×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▼くうすけクロウ 參

 いつものようにマックスと二人で帰路に着いて例の住宅街に差し掛かったときだ、やはりあの時のようなカラスの集団は存在せず怪しいものがないか周りを探してみたが何一つ手がかりが見つからなかった、仕方なく諦めて帰ろうと夕焼けに向かって歩き出そうとしたときにその声は俺たちに話しかけた

「貴方、怪異に取り付かれているわよ」

 声のする方を見やれば塀の上に座ってこちらを見ている少女がいた、綺麗な顔立ちをしているその子は背格好から見て俺たちと同じくらいの年だろう、俺とマックスがお互いを見合ってどちらの知り合いでもないことを確認しているとその子はひょいと塀から降りてマックスの元へと歩いていった

「えっと、君は……?」
「私はただの通りすがりだけど、貴方たちよりは怪異の知識は豊富よ」
「怪異?」

 マックスを下から上へ全身を確認するように見やったその子は、厄介な怪異ね、と口元に笑みを浮かべた、怪異という聞きなれない言葉に二人そろって首を傾げれば親切に怪異とやらの説明をしてくれた

 怪異というのは都市伝説や怪談話などの信仰や噂によって生まれる俺たち人間とは異なる存在、大体は病気などの体調異常や体質改変や催眠効果等として影響が出てくるそうだ
 初対面の謎の女の子の言葉なのに全てを信じられるような何かをその子は持っていた、説明を聞き終わったマックスが自分がおかしいのはその怪異のせいだと彼女に問えば答えは肯定
 そんな小説のようなことが起きてしまっているのかと頭が多少混乱したがあの時の虚ろな眼が何よりの証拠だ
 彼女に促されどうしてこの状態になってしまったのか思い当たることはないかを事細かく話した、あの日カラスの群れの中一羽のカラスがマックスの頭に乗って一鳴きして一斉に飛び立ったこと、気のせいかも知れないがそのカラスが真っ白であったこともきちんと話した
 俺らの話を聞き終わった彼女は少し考えた後に思い出したように頷いた、それから再びマックスの全身を見てから口を開いた

「君って飽きっぽい性格?」
「そうだけど、何で分かったの?」
「影烏に休まれる人は飽きっぽい人が多いの」
「かげからす……?」

 影烏は取りついた人間を少しずつ知らないうちに苦しめていく怪異らしい、一つのものに興味を示さない人が一つのものに執着を見せたときに取り付くと言う、なので飽きっぽい人に取り付きやすいとのこと
 その姿は普通の烏とは違い真っ白で取り付く人間の頭で羽を休めるのだと聞き、まさにあの時の状況と同じだったのであれが怪異だったのかとあの闇のような瞳を思い出して今更ながらにぞっとした
 その怪異に取り付かれたらどうなるのかマックスが聞けば、サッカー以外のことに対する興味が一切断たれやがて食事や排泄その他生命に関わること全てに対しての意欲がなくなり寝る間も惜しんでサッカーをするようになる、最悪の場合病院で植物人間状態になるかそのまま死ぬかという運命を辿るのだと答えた
 授業内容を間違えてしまうほどサッカーにのめりこんでいた時点ではまだ大丈夫な状態であったのだ、自分がそんな状態になっていたことに恐怖を覚えたのかマックスが彼女に懇願するように彼女に嘆願した

「お願い、助けて……!」

「ええ、いいわよ」

 やけにあっさりとした返事で拍子抜けてしまったが助けてくれるのに越したことは無い、とりあえずもう空が暗い上に住宅街でそういったことを行うのは目立つのでどこか閉鎖的な場所はないかと聞かれたので明日の部活後にサッカー部の部室でということになった
 まだ怪異の侵食が浅いので明日の放課後までくらいならばマックスも耐えられるようだ、彼女にサッカー部室の場所と時間を細かく伝えれば分かったと言ってどこかへ去っていった
 明日来てくれるなんて保障はどこにも無かったが彼女は嘘を吐かない人だと本能が分かっていた


<< 戻る >>