;5




どうして一緒にいるの、と真っ直ぐに訊かれることが多々ある。猫と話すなんて奇特なニンゲンは少ないけれども、猫に話しかけるニンゲンは結構いるものでなかなかの人数に訊かれていると思うのだが、その実自分で不思議に思っていたりする議題である。
心配だから。見張るため。可哀想だから。暇だから。嫌いじゃないから。自分に、蓮に似てるから。
全てが後付けのようにしか聞こえずに、ただ一緒に同じベッドで眠る。隣を歩くことはできないから鞄に入る。口達者な彼と冗談ばかりの身のない会話をする。弱音の代わりに悪態をつくのを窘める。
邪魔だの穀潰しだのゴミだのと結構なことを言ってくるのに、出て行けとだけは言わないから。一緒にいる、なんて表現よりももっと曖昧にここにいる。
猫だから、こんなにも曖昧なのだろうか。隣を歩く二本の足や、傷を手当してやる指や、同じものを食べる口があれば違うのだろうか。
でも、猫だから肌をくっつけて寝たりなんかしているのだろうか。
彼はワガハイに何を許しているのだろうか。
それはともかく、猫一匹飼えないと一様に判断されるアケチは少し面白いと思っている。

「おい、猫」
「モルガナ!だ!」

大仰に呼び付けるアケチに文句を言いつつ、その膝に飛び乗る。硬いそこで丸くなって落ち着いてやれば当然の顔をして撫でられた。動物なんて触り慣れていない手つきは気持ち良くはなく、一度手を殴り付ければ首の皮を摘んで仕返しされる。それでも膝から退かずにいてやれば、少し柔らかく撫でられたからそこに落ち着いてやった。
ほぼ無言でいるあたり機嫌が悪くは無いのだろう。仕事ではなく大学の資料らしいちまちました紙の束を睨んで楽しくもなさそうな顔をしている。ワガハイを撫でていてその表情なのかと不満が募るがまあ許し、ついでにひたすら睨みつけられているその紙へ目を向けた。成程つまらない内容だ。要領のいいアケチならそう時間は掛からないだろうけれども、ともかく手間ばかりとられそうな。
面白みのないそれから目を離して開きっぱなしのパソコンの画面を見れば、資料なのか調べ物をしている痕跡がみっちりと表示されていて、つまらなそうなそれの間を縫ってちらちらと広告が移り変わっていく。テレビのCMのように起承転結もないそれらだけれども法則性を探すのはなかなか楽しいのものだ。チカチカと移り変わる写真はメインであろう風景よりも値段が大きく目立つように書かれている。海やら山やら、格安旅行のプランの広告。

「なあ、そのうちどっか遠出しようぜ。こんな辛気臭い部屋にばっか居ても気が滅入るだろ」
「そうだね、無愛想なイケメンが猫とだけ会話しても目立たないところに行って羽を伸ばしたいなぁ」
「お前、ホント、すげーよな……」
「大丈夫。ペットならブサくても需要があるんだよ」
「はあ?ワガハイだって猫界じゃ……いや猫じゃねーし!」
「あー、ゆっくり温泉とかいいかもなぁ。ペット不可だったらお前野宿な」
「あぁ?忍び込んでやるから叱られる覚悟しとけよ」

人に好かれようと磨かれた「明智吾郎」をちらちらと混ぜる割には顔は気だるげだ。本格的に休むべきじゃないだろうかと思うけれどもそんなこと言ったら意固地になるだけだろうし、前の同居人となんとも真逆だ。似ているのは無理をするのに迷わないところだろうか。
膝の上で転がって、尻尾をビタビタ叩きつけてやったけれどもそれでも今日はどかされることはなかった。





- 5 -


*前 | 次#




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -