また三之助がいなくなった、体育委員会の活動中の出来事だったらしい 今日は用具委員会の活動がなかったし左門も委員会でいないので、部屋で宿題をしていたら一年は組の皆本金吾が俺の部屋に入ってきた 急いでいるらしく息が荒い、ひやりと俺の額に汗が流れるのがわかった、これを嫌な予感ってい呼ぶんだよな 「と、富松せんぱい、たい、へんなんです!」 「ど、どうした……?」 「次屋先輩がいなくなりました!」 やっぱり、嫌な予感ほど当たるというやつで、冷や汗はいつの間にか溜め息に変わっていた 金吾の話を聞けば、委員会で裏々々山までマラソンをしている途中、三之助を繋ぐ縄が軽くなったので見てみると綺麗にいなくなっていたとのこと 三之助の後ろにいた後輩たちが余所見をしていた時の出来事だったらしい、現在は体育委員のみんなで目下捜索中 それでも見つからないので金吾が俺に言いに来た、というわけで……、わざわざ縄から抜けてどこに行ったんだよあいつは ほんとに困った奴だ、これで左門まで迷子になったらしゃれにならん、と思いつつも今日の会計委員会は徹夜で帳簿整理と言っていたので左門の方は心配ないだろう 「ったく、」 「せ、先輩……!」 俺が重い腰を上げてやれば金吾が嬉しそうに俺を見つめた ったく、俺はあいつの保護者でもなければ迷子発見器でもねぇっての、それでも探しに行ってしまう俺はそうとうな世話焼きなんだとしみじみ思う 「金吾、あいつがいなくなった場所はどのあたりだ?」 「えっと、裏々山の中腹あたりです」 「……わかった、連れて行ってくれ」 「はいっ!」 そう言って金吾に連れられた俺は裏々山まで急いだ いつも迷子探しをして体力はそれなりにあるので、裏々山までの道のりはそれほど苦ではなかった 三之助のいなくなったという場所に行くと七松先輩を始めとした体育委員の人たちが息を切らしていた 「七松先輩方お待たせしました、三之助は……?」 「いや、見つからない、目的地の裏々々山までの道のりとその周辺は探したんだが……」 「……わかりました、先輩方は引き続き裏々々山と裏々山を探してください」 俺は裏山を探します、それだけ言うと再び捜索が開始された、目的地の裏々々山にいないということはどこかでユーターンして裏山か裏々山あたりをさまよっているに違いない 迷子探しの勘って奴が働いた、相手は落とし物とは違い常に動いているから最悪の場合は見つけるのに何日も掛かるかもしれない もしかすると疲れ果てた三之助は野生動物に喰われているかも、なんて考えただけで恐ろしい 俺は声を張り上げてあいつの名前を呼んだ 「三之助ぇ! いたら返事しろー!」 いくら叫んでも返事はない、七松先輩らの声は聞こえてきた、みんな必死に三之助を探しているんだ いつの間にか竹林に入っていたようで多少見通しが良くなっている、それでも三之助は見つからない そんな時迷子探しの勘ってやつが働いたのか自然と足が竹林の左奥へと向かっていく 「三之助えええ! 聞こえたら返事しろおおお!」 普段は通らない裏々山の奥深いところまで来てしまった、竹林だったはずの山肌も木が高々と生い茂っている 俺は三之助の名前を呼びつつ奥に進む、辺りを見回してもそれらしい人影はない しょうがない、ほかの場所を探そうか、そう思って引き返そうとしたらどこからか俺を呼ぶ声がした 「さくべーなのか?」 振り返ったらそこには三之助の姿があった 所々ボロボロになっている、髪なんかもぐちゃぐちゃでどんな所をさまよっていたのか容易に想像がついた 当の本人は俺の頬や手を触って本物の作兵衛だー、驚いている、俺の偽者がいてたまるか! 見つかったことによる安心感と無事だったことによる安堵感からか、俺の目から涙が零れ落ちるのがわかった 「ちょ、作兵衛なんで泣くの」 「馬鹿だろ、お前やっぱり馬鹿だろ……」 若干枯れてしまった声が出てくる、それだけ叫んだという証拠だ ったく、この馬鹿者はどこをどうしたらこんなところにいるのやら、まあ無自覚迷子のこいつに聞いても答えなんて帰ってこないのは分かっているから聞かないけれど とりあえずわざわざ縄を切ってまでいなくなった理由を聞こう、理由次第では殴る 「お前、なんで縄切ったりしたんだよ」 うーんと唸った三之助は俺の顔をしばらく見るめると無邪気に笑った 「だって急に作兵衛に会いたくなったから!」 「……はあ?」 「なんか無性に作を抱きしめたくなって、縄切って会いに行こうとしたらここにいた」 まあ結果オーライ? となんも悪びれる様子もなく言いのけ俺に抱きつく三之助を一発殴っておく、お前のおかげでこちとらぼろぼろなんだよ そこでやっと三之助の口から謝罪の言葉が漏れる、その言葉は体育委員に言ってくれ というか理由が理由なので俺は強く怒れなかった、惚れた弱みってやつだろうか 無性に君に会いたくて その後体育委員が駆けつけてくれて滝夜叉丸先輩が説教してくれました 戻る |