられてなんてないよ、私は私のまんまだもん。

サク     はぁ…もっと冷静に

ミサト    「もっと冷静になって考えてみたら」?…あれ。なんで私こんな言葉…。

サク     やっと思い出してきた?まったく、どれだけ待たせるのかと思ったよ。

ミサト    ってことは…!…見えた。




生徒B    今日も今日とてノロマなミサトちゃんでちゅねー。ちゃんと掃除、晩ご飯までに間に合うといいでちゅねー、あははははは。

サク     また殴るの?

生徒B    …あ?なんだよ、その目。お?殴るのか?また殴るのかよ。やれるもんならやってみろよ、ほら、ほらぁ。

サク     冷静になって考えてみなよ。こんな奴ら殴る価値もないよ?

生徒B    何一人でブツブツ独り言喋ってんだよ、気持ち悪ぃな。

サク     僕ならアイツぐらい殺す知恵はある。けど、そんなことまでして自分の人生を棒に振ることない。僕もたとえ器が違ったとしても、まともな人間として生きたいよ。




ミサト    器が…違う?へ?どう言うことか、わかんないんだけど?…あれ、腕が動かせる…?

トウヤ    お前が俺らを思い出してきたってことだ。ほら、俺らが見えないか?

ミサト    …見える。半透明だけど…二人、見える。

サク     二人?三人じゃなくて?

ミサト    二人しか見えない。あれ、おかしいなぁ。あはは…。

ミヤコ    私?…私が見えないの?ミサトちゃん?…どうして?他の二人は見えるんでしょ?

ミサト    う、うん。不機嫌そうな人がトウヤって人でしょ…そっちは顔あんまり見えないけど声の方向的にサクって人で…って、違う?

トウヤ    ご名答。

ミヤコ    …どうして?私は?私は少しも見えないの?ほら、こんなに近くに居るよ?あなたの手を握ってる私!私は誰!?

ミサト    ごめん…少しも見えないや。一番聞き覚えのある声だと思ったのに…なんでだろうね、あはは。

ミヤコ    笑ってないで答えてよ!!私はどんな姿をしているの?誰?私は誰?誰、誰、誰!?

サク     ミヤコ、落ち着いて。

ミヤコ    サクは黙ってて!私は一番近くであなたのことを見てたのに…どうして分からないの?きっかけがないから?あは…じゃあ話してあげるよ?そうしたら私のこと思い出してくれる?私が見える?

サク     ミヤコ!

ミヤコ    私はあなたがあなた自身に絶望したあの日から生まれたんだよ。覚えてる?覚えてないよね、忘れるために私がいるんだもの。だから私が教えてあげる。あなたには素敵な家族が居たの。綺麗で完璧なお母さん、頼りになる完璧なお父さん。そしてその遺伝子を継いだ完璧なお兄ちゃんとお姉ちゃん。そして、あなた。

ミサト    あ…?

ミヤコ    でもあなたはあの両親の実の子供であるにも関わらずどちらにも似なかった。不思議だよね。でもちゃんと血は繋がってるんだよ?なんでもできた兄姉(きょうだい)達に対してノロマで何もできないあなた。それを見て兄姉たちはある時両親にこんな質問をしたのよ。「あの子は私たちと同じ弟妹(きょうだい)なの?」って。そして両親たちはどう答えたと思う?

ミサト    あ…。

ミヤコ    「拾ってきた子かもしれない。」って。あは、あはははははは!どう?どう思った?同じ血は繋がってるって言うのに兄姉(きょうだい)達からは弟妹(きょうだい)と思われず、両親もはっきりと否定してはくれなかった。あの時からあなたの周りにはあなたの味方は居なかった!

ミサト    あぁあ…。

ミヤコ    思い出してきた?私が生まれた瞬間私は胸が躍ったわ、だってこんなに自由に動けるんだもの。でもその喜びもつかの間だった。あなたが私を、私たちを忘れたから。

ミサト    ちがう…。

ミヤコ    違わないよ。あなたは色んな感情を抱いたはず。それって喜びだけだった?幸せな感情だけだった?そんな訳ないよね、あの日に強く絶望したことも、誰かを殺してしまいたいくらい憎んだことも、自分さえも消えてしまおうと思った悲しみも…あなたは感じだことがあるはず。でもそんな負の感情を私たちと一緒になかったことにしているんだよ。私たちを、閉じ込めたんだよ!

ミサト    あぁ…あぁ……あぁああぁあぁああ…!

ミヤコ    悲しい?悔しい?憎い?外の人も、私たちも、憎い?涙が出るほど?…でもね、私も涙が出るほど悔しかった。あなたが憎かった。悲しかった。あなたは私たちを忘れ、私たちにガラス越しの景色だけを見せて死のうとしたんだよ。

ミサト    私…そうだ…。首、つって…。

ミヤコ    私は、私たちはあなたに認識してもらえないと自分の姿すら見られないの。私はそれがずっともどかしかった。自分が白いモヤみたいな姿しかしてなくて、でもそれが本当の自分じゃないってことは分かってて、だから…どんな形であれ、私は…私が、私と言うものを確認したかった。私はミサトちゃんの中ででも存在しているんだって。

トウヤ    お前は一度命を捨てようとした身なワケ。でも俺らだってそれを「ハイそうですか」って受け入れられるほど寛容でもないんだよ。俺は特にそうだ。

サク     だからこれが最期だったとしても僕達を認識してほしかった。僕達という存在が居たことを忘れずにいてほしかった。

ミサト    …君達、泣いてるん、だね。

トウヤ    はぁ!?泣いてるワケないだろーが!

ミサト    だって泣いてるもん。自分の顔見てみてよ。

サク     …本当だ。泣いてる。あはは…泣いてるね…。

トウヤ    ち、ちくしょ…なんで、拭いても拭いても涙が出るんだよ!

ミサト    私が泣いてるから…かなぁ。私、なんでも笑って誤魔化したらなんとかなるって思ってた。でも全部が全部そうじゃない。誠心誠意やったって、ダメな時はダメ。ただそれが重なっただけなんだけど…私にはそれが、それすら悲しかった。もう悲しむ力も無かったな。

ミヤコ    …今もまだ、死にたいって思う?

ミサト    うーん…分かんない。だって色んなこと引きずり出されて正直頭いっぱいだし。悲しいのか、嬉しいのか、生きたいのか、死にたいのか。それもなーんもわかんない。あははは。

サク     泣きながら笑うって、性格破綻者みたいになってるよ。

ミサト    出るもんは出ちゃうんだから仕方ないよ。それに、君達はそんな私も受け入れてくれるんじゃないの?

トウヤ    まぁ…お前の為に生まれたようなもんだしな。俺ら。

ミサト    あはは、やっさしー。

トウヤ    うるせぇ!

(ミサト ミヤコ サク 笑う / ミサトのみでも可)

ミサト    あははは、はは…はぁー。なんか、いっぱい泣いたり笑ったりして…疲れたぁ。

ミヤコ    うん、いっぱい笑ったね。

ミサト    うん。

サク     いっぱい泣いたね。

ミサト    うん…。

トウヤ    色々、頑張ったな。

ミサト    うん……。

ミヤコ    ありがとう。お休み。ミサトちゃん。私達の大好きな人。




ミサト    …ん……っんん…ま、ぶし…?

看護婦    あっ…せ、先生!患者の意識が戻りました!

ミサト    …あ…そ、か…。

トウヤ    なーに寝ぼけてんだ。バーカ。

サク     仕方ないよ。長い間眠ってたんだから。

ミサト    トウヤと…サク…?

トウヤ    ふん、やっと気付いたかよ。今までずーっと声かけてきたってのに。

サク     拗ねても可愛くないよ?

トウヤ    拗ねてねぇし!

ミサト    …あはは…。

サク     どう?僕達の声が聞こえる気分って。

ミサト    んー…不思議。

サク     だろうね。

ミサト    でも…一人じゃないって、いいね。

サク     うん。これからは僕達がいる。僕達が君の支えになる。

ミヤコ    …ミサトちゃん。ミサトちゃん。

ミサト    ミヤコ…サク…トウヤ…。皆、みんな…おはよう。

サク     おはよう。

トウヤ    おはよ。

ミヤコ    ミサトちゃん。おはよう!



おわり。








お品書きに戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -