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▼はるなラクーン 壹

 その異変に気づいたときはすでにその怪異に半分以上飲み込まれていたようだ、大切な妹一人も守れない無力な人間だと思い知らされた

「はいお兄ちゃん、ドリンク」
「ああ、ありがとう」

 いつもの元気がここ最近の春奈には見られなくどうもおかしいということに気づいた
 いつものようにマネージャー業にこなしているがどこかおぼつかない、些細なミスが目立つようになってきたので当初は疲れがたまっているのかと思っていたがそれも違うようだ
 最初こそ終始うとうとと眠たそうにしているので、春奈と同じクラスの壁山にも話を聞いてみたら授業中もたまに居眠りをしているようなのだ、しかしただ夜更かしでもして寝不足なだけだろうと思っていた

「春奈、最近眠そうにしているが寝不足なのか?」
「うーん、ちゃんと寝てるんだけど寝たりないっていうか……」

 春奈も最初はただの寝不足と考え早めに寝るようにしていたのだがそれでは治らないどころか日に日に睡眠時間が増えていく一方、疲労や何かが溜まっているのだろうと考え一度大きな病院に行って診てもらうのを勧めた
 数日後に病院で受けた検査の結果からは何一つ原因が見当たらなかったみたいだ
 病院でも原因が分からなかったということでそれ以外に心当たりは無いか春奈に問いただしてみれば一つだけ思い出したようで、ばつが悪そうに話し始めた

「……あのね、この前帰り道で間違って狸の置物を壊しちゃったの」

 軒先にあったわけは無くたまたま通りかかったバス停に置いてあった手のひらサイズの狸の置物だったそうだ
 名前も書いておらず誰の持ち物かも分からなかったのでとりあえず手を合わせて拝んでおいたそうだが、何やら不気味だったのでよく覚えていたらしい
 俺も原因はそれだと感じたのだが元々霊などの非科学的なものを信じる性質ではないのでにわかに信じがたい、しかし今はそんなこと言っている場合ではない
 どうしたものかと部活が始まる前早めに部室に来て悩んでいるとマックスが入ってきた、掃除当番ではなかったので早く来たのだと笑っているマックスを見て思った
 彼もまた、ある一定の期間ではあったが体調を崩していたので何か参考になるかも知れないと、尋ねてみた

「マックス、以前体調が悪いと言っていた時期があったが原因は何だったんだ?」
「……どうしてそんなこと聞くの?」

 向かいに座ったマックスに質問をしたらいつものにこにことした表情が一瞬にて歪んだ
 何か悪いことでも言ったのだろうか、しかし今は春奈を治すことが最優先事項だ
 春奈が原因不明の睡魔に襲われていることを話した、いくら寝ても寝たりないということを言えばマックスに病院に行けばと言う
 なので俺はすでに病院で診てもらっていてそこでも原因は見つかっていない旨も伝える

 俺の話をただ静かに聞いていたマックスが口を開く、何か原因と成り得ることはなかったと、そこで俺は数週間前に春奈が誤って狸の置物を壊してしまったということ、全てを話した
 全てを聞いたマックスが数回頷いてもしかしたら治せるかもしれないと呟いた、
 俺はマックスに掴みかかった、名の知れた医者でも治せなかったものを治せると聞いて喜ばない者はいない
 しかしマックスがそんなこと出来るなんてさすが器用だなと感心していると治すのは僕じゃないと言われてしまう

「そういうのに詳しい人が知り合いにいるんだ」
「なるほどな……、となるとその人はイタコの類なのか?」
「んー、多分違うと思うよ」

 僕がお世話になったときはそんな感じじゃなかったし、と口元に笑みを浮かべたマックスに俺はただただ安心するしかなかった
 その後円堂たちがわらわらと部室に入ってきてこの話はここで終了となったのだがマックスは携帯を片手にどこかへ消えていった、先ほどの知り合いとやらに連絡を取ってくれているのだろう


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