Crying - 108

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 ――店外へ出ると、
「おいしかったー!」
 嬉々とした様子でモコナが口にした。
 つられたように皆の口元がほころぶ。

「教えてくれてありがとう。ほんとにおいしかったです」
 礼を言う小狼に正義もまた満足げに笑っていた。
「さてと、これからどうしよっかー」
 誰からともなく歩き出したものの、見知らぬ土地を眺めながらファイが言った。

「もう少しこの辺りを探してみようと思います」
「んー、でもオレ達この辺分かんないから遠出できないねぇ」
 小狼の目的としては当然だろうけれど、帰り道を見失ってしまっては本末転倒だ。それでも探さなければ彼の願いには近づけないこともまた事実だった。
 思案に暮れる小狼に、隣でまごついていた正義はようやく声をかけた。

「あ、あの! どこか行かれるんですか!?」
「はい」
「場所はどこですか?」
「分からないんです。探してるものがあって……」

「だったら僕も一緒に探します! 案内します」
「でも御迷惑じゃ――」
 小狼が躊躇するも、正義は、
「全然!」と意気込むと、自宅に連絡するため息つく間もなく公衆電話に駆けて行っていた。

「ほんとに憧れなんだねぇ」
 微笑ましげに笑ったファイに、小狼が気恥ずかしそうにする。
「そう言えば話が途中になっちゃってたね。夢を見たんだって?」
 ファイの発言に名前は胸の辺りを抑えた。

「はい。さっき出て来たあの炎の獣の夢です」
「妙な獣の夢なら俺も見たぞ」
 子供向けのショーウィンドウをまじまじと見つめていた黒鋼が口をはさむ。
「オレも見たなー。なんか話しかけられたよー」
 どうやら全員に心当たりがあるらしい。


「“シャオラン”ってのは誰だ!?」
 突然飛んできた声に話が途切れる。
 声の先には、黒いサングラスをかけ、黒いスーツに身を包んだ背の低い小太りの男が仁王立ちで立ち塞がっていた。
 首魁らしいその鶏冠頭の背後には同じ恰好をした細身の連中が整列している。
 縄張り争いの一端を買っていそうな集団にファイがゆったりとした声で答えた。

「なんか用かなぁ?」
「笙悟が“気にいった”とか言ったのはおまえか!?」
「だとしたら?」
 毒気なく笑うファイに、
「人違いですね」と名前はぼそっと呟いた。


「小狼はおれです」
 馬鹿正直に前に進み出た小狼に首魁の男が面食らう。
「こんな子供か! ほんとに!?」
「ほんとっす! 間違いないっす!」
 首を縦に振る子分らしき痩身の男に、眉を引き攣らせながら声を張り上げた。

「笙悟のチームに入るつもりか!」
「チーム?」
「笙悟んとこはそれでなくても強いヤツが多いんだ。これ以上増えたら不利なんだよ! 笙悟が認めたんだ! おまえらも相当強い巧断が憑いてるんだろう! もし笙悟のチームに入るつもりなら容赦しないぞ!」

 ビシッと指差した男に、
「入りません」と小狼が断言し、集団に期待の色が浮かぶ。

「だったらうちのチームに入れ!」
「入りません」
 毅然とした態度で言い切った小狼に、首魁の男がわなないた。

「おれにはやることがあるんです。だから――」
「新しいチームをつくるつもりだな!」
「いえ、そうじゃなくて」
「今のうちにぶっ潰しとく!」
 頭に血が上った男が、小狼の声を遮るように怒鳴りつけた瞬間――ゆうに2メートルはある巨大なカブトガニが頭上に姿を現した。

「でっかいねー」
「おれはそんなつもりはありません!」
 感嘆するファイとモコナの隣で小狼が叫ぶ。が、出現したカブトガニは小狼目がけて長い尾を薙いでいた。しゃがみ込み間一髪で避けたものの、太い柱がごっそりと抉られていた。

「聞く耳持たないって感じだね」
 余裕そうに見ていたファイが前に出ようと身を乗り出すが、行く手を黒鋼の腕が遮る。
「ちょっと退屈してたんだよ。俺が相手してやらぁ」
 不敵に笑う黒鋼に、名前の頭上に乗っていたモコナが笑った。

「黒鋼さっきまで楽しんでたー。退屈なんてしてないない」
「満喫してたよねぇ。阪神共和国を」
「まるで子供みたいでしたね」と名前がファイに続き、
「うるせぇぞ、そこ!」
 噛みつかんばかりの勢いで黒鋼が指差していた。


「けど、黒鋼さん、刀をあの人に……」と小狼が表情を曇らせる。
「ありゃ破魔刀だ。特別のな。俺がいた日本国のいる魔物を切るにゃ必要だが、巧断は“魔物”じゃねぇだろ」
 ぶっきらぼうに説明した黒鋼に、名前は自分の耳を疑った。

「日本国? 私がいたのも日本です。あなたがそうなのですか?」
「あぁ?」
「“持ち主”なんでしょう?」
「なんの話だ? つか、今それどころじゃねぇだろ」

「箱……、時計の埋まった箱です! 知っているのではないのですか?」
「知らねぇよ。いいから、引っ込んでろ」
「でも、日本に――」
「はい、そこまでー」
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