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野球部とバド部の休みが被った日、特に急いで帰る理由もなく教室で川野と喋っていた時-…さっきまで元気だったのが急に静かになり、俺の視線にも気付かず熱心に外を見ている。
「…そんなに気になる?」
「え?…なっ!べべべべつにこれっぽっちも見てないから!!近くの陸上部見てただけよ!?誰があんな奴!!」
「誰がなんて言ってねぇし落ち着け。…とりあえず座れば?」
大声で急に立ち上がった川野に内心ビビリつつ冷静さを必死で装う。紅葉は昂太の指摘にうっ…と詰まった後、先ほどの勢いを失い大人しく席に着いた。
そして座ると同時に頭を抱えたので、昂太が訝しげに見ている事にも気がつかない。
(あぁ〜…大堂気付いてないわよね!?だいたい何であいつなんか気にしなきゃいけないのよ…あのサッカー馬鹿を…!!)
俯いたままチラリと窓の外を見れば、ボールを夢中で追いかけている男子生徒の姿。サッカー部だから運動神経はもちろん良いし、あの笑い方さえ気にしなければ顔はそこそこ格好良い…と思う。
噂では意外とモテるらしいけど、私は普段の性格もあってか素直になれそうもなく、話しかけるだけで精一杯だ。
「……」
しばらく押し黙りポツリと呟く姿は普段、ある意味男らしいと言われる彼女からは想像出来ない。その声は近くに居た昂太にも聞こえて紅葉を見たが、多分無意識だろう…と考えて特に何も言わなかった。
そのままどれくらいの時間が流れただろうか。
「あれ、お前ら部活は?」
その声に顔を上げれば、紅葉の悩みの種である広之がユニフォーム姿で立っていた。
「俺らは今日は休み。…そういうお前こそ部活中なんじゃねぇの?」
昂太が指を向ける窓の外からは、賑やかな人の声に交じってボールを蹴る音が聞こえてくる。
「あー…宿題忘れたのに気付いて抜けて来たんだ」
そう言って爽やかに笑うと席に着き、教科書をどかしながら机の中をゴソゴソ探し始める広之。2人も特に話す事なく、なんとなくその様子を黙って見守っていた。
「…あった!……?どうした二人とも黙って。川野も何か暗くね?」
ボーッと見ていたら広之と目が合い、急に話しを振られた紅葉は動揺を隠す様に頬杖をついてそっぽを向く。
「べっ別にいつも通りよ。あんたの気のせい!」
「…そうか?なら良いけど…」
広之はそっぽを向いた紅葉の後ろ姿を不思議そうに見ている。
(アタシの馬鹿…。なんで喧嘩腰…じゃなくてもっと素直に…!)
(…鈍感に不器用か……)
そんな二人の友人に昂太は小さくため息を落とした。
暗くなる前に帰ろうと俺らが校門へ向かっていると、広之が誰も居ない運動場で走っているのを見つけた。近くに居たサッカー部の顧問に聞けば、無断で部活を抜けたのが原因らしい。
って言うか…
「黙って抜けて来たのかよ」
「自業自得じゃない」
「聞こえてんぞ昂太、川野!」
遠くで広之が叫んでいたが距離が離れてた上に、走りながらでは何を言っているのか二人には届かない。
「しょうがねぇ…俺らにも少しは責任あるし待っててやるか」
忘れ物を取りに来た広之と俺らは席が近い。普段からよく話すのでいつもの様に3人で話し込んでしまい、気付いたのは部活終了の間際だったのだ。
昂太は近くの段差に腰を下ろし、紅葉を振り返って見上げる。
「川野も一緒に帰るだろ?」
「……しょうがないから待っててやる。仕方なくだからな!」
語気を強め、憮然とした表情を浮かべながら腕を組むが、その頬が紅潮していた紅葉を見て、笑いを噛み殺すので必死な昂太だった。
end
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