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 ※夢主は765プロ所属アイドル。




 今日は一日お休みを貰えた。と言っても私は貴音やあずささんとは違って現役の学生、アイドルの仕事がない平日は学校へ行かなくてはいけない。
 張り切って朝早くから行こうと思っていたが見事に寝坊して、ようやく着いたのは至って普通の時間帯だった。
 それでも学校の友達に会える喜びで心が弾む。がらりと教室の扉を開ける。

「あ、名前。久々じゃん、おはよう」
「名前ちゃんおはよ〜」
「二人ともおはようっ」
「そうだ、この前の音楽番組観たよ〜!」
「あたしCD買っちゃった!」
「わあっ、ありがとう!」

 普段仲の良い子たち以外、気を使ってくれているのか余り話しかけては来ない。
 アイドルをやっているとプライベートなんて無いも同然という人が多い中、理解のある人たちばかりで正直助かる。
 友達との会話を楽しんで自分の席に着こうとしたした時だった。誰よりも明るい声が私を呼ぶ。

「名前おはようございます!」
「茜! おはようっ」
「」
「そうそう、名前がいない間に席替えしたんです! 名前の席はここっ、なんと私の真後ろ!」
「茜の後ろってことは……悪戯し放題?」
「そ、それはダメですよー!」

 茜が大袈裟なくらいに腕を交差させバツマークを作るものだから私は思わず笑ってしまった。
 茜は小学校からの友達で、元気を絵に描いたような可愛い女の子だ。茜と貴音の前でだけは本当の自分を出せる気がするのだ。それだけ心を許している存在だと感じている。
 彼女の後ろの席に座り教科書を机の中へ入れていると教室の扉が再び開き見知った人物が入ってきた。近くにいた女子が彼に声をかける。

「あっ、冬馬君おはよう」
「おはよう冬馬くん」

「ああ、はよ」

 今し方教室に入ってきた彼は同級生であり961プロに所属していたアイドルでもある天ヶ瀬冬馬くん。
 彼は女子たちの言葉に少々素っ気なく返事をして私の隣の机にカバンを置くと、すぐ隣に私が座っているのに気付いたようだ。すぐに二度見して、ぎこちなく椅子に座った。
 私が学校に来れる時間は確かに短い。だからと言って二度見する程珍しい事ではないだろうに。
 どうしたのだろうと疑問符を頭の上に浮かべていれば意を決したように彼がこちらを向く。朝の騒がしい教室内にも関わらず彼の声は妙にはっきりと聞こえる気がした。

「その……色々と悪かった」

 言われて気づいたが彼が961プロを辞めてから、こうして面と向かって会うのは今日が初めてだった。

 961プロの黒井社長は汚い手を使って765プロを始めとするアイドル事務所を裏で妨害し、自分の事務所のアイドルを押し上げていたのだ。しかも765プロを弱小呼ばわりする割に何かと765プロに突っかかってくる迷惑な人。
 そんな社長のやり口を知った天ヶ瀬くんたちジュピターは事務所を辞め、今は違う事務所でアイドルを続けている。
 知らなかったとは言え、黒井社長が765プロにやってきた事に対する罪悪感が彼なりにあるのだろう。

「ううん、気にしてないよ。それより、今の事務所にはもう慣れた?」
「ああ、規模は小さいがみんなで頑張ってるぜ」
「そっか、なら良かった」

 笑みを浮かべた彼に、私も自然と顔を綻ばせる。

 冬馬くんが新しい事務所見つけたのだと春香から聞いた時、彼がアイドルを辞めずに済んだことに私はほっとした。
 以前、765プロの子たちは彼を嫌味な奴だと言っていたが、私にはプロとしての自覚や覚悟が人一倍強いんだと思えた。
 たからこそ私は彼を、天ヶ瀬冬馬という人物を一人のプロとして、その姿勢や志しの高さを尊敬している。

「ただ、今はあんまり仕事が来づらくてな。ここ最近は学校に来る時間が多いな」
「大丈夫。冬馬くんならまた沢山仕事が来るようになるよ」
「……」
「? どうかした?」

 私の言葉を聞いた途端に目を見開き急に顔を背けてしまった彼に小首を傾げる。

「いや、その……名前……」
「あっ」

 言われて気づいたのだが、いつの間にやら私は彼のことを名前で呼んでいたのだ。
 今まで天ヶ瀬くんと呼んでいたのを、他の女子たちにつられてつい冬馬くんと呼んでしまっていた。

「そ、そうだよね、名前で呼んじゃって。ごめんね。嫌だよね……」
「い、嫌じゃない! むしろ嬉しいっていうか……って何を言ってんだ俺は!」

 彼がいきなり立ち上がって叫んだものだからクラス中の視線が彼に集まってしまう。
 職業柄見られることには慣れているはずなのに状況が状況だからか冬馬くんは少し恥ずかしそうに、早急に腰を降ろした。
 しばらくして教室内は賑やかさを取り戻したが、椅子に座った彼は少し疲れた表情で短く息を吐いている。

「大丈夫?」
「……ごめん、今のは忘れてくれ。とにかく嫌ではないから、別に名前で呼んでくれて構わねぇから」
「うん。……冬馬くん、今度ライブやる時は教えてね、絶対見に行くから」
「お、おう……あの、俺も……」

「ほら席着け。ホームルーム始めるぞー」

 冬馬くんが何か言おうとした時、タイミング悪く先生が教室に入ってきてしまったため会話は打ち止めとなってしまった。何を言おうとしていたのか気になるなぁ。
 ちらりと冬馬くんを盗み見れば、彼もこちらを見ていたようでばっちりと視線が合う。逸らそうか悩んでいると冬馬くんの方から視線を外して俯いてしまった。
 彼の頬がじわじわと赤くなっていくのを見て私は柄にもなく緊張してしまって、彼から視線を外し熱くなってゆく頬を誤魔化すように手で押さえた。


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