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 私はヒロトがくるずっと前からお日さま園にいた、それこそ産まれてすぐに園の前に置手紙と共に捨てられていたそうだ
 置手紙には名前と、よろしくお願いしますとだけ書かれていたみたいで、それからお父さんと瞳子お姉ちゃんたち、園の他の子供たちと共に育ってきた

 しばらくして吉良ヒロトさんのことを知った、瞳子お姉ちゃんの部屋に写真があったのをたまたま見てしまったのだ
 お父さんの大事な息子さんで瞳子お姉ちゃんの大事なお兄さん、留学した先で殺されてしまったのだと聞いた時はそれなりにショックも受けた
 けれどヒロトお兄さんが殺されなければお日さま園も設立されていなかったのだと考えたらきっと私はここにはいないだろう、不謹慎ではあるが私はヒロトお兄さんに感謝いなければいけない
 その事実を知った数日後にヒロトは園に来た、ヒロトは園に来ても一人ぼっちだったのを覚えている、晴矢がサッカーに誘っても黙ったまま首を振り部屋の隅で膝を抱えていた
 ヒロトはただただ独りだった、私はヒロトが気になって仕方がなかった、ヒロトお兄さんと同じ名前で容姿も似ているというのもあったけど、単純に寂しそうだったから
 私は気づいたときからここにいたので親の顔も知らなければ知りたいとも思わなかったので寂しいと思ったことがなく、ヒロトが寂しそうにしている姿が見ていられなかったのだと思う
 本のある部屋の隅っこで独り寂しさを紛らわせるように絵本を読むヒロトに歩み寄った、そのとき初めてヒロトに話しかけた

「その本あんまり面白くないよ」

 代わりに私のお気に入りの絵本を差し出せばおずおずと受け取り私に背を向けた、他の子も来たばかりのときはヒロトと同じような感じだったのいつもしてるように隣に座った
 こうやってダイレクトにかつ徐々に心の距離を詰めてくのが私なりのやり方だった
 ただ何もせずヒロトの横に座っているだけの日々が続いた、最初こそヒロトは私に背を向けたりどこかの部屋に逃げたりしていが、観念したのか懐いてくれたのかいつしか私の後ろを歩くようになっていた
 一ヶ月も経てばヒロトとの心の距離は無くなっていた、私に心を許してくれたことにより他の子たちとも遊ぶようになった


 私が小学校に上がるくらいになったときだった、私を引き取りたいと言う物好きな夫婦がいた、その夫婦は不妊症で子供が出来ないそうで私を養女にしたいそうだ
 もう園に来てだいぶ経つ、子供たちも多いしこういう話があったときは快く貰われようと決めていた私は二つ返事で了承した
 私に懐いてくれていた子達は泣いて行かないでと縋り付いてきたが前々から決めていたことだし仕方ない、幸い私の新しい家とここはそう遠くはないそうで、たまに遊びに来るからねと言って別れた

 一番泣いてくれたのは風介で私が園を去る日までずっとくっ付いて離れようとしなかった、次に泣いてくれたのは茂人と愛だったなぁ
 園を去る日が決まってからは毎日入れ分かるようにして一緒に寝たのを覚えている、風介は意地でも毎日一緒に寝ていた
 ヒロトには私が園を去る直前まで私を避けられていて、また園にきたときのようだと感じて少し寂しかった、このとき初めて寂しいと思ったかもしれない



「あれ、瞳子お姉ちゃん、ヒロトは……?」
「……布団に包まって泣いてたわ」

 そして私が園を去る日にヒロトはいなかった、みんなが手作りしてくれた折り紙や絵や手紙を受け取って、泣きそうになったのをぐっとこらえた、ここで泣いたらダメだと
 永遠に会えなくなる訳じゃないけど最後に全員の顔を見ておきたかったなと思いつつ園に背を向けた瞬間だった

「名前ちゃん!」
「!」

 振り返れば真っ赤な目をしたヒロトが走ってきて、私の前で立ち止まるとぐいっと何かを差し出した

「名前ちゃん大好きだから、大きくなったらむかえに行くから、けっこんしてください」

 それは晴矢の髪のように真っ赤な折り紙で折られたチューリップだった、一生懸命折られたそれはあまりにもいびつで、でも今まで見てきたどの花よりも綺麗だった


 という懐かしい夢を今朝見た、あれから私はすっかり大人になっていて現在は教育大学に通っている、今は二期生で来年には義弟の妹である春奈が入学するので今から楽しみだ

 ヒロトは正式にお父さんの養子になって、国立大学に通いながらお父さんの会社のことを勉強している、卒業したら社長の椅子を用意されているんだとか
 治はサッカーの道を突き進んでいるし、リュウジも晴矢も風介もみんな頑張って社会人になろうとしている
 私たちは大人になったんだ、けれどあの時みんなに貰った手紙や折り紙は今も大事に持っていて、特にヒロトから貰ったチューリップは財布に入れてお守りみたいになっている
 そうやって考えると私だけ成長していないような気がしてきたけど、私も教師になるという夢に向かって頑張っている
 大学入学以来ヒロトとはあまり連絡を取っていなくて園に遊びに行っても顔を会わせていない気がする

 今日みたいに講義も予定も入ってない日はお日さま園に行って子供たちの相手をしてあげていた、お父さんのいない園は少し寂しいけど子供たちは賑やかだった

「名前、今日はヒロトいるわよ」

 瞳子お姉ちゃんに言われて適当に相槌を打った、まあヒロトの通う大学は園から近いので子供たちの世話をしながら通っているのだろう
 水分補給のついでに勉強をしているであろうヒロトに何か差し入れてやるかとここに来るときに買ってきたお菓子と飲み物を持ってヒロトの部屋に向かった
 邪魔になってはいけないと扉をそっと開ければこちらに背を向けて座っているヒロトがいて、やはり勉強をしているようだった
 気づかれないようにそうっと近づいて、床にお盆を置いてからヒロトの持っている参考書を奪い取る

「その本あんまり面白くないよ」
「っ!」

 久々に見た顔は最後に会ったときより大人になっていて、あのときの言葉なんて忘れてしまったんだろうなと感じた
 眼鏡越しにヒロトの瞳が私を見つめるので首をかしげれば、口元に笑みを浮かべて目を瞑る

「何だ、名前か」
「そうよ、勉強するのはいいけど程ほどにね」

 そう言って持ってきたお盆を邪魔にならない場所に置き踵を返したときだった、ヒロトに腕を掴まれバランスを崩す
 ヒロトに抱き止められて転ぶことはなかったが何が何だか分からなかった、ヒロトは一体何がしたいのだろう

「本当は社会人になるまで言わないって決めてたのに、もう我慢できないや」
「……?」

 ヒロトの言動に再び首をかしげていると、ヒロトが引き出しから何かを取り出して私に差し出した

「名前ちゃん大好きだから、あと少し大きくなったら迎えに行くから、結婚して下さい」

 私の手に乗せられたそれは今の私の顔くらい真っ赤な折り紙で折られたチューリップで、綺麗に折られているそれはあの時の花と同じだった


君を想って折り続けた花


(基山ヒロト/「大好き」)

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