転校先の雷門中サッカー部が勢いに乗ってホーリーロードを連勝しているもんだから今日の練習も気合が入っていた 全身ぼろぼろの汗だくな状態で学校から少し遠い園まで帰ってきた俺を迎えてくれたのは瞳子さんだった 瞳子さんは玄関に倒れこんだ俺を見て笑いながらお疲れ様と言って洗濯物を奪っていった 今日の当番は名前じゃなかったけと思ったが名前が通っている学校はテストが近いので瞳子さんが代わりにやっているらしい その話を聞いて反射的に名前の顔が見たいと思ってしまった、どんだけ名前が好きなんだよ俺は 「名前なら部屋よ」 俺の考えを読むように瞳子さんが言う、不意を突かれたようで顔がちょっと熱くなった 別に、とごまかそうとしたがやっぱり大人には敵わない、再び笑われるだけだった 「部屋に荷物置いたら先にお風呂入っちゃいなさい」 「はーい」 「あと名前の勉強の邪魔にならないようにね」 別に名前のところに行くなんて言ってないのに、そんなに俺が名前の部屋に行きたそうにしていたのだろうか だったら心外だと思ったが実際名前の部屋に行くつもりなので何も言わずに足を動かした 名前の部屋に前に着いて、驚かせようとこっそり覗けば名前は机に向かって何かをしていた まあテスト勉強をしているんだと思い、そうっと近づいていけば教科書や上からお下がりの参考書を閉じて何かをしていた それじゃあ何をしているのかと言えば、小さな折り紙を折っているようで、俺が顔を覗かせたことにより作業は中断した 「何してんの?」 「! びっくりしたー、マサキ帰ってたんだ、ノックくらいしてよね」 「なーにしてんの、鶴折ってんの?」 「うんそうだよ、だから出てってよー」 汗臭いよと言われ自分の臭いを嗅いだら汗臭かった、自分ではよく分からないものだが近いうちに学ランも洗濯したほうが良いな 指摘されたことがちょっと悔しくてテスト勉強しなくていいのかよ、と悪態をつけばこれが終わったら再開するの、と鼻を摘まれた 「いてててっ」 「わかったらお風呂でも入りなよ」 「うー」 解放された鼻を撫でていると参考書の下から何やらカラフルなものが見えた、名前に阻止される前にそれを拾い上げれば女の子が読むような雑誌だった 開かれたページは丁度「恋が叶うおまじない特集」とかかれており小さな鶴の写真が載っている 「もー、マサキ返してよ」 「……へー、両想いになれるおまじないなんてやってるんだ」 「だったら何よ」 好きな人の名前を書いた小さなピンクの折り紙で鶴を折ってそれを筆箱に入れていると意中の相手と両想いになれるみたいだ 「あ、相手は誰だよ、同じ学校の人とか?」 「う、そ、そうよ! もー、勉強するから出てってよー」 俺の馬鹿、動揺しているからって何でそんなこと聞いたんだ、聞かなくてもいい話を聞いて俺の失恋が確定した 俺の想いも知らないで小さいピンクの鶴を筆箱に大事そうに仕舞う名前はまるで小悪魔だ、憎らしくも愛おしい きっと名前なら損なのに頼らなくても上手くいくと思うよ、俺の贔屓目無しに名前は魅力的だから 涙が出そうになるのをこらえながら精一杯の強がりを言ってみた、さっさと風呂場行って泣きたい 「馬鹿だよね、ほんと」 その鶴に描かれているのが俺の名前だったらどんなに良かったことか、俺の想いは行き場を失った 本当の馬鹿は俺だ |