Crying - 410

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 失踪した二人の手掛かりをつかむために、階下へと向かう。
 階段の途中で、身支度していたカイルと目が合った。

「本当にすみません。町の人達が失礼を……」
「いいえー。みんないなくなった子供達が心配なんでしょう」
「でも、サクラさんと名前さんまでいなくなってしまって……」
 視線を落としたカイルの手元――テーブルの上には黒い鞄が乗っていた。

「診察ですか?」と小狼が確認する。
「残った子供達の様子を見てこようと思って」
 返ってきたのは、常に子供達を案じている医師らしいものだった。
 身支度しているカイルに告げて、外へと出る。と、待ち構えていたかのように自警団の男がこちらに向かってきていた。

「どこへ行く!」
 勝手な外出を阻む為だろうが、あまりにも露骨すぎる。その背には変わらず猟銃を携えていた。
「いなくなった子供達とオレの妹達の手掛かりを探しにー」
「一緒に行くぞ! おまえ達だけで行動させたら何しでかすか分からないからな!」
「んー」とつかみどころない顔を浮かべたファイが受け流す。
 不審者扱いを徹底しているらしい。

「ああ?」
 黒鋼は聞こえないとばかりに耳を穿っていた。
 そこに無言の小狼が男に詰め寄る。
 小狼の無感動な顔に男がたじろいでいた。
「な、なんだよ!」と振り払うように男が大声を出す。
「聞きたいことがあるんです」
 小狼の冷めた声に、誰とはなしに歩き出した。


「ここ数年、凶作だと町長に伺いました」
 後ろを歩く小狼がその隣に立つ男に話を促す。
「ああ。自分達が食うので精一杯だ!」
 無愛想な声にファイは、それもまた自分達に敵意を向けられる一つだとしみじみ感じていた。

「この町の土地って殆どグロサムさんのものなんですってー?」
「借りた土地代はどうしてんだよ」
 先頭を行く黒鋼が頭だけで男を見やる。

「待ってもらってる!」と男は苦々しげに吐き捨てると、歯を食い縛っていた。「カイル先生がグロサムさんに掛け合ってくれたんだ! 先生が言ってくれなかったら今頃、俺達はこの町を出なきゃならなかったかもしれないんだ!」
「へー」
 そういう経緯もあってカイルはこの町で絶大の信頼を得ているのか。

「ってことはグロサムさんはここ数年、あんまり収入的にイイ感じじゃないとー」
 益々、怪しさの増すグロサムにファイは口元を歪めた。
 町人は自分が感じていることと同じことを思っているのだろう。
 だからか、グロサムは孤立しているように見えた。

「おまえ達馬を持ってただろう。何で乗らないんだ!?」
「馬からだと見逃しちゃうでしょうー」
「だめだな。夜通し降った雪で足跡は消えてる」
 しゃがみ込み雪を調べていた黒鋼が立ち上がる。
 足跡を辿って二人にたどり着けるほど、簡単な話ではないらしい。

「町の周辺は既に探されてますよね」
「当たり前だ!」
 冷静な小狼に、男が一際大きな声で喚き散らし、
「わー、声おっきー」とファイは両耳を手で塞いだ。
 これまでずっと怒鳴るばかりの男に、黒鋼は顔を引きつらせていた。

「城のほうはどうですか?」と小狼が城の方角を指差す。
「城の手前までは探した! けどあの川があるから向こうへは渡れない! おまえらなんでこんなに冷静なんだ? 旅の仲間がいなくなったんだろ?」
「少なくともあのガキに関してそう見えるんなら、お前の目は節穴だな」

 小狼とともに城の周辺を見ていたファイは、黒鋼の冷え切った声に安堵していた。
 ――オレは入ってない
 黒鋼は無愛想な割に変化に敏い。
 ファイは自分で気づきたくない感情を黒鋼に見抜かれたくなかった。



 ――――

 線の細い声に名前は瞼を開いた。
 ――寒い
 身を震わせながら辺りを見渡すと、目を瞠る桜が目に飛び込んできた。
 視線の先には肖像画がかかっており、そこには美しく微笑む金の髪の姫の姿が収められている。
 暖かく微笑む姿は、暗い室内を照らすかのように綺麗なままだ。

 冷たい石の壁に囲われた狭い室内には七つのベッドが用意されているが、どれも老朽化し埃かぶっていた。
 城、かな。
 立ち上がった拍子に鎖のかち合う音がし、足首に違和感が生じる。
 どうやら閉じ込められているらしい。
 履いていた靴がなくなり、代わりに足枷がつけられていた。
 それは桜も同じらしい。

「ケガはありませんか?」
「わたしは。名前さんは!?」
「大丈夫です。なんともありません」

 しかし、いったいどうなっているんだろう。
 確か、子供達を追っていて――
 名前はハッと我に返った。
「グロサムだ――!」と慌てすぎて噎せ返りそうになる。「彼が犯人です! 私たちを閉じ込めたのも彼だ」
「そんな、グロサムさんが……」
 驚愕に瞳を揺らす桜に、名前が木製のドアへと足を進める。

 幸いなことに鎖は長く、部屋の中ならば際限なく移動できるようだった。
 ふいに響いた奇妙な音に桜と顔を見合わせる。
 ドア上部に空いた格子つきの半円形の穴から外を覗きこんだ。
 煤けた服を身に纏った失踪したはずの子供達が、裸足のまま通路を歩いていく。
 中には昨日の夕方診察を受けていた女の子の姿もあった。
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