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 日本には、取り合わせの良い二つのものやよく似合って調和する二つの物の例えで梅に鶯という諺がある。
 これは“梅に鶯”ではなく“梅に目白”というのが正しい言い回しだが、この本丸の鶯は梅との相性が良いようで。

「! 美味い。この梅干しは主が漬けたのか?」
「ああ、私と瑞希で作ったものだよ」
「ヨノモリ印の梅干しは美味しいだけじゃなくご利益もあるよ〜」

 瑞希が茶請けにと用意した梅干しを、鶯丸は口を窄めながらも美味しそうに食べる。

 縁側でお盆を挟んで鶯丸と並んでお盆の後ろに座る瑞希が入れてくれたお茶を飲む。時の政府に提出する書類も全て書き終えた後のちょっとした休憩。
 すると縁側の下から真っ白い手が伸びてきてお盆の家に置かれた梅干しを攫っていく。
 突然のことと、そのホラーチックな登場の仕方に三人とも小さく悲鳴を上げたがすぐに手の正体が顔を見せる。

「はっはっはっは! 驚いたか?」
「鶴丸か……妖怪かと思ったよ」
「流石に今のは心臓に悪い」
「もー、鶴丸君行儀悪いよ」
「大成功だな! そしてこの梅干しは俺が頂いた!」
「鶴丸、行儀が悪いぞ」

 昨夜鶴丸が今剣たちとホラー映画を見ていたようだが、まさかこんな驚かせ方をしてくるなんて思わなんだ。
 瑞希や鶯丸が咎めようとも何のその。悪戯に成功した子供のようににこにこと笑いながらその小さな星を口に入れた。

「!? 〜っ! 驚くほどにすっぱい!」
「はっはっは、この酸っぱさが良いんだ。茶請けに丁度いい」

 瑞希がお茶を入れてやればすぐさまそれを飲み干す鶴丸。それを見て鶯丸とともに小さく笑う。

「鶴丸はここに来たばかりだから知らないだろうけどこれでご飯によく合うんだよ」
「……確かに、ご飯には合いそうだな」

 今日の夕餉に梅干しを出してもらおうかと提案すれば、そりゃあいい歌仙に伝えてくると鶴丸が走っていく。
 廊下を走るな瑞希が咎めようと思っても彼の姿はもう見えなくなっていて、溜息をこぼす。
 鶴丸がここに来てからはいつも以上に騒がしさが増したが、短刀たちの相手も積極的にしてくれるので助かっている。先ほどみたいに心臓に悪い驚かせ方は止めてほしいが。

「すまないがお茶のおかわりをもらえるか?」
「私にもおかわりお願いするよ」
「はいはーい!……いやぁ、鶯丸君ってほんとお茶が似合うね」
「そうか?」
「うんうん。何か名前ちゃんのおじいちゃんみたい」
「主の祖父殿はそんなに茶が好きだったのか?」
「ああ。これが体に良いんだって、頑なに煎れたてのお茶しか飲まなかったよ」
「そのお陰で僕のお茶煎れスキルが上がったんだよね〜」

 まだ祖父が健在だった頃、瑞希が初めて煎れたお茶を不味いと言いながらも全部飲んでいた。
 それから毎日瑞希がお茶を煎れては評価して、合格をもらうまで半年以上かかったのだっけ。今となっては懐かしい思い出だ。

「どうりで美味いわけだ。大包平が来たら早々に飲ませてやりたいな」
「暇な時ならいつでも煎れてあげるよ〜」

 いつもならあまり刀剣たちも関わろうとしない瑞希だが、こういう時ばかりは嬉しそうに笑っている。
 私や清光たちもお茶は飲むが細かい味の違いまでは分からなく、こうしてちゃんと分かってくれる人が来てくれて良かったと思う。

「ここに来てから大包平に自慢したいことが沢山出来た。この梅の花も咲いたらきっと綺麗なんだろうな。大包平に見せてやりたいよ」
「そりゃあいい! 今から楽しみだな」

 いつの間に戻ってきていたのか後ろには鶴丸がいて、先程みたいな登場の仕方ではなく少し安心する。

「ヨノモリ様の梅の木程じゃないだろうけどこっちの梅も綺麗に咲いてくれるよ。ね、名前ちゃん」
「ああ、そうだね」

 梅の花と我がヨノモリ社は深い繋がりがあり、社に本丸を増築する際も何を植樹するか問われ迷わず梅と答えた。他にも桜や紅葉などもあるらしいが、私の本丸は梅の花がメインだ。
 ヨノモリの化身は先代から梅の花と決まっており、私も能力を使う場合は決まって梅の花が舞う。刀剣たちを顕現させる際も梅の花が舞っていた。
 それが当然だった故に他の審神者たちから私以外は桜の花が大半であると聞いた時は驚いたものだ。

「それに梅の花が咲けば俺の鶴っぽさが増すぜ」

 そんな梅の花が満開になるにはあと数十日はかかるだろう。その証拠に鶴丸が梅の木の下へ行くも生憎梅はまだまだ蕾だ。
 それでも、花の話をしたら満開の梅を見たいと思ってしまうのが人の性。

「……うん、明日は花見をしよう」
「花見、かい?」
「肝心の花はまだ蕾だが……?」

 私の提案に首を傾げる鶴丸と鶯丸。
 新参者の鶴丸はともかく、近侍を二周している鶯丸はそろそろ私の能力を理解しても良い頃だ。

「ふふふ。少しばかり狡をしようと思ってね」
「?」

 横目に着物の袖口から白札と筆ペンを取り出せば益々不思議そうに手元を覗いてくる二人。
 白札に“開花”と書いてまだ蕾の梅の木に貼り付け、皆の下に戻る。

「どうしたんだ? 紙なんて貼り付けて……」
「まぁ見てなさい……ほら」

 刹那、時間を早回ししたかのように梅の木々は溢れん生命力をこれでもかと活かし蕾を花へと変えてゆく。
 瞬きすらも惜しい位ほんの一瞬の出来事だった。

「! なんと……!」
「こりゃあ驚いた! 君は魔法を使えるのか!?」
「神通力、と言えば聞いたことくらいはあるかな?」

 神のみに許された神秘の力、それを使い梅蕾を満開にした。この様子ならあと数週間は綺麗な花を咲かせてくれるだろう。

「開花を早めてしまって、木は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。寧ろ神様の通力を貰ってあと数百年は元気なままだよぉ」

 のしりと体が重くなるがさほど気にならない。瑞希が後ろから抱き付いてくるのはよくあることなのでもう慣れた。

「まーた派手に咲かせたねぇ」
「酒の肴は派手な方がいいだろう?」
「それもそっかぁ! ちょうど良い頃合いのお酒が出来上がってるんだぁ」

 長期遠征に出た彼らが帰ってくるのが明日の昼頃たから、明日の午後は花見で決まりだ。

「ほら見ろ俺の言ったとおりだ! 梅の花でより鶴らしいだろう?」

 梅の木の下で高らかに笑う鶴丸は本人の宣言通り、その鮮やかなコントラストが鶴を彷彿とさせる。

「ああ、そうだね。とても綺麗だ」
「!……君のそれは意図的なのか?」
「? 意図的とは……?」

 梅の花みたいに顔を赤くする鶴丸に私はただ首を傾げる。意図的とは何に対しての言葉だろうか。

「無自覚か……」
「そういうところが心配なんだよ……」
「瑞希も苦労しているな」
「?」

 わざとらしく溜め息を吐いた瑞希。一体何だと言うんだ。


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