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始まりの音と終わりの音(1/2)


壁も床も一面真っ白な部屋の中、一際目立つ様に置いてある漆黒のグランドピアノ。グランドピアノの前に立っている一人の少女は静かに鍵盤を指先で弾いた。だが鍵盤からは音はしない。ただ、鍵盤を押す鈍い音しか聞こえない。

「ピアノは音が出なきゃただのガラクタ。音が出ればピアノになる」

少女は鍵盤を指先で触っていた。まるで肌を触るかの様にしなやかに。
すると一人の少年が少女の隣で鍵盤を弾いた。少年が押したのは高いソ。音は静かな部屋の中で響いた。少女は少年の方を向き、悲しそうな表情を浮かべていた。

「私が弾いてもやっぱり何も聞こえない。だけど貴方が弾くとまるで命を授かった様に聞こえる。同じ体から、同じ様に育ったのに何故?」

「‥‥それは僕にだって分からない。一つ言えるのは君は僕であり僕は君である。例え僕が音を出しても他人からは聞こえない。君が聞こえなくても他人からは聞こえる」

少年は冷めた表情で少女に言い、鍵盤を弾いた。彼は両手を使い奏でた。彼が奏でている曲はピアノ協奏曲第5番「皇帝」
彼はまるで鍵盤の上で踊るかの様に優しく指先で弾いてる。だが曲の雰囲気はとても重く暗い。本来の「皇帝」とは違った感じだと少女は思った。

「僕は奏でるのは好き。命が吹き込まれてると君は言ったが、僕には感じない。逆に僕には命を殺してるにしか聞こえない。そう、全てを真っ黒にしてる様にしか」

「‥‥そんな事はないと思う。貴方は美しい音と共に命を‥‥‥」

「そんなのは嘘だ。君には到底分からない。いや、誰も分からない。君は僕とは違うんだ!!!」

鍵盤を思いっきり押し、様々の音が部屋に響き渡った。次第、真っ白だった壁や床が真っ黒に染まり始めた。少年を起点にして、真っ黒に染められていく。
「‥‥‥!これは一体‥‥闇」

少女は驚きのあまり、体全体に震えが走った。少年は冷めた表情から一転、口角を上げ不敵に笑みを浮かべていた。そして真っ黒物体は少年の体を包むかの様に入っている。

「‥‥!奏多!!ダメ!!それに飲み込まれたら!!奏多ぁぁぁぁ!!」

「‥‥ふふ。僕が一番強くなればいいんだ。僕が全ての皇帝になればいいだけ。そうすれば他人からは何も言われない‥‥‥アハハ。アハハ!!」

「奏多戻って!奏多は私は違うでも、それが普通じゃないの?」

「何を言ってるの??新月。新月はバカだね。同じ人間はたくさんいる。確かに違うかもしれない。でも僕には同じにしか感じない」

人をゴミを見るかの様な目つきで少年奏多は少女新月を見て、狂った様に大笑いしてる。闇は奏多を包み終わったのか、背後から闇が霧の様に出ていた。奏多は、新月の顎をクイッと上げ、顔を近づけた。

「僕は今から終わりの音を奏でる。終わりの音を奏でこの世界を僕の音で溢れさせる。邪魔するならするが良いよ。まぁ邪魔したらそれなりの事をやるけどね。この場所は僕の物だ。目の前から消えてくれ」

奏多の目は漆黒の様に染まり、光も無く全てが闇に飲み込まれていた。

「奏多‥‥なら私は始まりの音を奏でる。終わりがあれば始まりもある。その逆だってある。貴方を貴方を闇の呪縛から解放させる。絶対に絶対に貴方を止める!!」

奏多の手をたたき、ゆっくりと立ち上がった新月。その表情はどこか悲しくも決意をした表情であった。新月は、真っ黒に染まった部屋を出て行った。そして、新月が出て行った後奏多はピアノを壊した。

「僕は光を消し、闇を奏で終わらせる」

「私は光を集め、光を奏で始めさせる」

二人の想い。二つの音。それは全ての事件の始まりの楽章に過ぎなかった。




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