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「新婚さんみたいだね」

 僕が言ってしまったこの言葉はナマエをどれだけ苦しめるのか分かっているはずなのについ口からこぼれてしまった
 でも一度吐き出した言葉はもう戻すことは出来ない、ナマエを見れば綺麗な緑の目は焦点が合ってなくて僕越しに別の誰かを見ているようだった

「ごめん、ナマエ……僕、無神経なこと言った」
「っ、いいの、気にしないで、私がいけないだけだから」

 ナマエの事情は知っている、僕と同じようにナマエにも事情がある、僕たちはお互いにお互いの事情を共有して生きている
 だから僕の言った言葉はナマエの精神状態を揺るがすものに成り得るというのに、僕はその場の雰囲気に酔いしれてしまっていてその事に気づけなかった

「これは私の問題であって士郎が気に病むことは何もないの」

 僕が沈んでいるとナマエが僕の元まで来て抱きしめてくれた、ナマエの方が辛いのにどうして優しい言葉をくれるのだろう
 そういった優しさに、不謹慎ながらも惚れ直してしまう僕の薄汚さに嫌気がさした、こんなんじゃアツヤに笑われちゃうね

 しばらく抱き合っていると鍋が吹き零れる音がしてナマエが慌てて火を弱めた、名残惜しくもナマエと密着していた体は離れてしまった
 それからしばらくしてシチューが完成し、僕がみんなを呼びに行くとなにやら室内が騒がしかった

「みんなそんなに騒いでどうしたの?」
「吹雪! 今エイリア学園が……」

 話を聞くとエイリア学園のジェミニストームがこの白恋中に勝負を挑んできたらしい、雷門のみんなでこの白恋中を守らないといけなくなった

「そうだ、ご飯できたから呼びに来たんだった」
「んな呑気なこと言ってる場合かよ!」
「塔子さん、腹が減っては戦はできぬってね、ナマエのクリームシチューは天下一品だよ」
「クリームシチュー!? 私クリームシチュー好きだ!」

 それからみんなで調理室へ行って今後のことについて話し合った
 僕の隣で話を聞いていたナマエは僕の肩に頭を預けて相槌を打っているだけだった

 ジェミニストームが来るまでの間みんなで特訓という簡単な結論に至った
 そしてみんなが寝るというので僕とナマエも家に帰ることにした、二人で手をつないで夜道を歩く
 ナマエは引き取ってくれたおじさんとおばさんの家に、僕も同じく引き取ってくれた親戚の家に帰る
 ずっと一緒にいたい、この手を離したくない、そう思えば思うほど足取りは重くなる

「士郎……?」
「ナマエ、僕はナマエのことを支えていくから、ずっとずっと、ナマエと一緒に生きていくよ」
「……士郎、ありがとう」

 僕の手を掴むナマエの手が震えているが僕は気にしないふりをした、この手を離したくない
 それから分かれ道まで来て、名残惜しいが手を離すしかない僕らはまだ子供だった


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