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 誕生日会という名の夕食を終えたナマエは天草を連れて自室へと戻り、四歳の誕生祝いに先日買ってもらった天蓋付きのダブルベッドに腰を下ろす。パーテーションを挟んで部屋の反対側には天草のための上質なベッドが既に用意されていた。
 天草のために部屋を用意すると申し出たナマエの父に対し、魔力供給の関係と現界したては不安定だからと嘘を交えた尤もらしいことを並べ言い包める様は流石としか言いようがない。英霊とは言えついさっき知り合った男を娘と同じ部屋で寝かせることに彼女の父は不満を隠せずにいたがそれは当然の反応である。

「流石に×回ともなると運命を感じちゃいますよ」

 当然のようにナマエの隣に腰を落ち着ける天草。用意されているベッドを使う気は更々ないらしい。

「ふふ、まさにFate、ね……」

 それはカルデアで常用されていた召喚システムの名だった。ナマエは脱力しきった様子でふかふかのそれに身を沈める。とろんとした目元が眠気に誘われていることを示している。
 無理も無い、元が優秀な魔術師だったとはいえ今は四歳の体で、“個性”の発現から召喚までを短時間で熟し、現行で魔力を消費し続けているのだ。

「寝て良いですよ」

 天草の手が彼女の頭をゆっくり、優しく撫でる。その温かさがナマエをひどく安心させた。




 穏やかな表情に規則正しい呼吸。ナマエが完全に寝に入ったことを確認した彼は小さな肢体を抱き上げきちんとベッドに寝かせてやる。

「それにしても随分と幼いな……」

 前世はアラサーで今は幼女姿のマスターを前に天草が呟いた。
 天草が知る限りではこれで×度目である。しかしカルデア時代に彼女が召喚したサーヴァントの中には彼女を知っているような言動を取っている者もいたので実際には彼が知るよりも多くの人生を過ごしてきたのだろう。
 容姿こそ違えど幾度も記憶を保持したまま生まれ変わるだなんて、叡智溢れる英霊たる彼にも不可解であった。
 それこそ聖杯の力でも借りない限り、とまで考えて、はたと天草の中である仮説が浮上する。
 第三魔法の発動を目的とした一族に、その為ならば喜んで命を差し出すよう躾けられ忠実に体現したのがナマエ・アインツベルンである。彼女は造り物の土人形ホムンクルスとは違う、本来ならば意思を持って然るべき人間だ。

 大聖杯に縁深いアインツベルンの魔術師だったナマエが、その人生の不遇さに、意図せず、無意識のうちにその力を所望した結果が“終わりのない輪廻転生これ”なのではないか。

 この先もずっと、異界の大聖杯の力によって記憶を保持したまま様々な世界で生まれては死ぬのを繰り返し続けるのではないか。
 だとすればその事実を誰にも言えず、一人で抱えて生きていかねばならないのだ。別の世界の自分ではない自分の記憶を持っているだなんて奇々怪々、誰も取り合ってくれやしないのだから。
 天草の仮説が正解ならば、これからもナマエ・アインツベルンは死に続け、そして生まれ続けるのだろう。自分が死んでゆく強烈な記憶をずっと一生、無限に思い出し続けなければならない。

 だとしたら彼女の人生は。

 そこまで考えて天草は首を振る。今はもしものことを考える時間ではない。

「マスター」

 彼女の顔を覗き込んでも、寝ているのだから当然返事はない。

「……ナマエ」

 それでももう一度彼女を呼んでみる。
 初めて口にした彼女の名は、思っていたよりも簡単に、すんなり天草の中に落ちていく。

「せめて俺くらいには本音を言ってくれ」

 どうせ考えるのならば彼女とのこれからを。彼女の呪われた人生の終わらせ方を模索しよう。
 第三魔法の適用を頓挫させてしまった天草に今出来ることと言えばそれくらいしかないのだから。
 ナマエの白く柔らかい小さな手をそっと掬い取った彼は、甲に静かに唇を落とした。












 あれから天草は己を恨んでいた。
 人類の救済も出来ず、すぐ目の前にいた大切な女性すら護れなかった己の無力さを。人理を修復し座に還っても、彼女のことを記録に昇華することなど出来やしなかった。

「……今度は、ちゃんと守ってみせる」

 健やかな寝顔を見詰めながら、天草は胸元で握り締めた十字架に誓うよう独り言つ。

[2.5]後悔したってもう遅い