世間では宇宙人がサッカーで地球を支配しようとしているらしい、でも僕には関係なかった、強いとか強くないとか関係なくみんなと楽しくサッカーが出来るならそれでよかった アツヤと士郎と、白恋のみんなとただ楽しくサッカーをしていたいだけだったのに、僕の願いは叶わなかった 宇宙人と戦っているという雷門中が白恋中に来てエースストライカーであるアツヤをスカウトしに来たと言った、それはつまり北海道を離れて宇宙人を倒すたびに出るということで、アツヤと離れ離れになるということ、そんなの嫌だ 雷門と白恋の試合をやってそれでアツヤの実力を見るらしい、アツヤは強い、それこそそこらへんの中学との試合なら一人で十点をもぎ取れるほどだ、きっとアツヤはスカウトされる、そしてアツヤの性格上そのスカウトに応じることは目に見えている 僕も一応フォワードで必殺技もあるけどアツヤみたいに強くないし、それになによりきっとスカウトさせるなら僕なんかより士郎の方だろう、ディフェンスとしての士郎は完璧といえるほどだから 十分後に試合だよ、という士郎の声に小さく頷いて逃げるようにお手洗いへ走った 「……酷い顔」 鏡に映った僕は今にも泣きそうで情けない姿だった、零れそうな涙を顔を洗うことでごまかして両頬を数回叩いて気合を入れる、大丈夫、僕ならきっとアツヤを笑顔で送れる 全国優勝のチームに引けをとらないようにがんばろう、心を入れ替えてトイレを出たところで声を掛けられた 「おい名前、」 「あ、つや、なんでここに……?」 「お前がどっか行くの見えたから……ってそれよりそのほっぺたどうしたんだよ!」 「ああ、これね、ちょっと気合入れるために叩いた」 「叩いたっておま、一応女子なんだからもっと自分の顔大事にしろよな」 一応という言葉がひっかかったが心配してここまで来てくれたということでよしとしよう、えへへ、と笑って頬を掻けばその手をアツヤに握られる、何事かとアツヤを見ても俯いていてその表情は伺えない しばらく無言が続き意を決したようにアツヤが顔を上げた、いつものアツヤだ、赤い前髪が風に乗ってふわりと揺れた 「……名前好きだ」 「うん知ってる、恋人同士だもん」 「……俺きっとスカウトされたら承諾すると思う」 「……うん、何となく分かってた」 別れ話を切り出されているみたいで息が詰まる、先ほど鏡の前で割り切ったばかりなのにアツヤの口からそんなこと聞かされたら泣いてしまいそうだ じわりと視界がぼやけてきて我慢の限界であることを知った、やばい、今泣いたらアツヤが困る、わかっているのに涙は無情にも零れ落ちてしまった それを見たアツヤの目が大きく開かれる、お願い見ないで 「ごめっ、何か勝手に出てきた……っ!」 「名前……」 「僕アツヤみたいに強くないから一緒にスカウトされることなんてないから、だから試合では全力を出して、それで笑顔でアツヤを見送ろうと思ってたのに、っ!」 言い訳のように言葉が次から次へと出てくる、実際良い訳でしかないのだけれど、それでも黙って聞いていたアツヤはいきなりキスをしてきた いつもみたいに優しいものじゃない、ちょっと乱暴な肉食動物のようなキス 息苦しくなって口を開いたらそこにアツヤの舌が入ってきた口内を犯される、舌を絡め取られ吸われを繰り返しているうちに段々いつものキスのように甘くて優しいものに変わっていった、頭がくらくらする 「っはぁ、あっ……」 ゆっくりと唇を離されだらしなく僕の口の端しから零れた唾液を舐められて再び変な声が漏れる、あう ぺろりと自らの口元を舐めるアツヤに胸が高鳴った 「大丈夫だ、名前は強いんだから自信持てよ! 一緒に宇宙人倒しに行くぞ!」 「……うん!」 その後の試合でアツヤと士郎だけではなく僕までスカウトされてしまったのはまた別のはなし。 君とならばどこへでも |