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 我が本丸は朝食を済ませた三十分後に各部隊を各時代へと送り出すのが通例となっている。
 審神者として授かった力は門の向こう側を目的の時代の任意の場所と繋ぐことが出来る。まるで、昔に読んだ漫画の青い猫型ロボット使う秘密の道具のようだ。
 ただし猫型ロボットの道具とは違いこの門を通ることが出来るのは刀剣男士と審神者のみなのだが、それを考慮してもとても便利だ。
 我々神籍も似たような事は可能だが、あくまで人の及ばぬ神の業。それを科学の力で成し得たのだから未来の科学は相当に進んでいると言えよう。

「それじゃあよろしく頼むよ」
「任せといて。ちゃちゃっと行ってくるね」
「カッカッカッカ! 拙僧に任せられい!」
「ああ、頼もしい限りだよ」
「もう戻って来なくてもいいよ〜」
「瑞希」
「冗談だってぇ〜」

 茶々を入れる瑞希を窘め、改めて送り出す両部隊の隊長を見据える。

「まったく……とにかく気を付けて行ってくるんだよ」

 本日は加州率いる第一部隊を戦場へ、山伏率いる第二部隊を遠征へそれぞれ見送る。今日はどちらも以前に行ったことのある場所だから夕餉の時刻には帰ってくるだろう。
 彼らの姿が門の向こうへと消えたのを確認すれば、瑞希と今日の近侍である骨喰が門を閉じる。

 こうして刀剣たちを送り出した後は大抵祭神か審神者としての責務を全うするのだが、今日は前者である。
 庭で遊ぶ短刀たちを横目に執務室に入り、執務机と向き合う。骨喰は隣に腰を落ち着けると正座のまま私の手元をじっと見つめる。
 視線を感じて少しやり辛いが様々なものに興味を持つということは骨喰にとっては失った記憶を補う意味で非常に良い。
 寒くなったら膝掛けを使うよう骨喰に言い、瑞希から預かった参拝者名簿を広げる。
 百度参りではないが夕方や夜間の参拝も最近では珍しくないので翌朝のこの時間に夜間の分の確認をしているのだ。
 仕事が辛い、孫の受験が上手くいったなど、最近は願いに留まらず悩みや報告といったものもある。どんな内容であれ氏子がいるということは良いことで。
 仕事が辛いと言っていた彼にはせめてもの安眠と疲労の回復を、と言った具合に私が祭神として氏子たちへ出来うることを考えるこの時間はとても愛おしい。
 祭神の仕事が出来るということは私が必要とされている証拠であり私という存在の証明にも繋がる。


「……じ、」
「ん……?」
「主、昼餉の時間だよ」
「ああ、もうそんな時間か……」

 一体何時間そうしていたのか、歌仙に呼ばれるまで今が昼時であることに気付かなかった。
 呼びに来たのが彼だけということは、瑞希はまだ社で仕事をしているのだろう。後で交代がてら昼餉を届けよう。

「仕事に集中するのは良いが余り根を詰め過ぎてはダメだよ」
「分かってはいるつもりなんだけどね」

 氏子に対して真摯であろうという性質故につい時間を忘れて集中してしまうのだ。
 隣で寝てしまっていた骨喰も歌仙に起こされ、近侍なのに寝てしまったことに対する小言をもらう。

「すまない、近侍なのにの寝てしまった」
「気にしなくていいさ」

 立ち上がる際によいしょと、つい口をついて出てしまった言葉を雅じゃないと注意され、更には、せっかくの昼餉が冷めてしまうと姑のような小言を貰いながら居間へと向かう。
 この歌仙兼定という刀は小言を言いつつもきちんと私の半歩後ろを歩く節度を持っている。
 おまけに武具の拵えや料理が得意ときたものだ。これほど頼もしい即戦力はいないということで、歌仙には専ら家事などを手伝ってもらっているのだ。
 今まで社のことに加えて毎日三食を用意をしていた瑞希の負担も減ったので大いに助かっている。雅なものを愛し立ち居振る舞いに厳しくも心根は優しい歌仙は本丸の母的存在になりつつある。
 余談だが、そんな普段は穏やかな彼であるが、加州曰くたまに戦に出した時は己が名の由来に起因した雄々しさを見せるのだそうだ。つい先日、演練の際に目の当たりして驚いたものだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、ふと小言が消えたので、後ろを見やれば歌仙は足を止めて庭に植えられた梅の木を見つめていた。
 よく見ればその枝には無数の小さな蕾が付いているではないか。ほんのりと色味を添える蕾は春の訪れを感じさせ、さぞ綺麗な花を咲かせるのだろうと期待を持たせてくれる。

「満開になったらきっと美しいんだろう」

 歌仙も同じことを考えていたらしい。ぽつりと彼が漏らした言葉に、骨喰が静かに頷く。
 ヨノモリ社に植えられている梅は私の通力が影響して毎年綺麗に咲いてくれる。その美しさはテレビや雑誌の取材が来たくらいだ。
 きっとこの本丸の梅も綺麗に咲いてくれるだろう。

「……生憎、俺には梅の花の記憶はないんだ。だから、楽しみだ」
「そうだね。梅の実が成ったら干して梅干しを作って……そうだ、梅酒も作ろうか」
「ああ、どちらも風流だ」


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