それが夢だと気付くのに時間が掛かってしまったのは、きっと余りにも日常的すぎたからだ。 「翔が何でレミちゃんと付き合えてるのかが不思議でならない」 「何でだよ……俺だって、い、一応生徒会長だってやってるし……」 「だってあの翔だよ? 昔よく私の後ろに隠れて事あるごとに泣いてたあの翔だよ?」 「頼むからもうやめてくれ!」 名前が仙石くんを一方的に言い負かしている光景はよく見るものだった。 あ、今仙石くんに物凄く失礼なことを考えてしまった気が。ごめんなさい仙石くん! って違う違う。本題はそこじゃなくって。 僕の夢なのに、名前が僕以外の人と仲睦まじくしていることが、問題だった。 「名前……」 「あっ、明音! 聞いてよ翔ってば……」 夢とはいえこれ以上名前の口から他の人の名前なんて聞きたくない。 そう思った瞬間、文字通り目の前は真っ暗になって、しばらくしてから目が覚めた。 いつもなら寝起きは機嫌が悪くなるのだが、今日は違う。 目の前には気持ち良さそうに寝ている名前の顔がある。 藍色の髪がさらりと彼女の顔に落ちてきて擽ったそうにしたので手を伸ばして除けてやる。 「んん……?」 「あ、ごめん。起こしちゃった?」 「ううん、大丈夫……」 眠気眼の名前の双眼が僕を捉え、優しく微笑む。 「明音、おはよう」 「……」 「あ、明音? どうしたの?」 無言のまま名前を抱きしめれば少し困ったように、でもちゃんと僕を抱き返してくれる。 言いたくない。夢の中の仙石くんに嫉妬しただなんて、言ったら多分呆れられるって分っているから尚更。 「……何でもない」 「ウソ。何でもないって顔じゃない」 やはり、恋人以上に幼馴染みでもある名前にはこんな嘘すぐにバレてしまった。 だからといって正直に言うのは恥ずかしさがあるので無言を貫いて抱きしめる力を強める。 「わわっ。ほんとにどうしたの?」 「言いたくない……」 「……もー、仕方ないなぁ」 結局名前の方が折れてくれて、それ以上は聞かずぽんぽんと僕の頭を撫でてくれる。 そんな母性の溢れるところも、僕の気持ちを察して包み込んでくれる愛情も、全てが好きだ。 それに比べて僕は、夢の中の仙石くんに嫉妬して、現実で名前を困らせている。 なんて小さい男なんだ。 「……ごめん。夢の中の仙石くんに嫉妬した」 ぼつりと、呟くように言い訳をする。 きっと名前は僕の小ささに呆れるだろう。自分の従兄弟、しかも夢の中の相手に嫉妬するなんてと。 思わず目を逸らして、視線を彷徨わせていると名前の肩が小さく震え始めた。 「……笑わないでよ」 「だって……ふふっ……明音可愛いんだもんっ」 その言葉にムッときて、僕は未だに震えの止まらない名前の肩を掴む。 突然のことに目を丸くさせる名前。僕はそのまま触れるだけのキスをする。 「名前の方が可愛いよ」 目を丸くさせたまま口元に手を当て一気に顔を赤くする名前はとても愛らしい。 「……ずるい」 「ははっ」 「もう、私には明音しかいないよ。好き」 「僕も好きだよ」 二人で笑い合って、ぎゅーっと抱きしめ合う。 この幸せを噛み締めたままもう一眠りしたい気分だ。 今ならとても良い夢が見れる気がする。 |