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▼ハガレン→進撃05

 右の手の甲には錬成陣、これはまあいい。問題は左腕の機械鎧。
 これを見られるとまずいので風呂に入るのはいつも最後に、一人で入っていた。掃除当番の子には悪いが入浴時間はちゃんと守っているので問題はないだろう。
 普通ならば大人数が入った後の湯船に浸かるのは憚られるが私には錬金術がある。手を合わせて湯船の中の不純物を取り除けばいつでも綺麗な風呂に入れるという訳だ。
 今日もまた一人でゆっくりと湯船に浸かっていた。機械鎧は防水化工が施されている物を使用しているが、一応湯に付けぬよう気を付け、濡らしたタオルで機械鎧の汚れを拭いていた時だった。

 がらり。風呂場の扉の開く音がして、近づく気配に気づけなかったとか、機械鎧を隠し忘れたとか、そういうのよりも入ってきた子の腹に目が行った。

「ミカサすごい、腹筋割れてるのね」
「……ああ。私は筋肉が付きやすい、体質らしい」

 私も長らく軍属だったが腹筋が割れたことは一度もなかったのでちょっと羨ましくある。私と同じく軍属の女性で腹筋が割れている者は少なかったのを覚えている。ミカサの言うとおり、きっと彼女は腹筋がつきやすいタイプなのだろう。
 髪と体を洗い、湯船に浸かったところでミカサは私の腕に目をやり、首を傾げた。それはこの世界に機械鎧、つまりは義肢の概念がないのを意味していた。
 風呂場に入った時確実に見えていたのに何も聞いてこなかったから、てっきり義肢という概念があるのだと思ってしまった。

「これ? 義手、って言って伝わるかわからないけど……」
「……それは腕なの? 機械なの?」
「うーん、機械で出来た腕って言うのが正しいわね」

 とある事情で腕を失い、機械で出来た腕の代わりを付けているのだと説明すればミカサは納得してくれた。
 それから恐る恐る機械鎧に触れ、ゆっくりと撫で始める。時折きゅっきゅと、金属が擦れる音が風呂場に響いた。
 珍しく入浴時間が遅れたのはどうやらエレンの居残り特訓に付き合っていたかららしい。

 いつお偉いさん方に目を付けられ面倒なことになるかわからない為この腕のことは誰にも言わないでほしいと頼めば、ミカサは少しの沈黙の後にゆっくりと頷いた。

「……名前が知られたくないのならば、他言しないと誓おう」
「ありがとうミカサ」

 私が笑みを浮かべるとミカサも照れたように微笑み返してくれた。
 そろそろ上がろうかと提案し二人で脱衣所で体を拭いていると、ミカサがじっと私を見ていることに気が付いた。どうしたのか尋ねると彼女は私に、一つだけ質問をしたいと言う。

「ええ、私が答えられる範囲なら何でも聞いて」

 口数は少ないけれど言いたいことはちゃんというミカサが珍しく戸惑いがちに口を開く。

「……名前は東洋人、なの?」
「ええ、そうよ。ミカサもそうなの?」
「母親が東洋人で、父親は違う。だから半分だけ、東洋人」

 ということは、ミカサの母親は純血東洋人となる。この世界に来てから東洋人というだけで様々な人間に襲われた経験がある。
 尤も、私には自分の身を守る術を持っていたから、無傷で生きてこれたが、ミカサやその母親はただの一般人だったはずだ。きっと苦労という一言では表わせきれないほど辛い思いもしてきただろう。

「ミカサ」
「なに……?」
「東洋人の血が流れていることを、不快に思わないで欲しいの。こんな世の中では東洋人は辛い思いしかしないだろうけど、私は東洋人として生まれて良かったと思っているし誇りも持っている。だから、身勝手な話かもしれないけど、東洋の血を嫌わないでほしい」
「……私は、東洋人を嫌いになったりしない。母親も、もちろん名前も」


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