年頃の女の子や恋人が出来た女の子は来るべきその日に備えて下着の柄を上下で揃える、人はそれを勝負下着と呼ぶ なぜそんなことを説明しているのかといいますと、私はその勝負下着を購入すべく女性用下着の専門店に行くことになったのです お昼休みに友達のルミちゃんとその手の話になってしまい、私が勝負下着を一枚も持っていないことを言うと「ありえない!」と怒られました どの辺がありえないのかというと年頃の女の子で、しかも恋人がいるのに勝負下着の一枚も持っていないところだそうです 私にはまだ早い気がするんだけどルミちゃん曰く「遅いくらいよ!」だそうで、今は手を引っ張られてお店まで歩いています 最近の中学生はそんなにませているのかと感心するのも束の間、お店に着いてしまった ピンクを基調とした可愛らしい外見とは裏腹に紫で書かれたランジェリーショップという文字が私の羞恥心を煽る 「いらっしゃいませー」 「さあ選ぶよ!」 「あうっ、待ってよー!」 私はこういうのは慣れていないし恥ずかしいから早く出たいんだけど、ルミちゃんはずいぶんと手馴れた様子で上下セットの下着を選別している うう、他のお客さんも何の違和感無く買い物をしているので私だけが可笑しいような感覚になってしまう 大体何の魅力もない私が勝負下着を付けたところで吹雪くんとそういう雰囲気になるわけがないよ さらにルミちゃんの選ぶ下着はどれも派手で私には到底似合わないだろう、笑われるのがオチだ 「ルミちゃん、やっぱりまだ私には早いんじゃないかなぁ」 「何言ってんの! 男の子はみんな狼なんだからね! 特に吹雪くんなんて何人の女を食ってるかわからないよ!」 そう言われてみると吹雪くんはそういった経験が多そう、女の子の扱いとかが上手だから余計に 街を歩くだけで年上のお姉さんに逆ナンパされちゃうくらい、文容姿も良いし武両道で男女隔てなく優しい だから吹雪くんは尋常じゃないくらいモテる、私と付き合っているのが嘘なくらい本当に吹雪くんは素敵な人 でもまだ中学生だし、でもルミちゃんの言うとおり最近の中学生って早いのかな、私にはわからないや 結局勝負下着はルミちゃんに言われるがまま、でも一応自分が普段つけるものだからルミちゃんの選んだ中で派手ではない、シンプルで可愛らしい物を買った 「名前ちゃん今日調子悪い?」 次の日のお昼休み、ルミちゃんが委員会でいないから吹雪くんと二人きりでお弁当を食べることになった 別に二人きりでお昼を取るのは初めてじゃないのに妙に緊張していて、それが吹雪くんに伝わってしまったらしい 「えっ? 別に、大丈夫、だよ?」 心配そうに私を見る吹雪くんに対して私は笑って返した、でもきっとぎこちない笑みだったと思う だって全然大丈夫じゃないから、昨日買った勝負下着を着けてきたから無駄に緊張してるだけなので言いづらいし 別にやましい気持ちがあるわけじゃないんだけど、いざ二人きりになると昨日のルミちゃんの言葉を思い出してしまって、さらに緊張してしまう 「嘘だ、全然大丈夫そうじゃない」 「う、」 「僕には言えないこと?」 「えっと……」 吹雪くんの表情が見る見るうちに泣きそうになっていく、私のちっぽけな悩みで大切な人を悲しませているなんて、罪悪感でいっぱいです 「そうだよね、男の癖になよなよしてるから名前ちゃんが頼りたがらないのも無理ないね……」 「ちっ、違うよ吹雪くん!」 「じゃあ教えてくれるよね?」 どうやら私は罠に嵌められたようです、このやろう! 観念して昨日あったことを白状すると吹雪くんは顔を赤くして目を泳がせ始めた、あれれ? 「それで今日着けようか悩んで、それで……」 「ストップストーップ! もういいよ! わかったから!」 「吹雪くんどうしたの?……もしかしてルミちゃんが吹雪くんのこと経験豊富だって言ったの怒ってる?」 私の質問に対して吹雪くんはぶんぶんと首を横に振っているので、ルミちゃんは関係ないらしい じゃあ何だろうと、首をかしげていると呼吸を整えた吹雪くんが、相変わらず赤い顔をしながら何かを呟いた 吹雪くんの低い声のそれは私の耳には上手く届かなくて再び首をかしげると今度は私にもちゃんと聞き取れる声量で応えてくれた 「僕は、名前ちゃんが初めて出来た彼女だから、そういった経験は、ま、まったく無いよ……!」 私の知っている吹雪くんは私の手を握るのもごく自然にするし、恥ずかしいこともさらっと言えちゃう人だから、その言葉は意外だった 「本当は手を握るのだって緊張するし、それを知られたら幻滅されちゃうかもって、必死に隠して、名前ちゃんの前では出来る男でいたかったんだ」 「? でも学校の女子とかは平気だよね?」 「名前ちゃんじゃないから平気なんだよ、名前ちゃんは本当に好きだから、き、キスとか、そういったことを考えるだけで心臓がぎゅってなって、身体が熱くなっちゃうんだ」 情けない話だけどね、と自分の胸に手を当てて溜め息を吐いた吹雪くんに私は自然と笑みがこぼれた どうやら考えすぎていたのは私だけじゃなかったみたい、私も吹雪くんのことを考えると心臓がうるさいくらいに高鳴るからお互いさまだね それに吹雪くんがちゃんと私をそんなに好きでいてくれてたなんて驚きで、私も吹雪くんを好きになって良かったと、心のそこから思える 「私を好きになってくれてありがとう、士郎くん」 「っ! い、いきなり名前呼びなんて卑怯だ」 あ、私が今その勝負下着をつけてるって言ったら吹雪くんどうなっちゃうんだろう こんなにピュアなモテ男 |