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▼はるなラクーン 參

 ぴんぽーん、インターホンが鳴りマックスとその知り合いが来たのだと確信した、元気になった春奈と共に玄関へ行く

「や、鬼道、連れてきたよ」

 玄関に立っているマックスは飄々たる態度で俺たちを見ていて、その眼からは感情が読み取れない、つまりはいつも通りとらえどころの無いマックスということだ
 マックスの隣にいたのは俺たちよりも遥かに幼い少女だった、豪炎寺の妹よりも幼いのではないかと思われる少女が俺たちの目の前に立っていた
 こんな幼い少女が原因不明の病を治せるなんてにわかに信じがたい、春奈もそう考えたのか不安が顔に表れている

「えっと、君が……?」
「少年、人を見た目で判断してはいけないわ」

 俺の態度を咎めるその瞳は俺たちよりもしっかりとしたものを見据えており、言葉の通り見た目だけで人を判断していた自分の先入観を改めさせられた

 とにかくマックスと少女を部屋に案内すれば女の子らしい可愛い部屋ねと春奈に笑みを向ける、それ微笑みに春奈が安心したように笑みを返した
 俺たちが床に座ったのを見て正面に少女が、三人の横に仲裁に入るような形でマックスが座った、少女は俺と春奈を交互に見やり眼を瞑ると一つ頷く
 それをじっと見ていた春奈が俺に目線を移したのを合図に俺は口を開き、始めに聞いておきたかった事を質問した

「あの、貴女は霊能の専門家か何かなんでしょうか……?」
「私は少しばかり怪異の知識があるだけで専門家ではないわ」
「怪異?」

 怪異、どこかで聞いたことがある、物の怪や妖怪の類と言った幽霊でも生き物ではない存在、しかしそれは古い迷信であったりただの都市伝説といった所謂噂話に過ぎず実際には存在していない物だとも聞いた
 そんな信憑性の無いものが今の流れで彼女の口から出てくるのかが不思議で仕方が無かった、まるで春奈がその怪異とやらに取り付かれているとでも言いたいのか
 しかし病院でも原因が分からなかったし原因と思われるのが狸の置物だ、物の怪や霊的なものと考えるのが妥当なのだろうか

「私の見たところ眠り狸に化かされて三週間程度って感じだね」
「眠り狸、ですか……?」
「うん、そう」

 眠り狸、彼女曰くその怪異が取り付く原因となったのはやはり春奈が倒して壊してしまったという狸の置物だそうだ、狸を模した陶器の置物を住処にするといわれている怪異であり壊した者に取り付きその睡眠時間を食べるのだという
 徐々に食べる量が増していきそれに比例して取り付かれた者の睡眠時間も長くなるという厄介な怪異で一度の睡眠時間が二十三時間に達してしまうとそれ以降永遠に眼を覚まさなくなり、文字通り生きた屍と化すのだそうだ
 だから今日の睡眠時間を気にしていたのかと納得したと同時に、今日で十八時間ならあと一週間も経たないうちにその子は永遠に生きた死体になっていたわよ、と言われその言葉を聞いた瞬間に春奈が小さな悲鳴を上げ俺の身が凍った
 本当にあの時マックスに相談してよかったと胸を撫で下ろす、しかしながらまだ怪異が春奈の中に存在している現状で、安心するのは早いだろう

「よし、さっさと怪異を退治しちゃいましょうか」
「あの、よろしくお願いしますっ……!」
「俺からも、よろしくお願いします」
「じゃあ春奈ちゃんはベッドに横になって……、君たちは部屋から出てってね」

 男子お断り、そう俺とマックスに向けられた指を部屋の扉に向けた、春奈がベッドに横になるのを尻目に男二人は静かに部屋を出た

「……」
「大丈夫だよ鬼道、あの人に任せておけば」

 マックスの言葉が俺をひどく安心させた、もう春奈は大丈夫だという確信が生まれた


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